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2022年9月22日

ロボティクスが外食産業に与える影響と可能性

デジタルコンサルティング部 伊藤 慎一郎

外食産業が抱える課題

新型コロナウイルス(COVID-19)が世界に与えた影響は大きい。人々は、非接触などの新たな生活様式に変わることを余儀なくされ、このような状況に最も影響を受けたのは、「外食産業」であろう。

政府から緊急事態宣言が発令され営業時間短縮や酒類の提供禁止になったことに加え、新型コロナウイルスの主な感染経路に飛沫感染があることから、人々は外食することを避ける傾向にあった。そのため売上が伸びず、外食産業として苦しい時期が続いた。最近では外食する人の数は回復しつつあるが、これまでと同じように食事をすることは難しく、サービス提供時に人との接触を減らすことが求められている。

また、人材不足という課題は新型コロナウイルスによってさらに悪化した。パンデミック化する前でも、外食産業において人材不足という課題は存在していたが、外国人労働者の雇用などで補完するような対策が講じられていた。しかし、新型コロナウイルスが拡散したことで諸外国との門は閉じられてしまい、外国人労働者の増加率は大きく減少。そのため対策が打てず、人材不足は深刻化している。

このような外食産業が抱える課題に対して、ロボティクスを活用して解決を行う動きが見られる。既存企業から新興企業までそのアプローチ方法はさまざまであるが、各取り組みの内容やその影響、今後の可能性について整理する。

外食産業に導入されるロボット

外食産業では、主に以下の3つの工程(STEP1~3)でサービスが展開されている。STEP1やSTEP3は店舗で実施されることもあれば、セントラルキッチン(集中調理施設)で実施されることもある。各工程において、どのようなロボティクスが活用されているかを見ていく。

図1

1STEP1:材料を調理する(調理ロボット)

調理を行う本工程においては、従来、ベルトコンベアなどを駆使して「焼く」「揚げる」「蒸す」などの作業を自動化し、効率化を実現してきた。この方式は、現状も変わらず高度化が進んでおり、複数の作業を1つの製品で実現するものも存在する。

一方で、近年ではロボットアームに代表されるような最先端のロボティクスを利用し、人間の動きを再現する製品やロボット独自の最適な方法で調理を行う製品が登場しつつある。これらの製品は、フライドポテトやピザなどのファストフード分野を中心に、北米で導入が先行しているほか、欧州やアジアでの導入も始まっている。

2STEP2:料理を運搬する(配膳ロボット)

料理の運搬や片付けを行う配膳ロボットがファミリーレストランなどに導入されることも増えてきた。現状のロボットは、料理を所定の場所に運搬するまでとなっており、注文者がその料理を自身のテーブルに運ぶことが多い。最新の製品では、配膳ロボットにロボットアームを付加し、テーブルまで配膳してくれるものも発表されており、高度化が進んでいる。

配膳ロボットは、中国メーカーを中心にアジア地域での製品開発が活発である。それらの製品を、北米や欧州などの地域が輸入することで全世界的に導入が進み始めている。その活用範囲は、料理の運搬にはとどまらず、ホテルなどの宿泊施設でのコンシェルジュサービス、医療施設での薬などの運搬やインフォメーションサービスなど多岐にわたる。

3STEP3:食器を洗浄する(洗浄機(ロボット))

洗浄機(ロボット)については、ベルトコンベアを活用して、洗浄から乾燥を行うものが中心となっている。調理ロボットでは、ロボットアームのようなロボティクスを活用する製品が登場しつつあるが、洗浄機の場合は水を扱うことからこれらのロボティクスと相性が悪く、活用されている製品は少ない。そのため、ベルトコンベアを利用した従来製品の高度化の動きが多い。

前述の通り、ロボットアームを洗浄機自体に活用する製品は少ないが、洗浄機に食器を設置する動作に用いる取り組みが行われている。食品工場などでは、洗浄機に食器をセッティングすることを手作業で実施しており、その作業を省力化していくものである。まだ実証実験の段階で実用化までは至っていないが、本工程におけるロボットアームの活用についてさまざまな検討が行われている。

今後の可能性

各STEPで紹介したロボットはすでに導入されているものもあり、非接触の食事の提供や人材不足という課題を解決することに利用され、外食産業に与える影響は大きいと考える。こうした各社の取り組み状況を外食産業におけるロボティクスのカオスマップとして取りまとめた(下図)。縦軸について、上部は食品工場、下部は店舗などへの導入傾向があるということで分類している。

洗浄の全自動化などの高度な取り組みの場合、対象企業は少なくなり、その難易度の高さがうかがえる。高度な取り組みでは、最新のロボティクス技術なども必要となり、厨房機器の製品等を提供してきた企業単独での製品開発は難しい。一方で、ロボット開発を行う企業でも厨房機器や調理に対する知見が乏しく、製品を開発するまでには至らない。そのため、これらの企業はそれぞれの強みを活かすよう連携することで課題の解決を行っている。

外食産業でのロボティクス活用が増えていくには、企業や業界の垣根を超えた連携が不可欠なものになるであろう。連携にはお互いの情報を知ることが重要であり、これまでの概念にとらわれず多くの企業と接触する機会を増やすことが望ましい。このような動きが活発となり、ロボティクスが外食産業を支えるような時代が来ることに期待したい。

図2

出所:みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

  • *本カオスマップは、独自に作成しており、網羅性や正確性を担保するものではありません。マップに掲載されているロゴマークおよび会社名、製品・サービス名は各社の商標または登録商標です。

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