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企業が真に取り組むべき人的資本経営とは(3/3)

社会動向レポート
狙い通りの経営を支援する人的資本ポートフォリオの構築

経営コンサルティング部 主任コンサルタント 佐藤 修平

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5結び

近年、無形資産への関心の高まりを背景に人的資本開示が脚光を浴びている。この潮流も影響し、多様な概念を含む「人的資本経営」という言葉が注目を浴び、その意図や内容が正確に理解されないまま、「なんとなく・とりあえず・場当たり的に」実践されることを危惧している。そのため、本稿では具体的な事例を述べるだけではなく、まず、概念の整理を行い、その上で望ましい人的資本経営の実践に向けた仕組み等について述べてきた。

先に述べた通り、人的資本経営を実践するにあたって肝となる部分は「目指すべき姿(To be)に対しどのように人的資本ポートフォリオを移動させていくか(現在の姿(As is)とのギャップを埋めていくか)」であり、個々人のスキルをどのように変容させていくかが焦点となる。また、人材マネジメントシステムの根幹である基幹人事制度(等級・評価・報酬)についても、ポートフォリオと如何に連動させていくかが焦点となると考える。

本稿が各社の人材マネジメントシステムの在り方の再検討の契機となれば幸いである。

  • *1)開示内容は任意となっているものの、採用・育成・定着については例示として挙げられている。
  • *2)2023年1月31日に公布された内閣府令によると、人材の多様性の確保を含む人材育成の方針や社内環境整備の方針及び当該方針に関する指標の内容等について、必須記載事項として、サステナビリティ情報の「記載欄」の「戦略」と「指標及び目標」の記載が求められることとなっている。また、提出会社やその連結子会社が女性活躍推進法等に基づき、「女性管理職比率」、「男性の育児休業取得率」及び「男女間賃金格差」を公表する場合には、公表するこれらの指標について、有価証券報告書等において記載が求められることとなっている。
  • *3)ニッセイアセットマネジメント株式会社によるESGレーティング別パフォーマンス(国内株式)に基づく。
  • *4)須田・森田(2022年)
    戦略論・組織論など学術分野では、人的資本の分析は主にRBV(Resource-Based View)やコアコンピテンス、ダイナミック・ケーパビリティなどの資源ベース型戦略論で行われている。
  • *5)人材版伊藤レポート(2020年)
    3Pは①経営戦略と人材戦略の連動、② As is-To beギャップの定量把握、③人材戦略の実行プロセスを通じた企業文化への定着、5Fは①動的な人材ポートフォリオ、個人・組織の活性化(②知・経験のダイバーシティ&インクルージョン、③リスキル・学び直し、④従業員エンゲージメント)、⑤時間や場所にとらわれない働き方と位置付けられている。
  • *6)人材版伊藤レポート(2020年)
    動的ポートフォリオを定義する4要素のうち、「現時点の人材やスキルを起点とするのではなく、現在の経営戦略の実現、新たなビジネスモデルへの対応という将来的な目標からバックキャストする形で、必要となる人材の要件を定義し、その要件を充たす人材を獲得・育成することが求められる(適所適材)」に基づく。
  • *7)ロバート・L・カッツによるカッツモデルでは、管理者に必要な能力をテクニカルスキル(業務遂行能力)、ヒューマンスキル(対人関係能力)、コンセプチュアルスキル(概念化能力)の3つに分けている。
  • *8)職能資格等級制度に基づく我が国の伝統的な人材マネジメントにおいて、企業毎に内容は異なるが、おおよそ援(援助を受ければ遂行できる)、独(独力で遂行できる)、完(完全にでき、指導できる)という段階で能力を区分する評価手法。

参考文献

  1. 1.経済産業省「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書―人材版伊藤レポート―」(2020年)
  2. 2.経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書―人材版伊藤レポート2.0―」(2022年)
  3. 3.非財務情報可視化研究会「人的資本可視化指針(案)」(2022年)
  4. 4.一般社団法人HR テクノロジーコンソーシアム「経営戦略としての人的資本開示」日本能率協会マネジメントセンター(2022年)
  5. 5.須田敏子、森田充「持続的成長をもたらす戦略人事~人的資本の構築とサステナビリティ経営の実現」経団連出版(2022年)
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