キービジュアル画像

企業に求められるカーボンニュートラル制約下におけるプラスチックに関わるサーキュラーエコノミー対応(3/3)

社会動向レポート

サステナビリティコンサルティング第2部 上席主任コンサルタント 佐野 翔一

  1. 1
  2. 2
  3. 3

5カーボンニュートラル制約下を想定した企業に求められるプラスチックに関わるサーキュラーエコノミー対応

上記3及び4に示した通り、近年、カーボンニュートラル制約下を想定した、プラスチックに関わるサーキュラーエコノミー対応を進める政府・企業の動きが見られるようになってきた。カーボンニュートラルと整合的な対応を計画する企業が登場しており、また、企業の取組状況の開示を求める動きも登場しつつある。今後こうした動きは活性化して行くと考えられる。そこで、これら動きに対応していくために、企業に必要と考えられるアクションを検討した。

①カーボンニュートラルへの移行計画においてプラスチックに関わるサーキュラーエコノミー対応を明確化

企業はカーボンニュートラルへの移行に向けた計画を作成していくことが必要である。先に示したNestleの事例のように、計画において、プラスチック対策を定量的に織り込むケースが登場している。こうした計画の策定を通じて、各企業において採用すべきプラスチック対策を峻別し、カーボンニュートラル対応とプラスチックに関わるサーキュラーエコノミー対応との整合を図ることができると考えられる。その際、計画で掲げる様々な対策間の関係について留意が必要となる。たとえば、プラスチックのリデュースを進めることで、リサイクル可能量は減少する。また、電気自動車の導入により店頭回収に伴う物流由来のCO2排出量を削減することができる。このように、プラスチック対策間、あるいはプラスチック対策と脱炭素対策の関係性にも留意し、一体的な計画を策定していくことが必要となる。

②企業間連携を通じた再生プラスチックの確保

プラスチック対策は再生材・バイオマス等の資源の取り合いになりうる。すでに一部の企業は、事業者との連携や再生材等の資源確保を始めており、囲い込みが加速している。2022年4月にプラスチック資源循環促進法が施行されたことにより、こうした状況はより一層進むと考えられる。また、プラスチック対策の内、製品に用いる素材の変更等の対策は既存のカーボンニュートラル対応の中心である省エネルギー対策の実施や再生可能エネルギーの導入と異なり、実施までに長い時間を要すると考えられるため、先行した対応が求められる。かかる状況を踏まえると、企業には早期に再生プラスチック等の確保に向けた早期体制構築が求められる。

③プラスチック対応の取組状況の開示

前述の通り企業によるプラスチックに関わるサーキュラーエコノミー対応への関心は、投資家の間でも高まっている。機関投資家によるエンゲージメントテーマにサーキュラーエコノミーやプラスチックが取り上げられるケースも登場しており、企業はプラスチックに関わるサーキュラーエコノミー対応の状況を開示していくことが求められる。前述の通り、2021年には、経済産業省及び環境省によるガイダンスが策定されており、同ガイダンスに則った情報開示を行う企業も登場している。今後、こうした動きは加速していくことが想定されることから、企業は情報開示に向けた準備を進めていく必要性が高まっていくだろう。その際、プラスチック等の素材の調達、使用や廃棄などに係る情報を統合的に整理し、また国際的な資源循環指標やサーキュラーエコノミー指標などの動向も踏まえ、自社における指標や目標を設定し、取組状況を開示していくことが望ましいと考えられる。

6おわりに

本稿ではカーボンニュートラル制約下において企業に求められるプラスチックに対するサーキュラーエコノミー対応について、政策動向や企業動向を踏まえて検討した。

前述の通り、現在は、カーボンニュートラルへの対応要請が高まっている一方、プラスチックを含むサーキュラーエコノミーへの対応要請はそれほど強くないことから、企業にとっては優先度が低く、両対応を同時に進めるのは難しい状況にある。他方、サーキュラーエコノミーへの対応は、カーボンニュートラル実現の有力な手段の1つにもなり得ることから、今後、カーボンニュートラルの様に、様々なステークホルダーからより一層対策を求められることとなる可能性がある。また、資源確保の観点で囲い込みが生じうること、製品設計や回収網等に影響を及ぼしうる取組であることから、バリューチェーンの再構築が必要となる可能性があるため、対策の実現に時間を要すると考えられる。こうした中で、企業はカーボンニュートラルへの対応との整合を意識しつつ、サーキュラーエコノミーへの移行を構想し、実行に移していくことが肝要であると考えられる。

  1. *1) 内閣官房「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画・フォローアップ」
  2. *2)IRP (2020). Resource Efficiency and Climate Change: Material Efficiency Strategies for a Low Carbon Future. Hertwich, E., Lifset, R., Pauliuk,S., Heeren, N. A report of the International Resource Panel. United Nations Environment Programme, Nairobi, Kenya.
  3. *3) https://www.nies.go.jp/whatsnew/20211215/20211215.html
  4. *4) 中央環境審議会循環型社会部会(第38回)資料1
  5. *5) サントリーホールディングス社ホームページ「FtoPダイレクトリサイクル技術」を用いた「FtoP 製造ライン」増設を決定(2022年8月2日閲覧)
  6. *6) ファーストリテイリング社ホームページ リサイクル素材から生まれた服(2022年8月2日閲覧)」
  7. *7) Nestle`s Net Zero Roadmap(2021)(PDF/8,100KB)
  1. 1
  2. 2
  3. 3

本レポートは当部の取引先配布資料として作成しております。本稿におけるありうる誤りはすべて筆者個人に属します。

レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。全ての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。

関連情報

この執筆者はこちらも執筆しています