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COP28の総括と今後の気候変動政策の見通し(2/2)

みずほリサーチ&テクノロジーズ サステナビリティコンサルティング第1部
コンサルタント 金池 綾夏

  1. *本稿は、『みずほグローバルニュース』 Vol.124 (みずほ銀行、2024年3月発行)に掲載されたものを、同社の承諾のもと掲載しております。
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今後の気候変動政策の見通し

それでは、COP28を受けての今後の気候変動政策の見通しについて、短期、中長期の双方の観点から説明する。まず、日本政府については、COPの前後で大きな方針転換の動きはみられない。経済産業省は、グローバルストックテイクの合意内容は、あらゆるエネルギーや脱炭素技術の活用など日本の従来からの主張と一致しており、「化石燃料の移行」についてもGX推進戦略(2023年7月28日閣議決定)に整合していると言及している*9。また、環境省は、パリ協定第6条の合意見送りを受けた今後のJCMの方針として、これまでに決定した枠組みに基づいて実績を積み重ねるとしている*8

一方で、次のNDCの目標検討に向けて、中長期的には政策を強化する動きが生じ得る。日本の足元の排出量と目標値について記載した図表3を見ると、日本の2030年度2013年度比46%削減は、グローバルストックテイクで示された目標値(2019年比2035年60%削減)の水準には達していない。なお、グローバルストックテイクで示された目標値を日本に当てはめると、2030年度48%削減相当、2035年度66%削減相当(いずれも2013年度比)となる。日本の現行のNDCでは「2030年度にGHGを2013年度から46%削減することをめざし、さらに、50%の高みに向けて挑戦を続けていく」としている。次の目標検討では、2035年以降の目標設定に合わせて、2030年度の対策の見直しや深掘りに向けた議論が行われる可能性もある。その先には、国民や企業に対する更なる排出削減が求められることが予想される。

図表3 日本の排出実績と排出削減目標の水準

図表1
排出削減率 2030年度の排出量 2035年度の排出量
2030年度▲46%
(2013年度比)

761MtCO2e

571MtCO2e

2030年度▲50%
(2013年度比)

705MtCO2e

528MtCO2e

2035年度▲60%
(2019年度比)

728MtCO2e
(2013年度比▲48%)

485MtCO2e
(2013年度比▲66%)

出所:UNFCCC資料より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

世界をみると、図表4の通り、欧州諸国が先んじて2030年以降の野心的なGHG削減目標を検討している。イタリアが議長国を務める2024年6月のG7サミットにおいて、G7としてNDCに関してどのようなメッセージを発するかに注目が集まる。また、2024年11月のCOP29は、再び産油国(アゼルバイジャン)が議長国となる。グローバルストックテイクや「損失と損害」基金で一定の成果をあげたUAEに続くリーダーシップの発揮が期待される。さらに、2024年11月の米大統領選挙も、世界の気候変動政策の命運を左右するターニングポイントとなり得る。

図表4 欧米における2030年以降の排出削減目標の検討状況(2024年2月6日時点)

欧州連合(EU)

2040年目標を1990年比90%削減とすることを検討中

ドイツ

2040年目標を1990年比88%以上削減とすることを決定済

英国

2035年目標を1990年比78%削減とすることを決定済

米国

―(詳細は不明)

カナダ

2035年目標を提出予定(詳細は不明)

出所:各国政府ウェブサイト等より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

おわりに

COP28におけるグローバルストックテイクの結論を踏まえ、今後各国政府は次のNDCを検討する。脱炭素の機運が国内外でますます高まる中、日本は先進国としてのどのような水準の目標を掲げて脱炭素化を推進していくのか、政府の舵取りと取組の加速に期待したい。

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