ページの先頭です

既存組織にとってのDAOとは何か

DAO(分散型自律組織)の可能性

2022年12月5日 デジタルコンサルティング部 伊藤 新

DAO(分散型自律組織)とは

現在、新しいインターネットの在り方であるWeb3が各国政府の国家戦略として推進され始め、「金融」「デジタルアセット」「組織」などの領域では、実際に新しいサービスやツールが現れている。その中でも、「分散型自律組織(Decentralized Autonomous Organization:DAO)」という新しい組織の在り方に注目が集まっており、個人や民間企業、行政などのさまざまな主体がすでにDAOの設立を行っている。実際、2022年11月にはデジタル庁の「Web3.0研究会」において、その構成員および事務局による任意団体としてDAOを立ち上げる旨の発表が行われた*

このように各所から注目が集まりつつあるDAOは、統一された定義はないものの、中央集権的なリーダーシップが不在の組織であるとされている。従来の会社組織のように少数の経営層が意思決定を行うのではなく、ガバナンストークンと呼ばれる暗号資産を保有する不特定多数の人が投票によって意思決定に参加できる。また、購買やサービス提供などの組織としての行為はブロックチェーン上に記載されたプログラム(スマートコントラクト)で規定されたルールに基づいて実行される。

また、DAOの具体的なユースケースとしては、金融・メディアなどのサービスの提供・運営、デジタルアセットへの投資、コミュニティの運営など、種々の目的のものが存在する。


従来の会社組織と比較したDAOの概要
図1

出所:みずほリサーチ&テクノロジーズ作成


左右スクロールで表全体を閲覧できます

DAOのユースケース例
名称 概要
Maker DAO 米ドルのステーブルコイン「DAI」を発行するMakerプロトコルを運営するDAO。ガバナンストークンの保有者はこのプロトコルのパラメーターの決定等に関する投票権を有する。
Decentraland DAO メタバース空間「Decentraland」を運営するDAO。メタバース上の土地等のコンテンツやマーケットプレイス等の管理を行う。
Flamingo DAO NFTアートの購入・保有や貸出、ギャラリー展示等を行うDAO。ガバナンストークンの保有者はどのようなNFTアート購入するのか等について投票権を有する。
Friend with Benefits Web3領域で活動するクリエイターのコミュニティを運営するDAO。NFTギャラリーやイベント等の活動を行う。
山古志DAO 新潟県の旧山古志村の「村おこし」を行うDAO。リアルの居住者に加えて特定のNFTを有するデジタル村民も、山古志活性化のプロジェクトの投票ができる。

出所:みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

DAOの組織としての特徴

DAOはあくまでも組織形態の1つに過ぎず、その活動目的や提供する機能から見ると、株式会社や協同組合などの既存組織で実質的に代替できるものが多い。それでは、このようなDAOは従来の組織と比較してどのような特徴があるのだろうか。本稿では既存のDAOのプロジェクトや検討会などの各所における議論を参考に、DAOの特徴を挙げることで、組織形態としての可能性を掴んでいく。

なお、DAOが以下に挙げる特徴を備えるには、法的位置づけや責任の所在、セキュリティリスクなど、DAOが現状抱えている課題を乗り越える必要があるが、ここではDAOの持つ可能性を検討するため、理想的な姿を想定する。

(1)ユーザーロイヤリティの向上

DAOは、基本的には、譲渡(売買)可能なガバナンストークンを発行し、その保有者が意思決定を行うという仕組みである。DAOの理念やDAOが提供しているサービスなどに好感を抱くユーザーは、ガバナンストークンを入手することで、DAOの意思決定に参加できるため、自身とDAOとの一体感を味わえるようになる。これは従来の株式会社において、ユーザーが自身の好きな企業の株を保有することで、一層の身近感や愛着を抱くようになり、その企業に対するロイヤリティを高められることと同様である。DAOの場合は、暗号資産のウォレットさえあればガバナンストークンを保有できるため、このユーザーロイヤリティをより高めやすい環境を有しているといえる。また、実際に投票や提案を行った場合は、自身の投票や提案などの行為がブロックチェーン上に記録・公開されるため、組織の活動に参加したという感覚を抱きやすく、ユーザーロイヤリティの向上に資すると考えられる。

なお、不特定多数の人が意思決定に参加できるという仕組みから、一般に“多様な意見を反映し合理的な判断が可能”という利点が挙げられることが多い。しかし、実態として投票率の少なさや提案内容への理解度の違いなど、「投票」という制度が抱える大きな課題があり、この利点は一旦留保するべきであろう。

(2)リソース調達の柔軟性

また、法的位置づけに関する今後の議論に大きく影響されるものの、DAOは組織活動に必要なリソース、特に「資金」と「労働力」の調達が容易とされる。資金の面では、DAOは、あたかも株式公開のようにガバナンストークンの発行によって運営資金を調達できる。技術的にはスマートコントラクトの定義のみで可能であり、通常の株式公開のような煩雑な手続きやブローカの仲介などが不要な点を踏まえると、資金調達の柔軟性は高い。

さらに、組織行動に必要な細かなタスクをスマートコントラクトに定義することで、労働力の調達も柔軟に行える。たとえば、あるメディアを運営するDAOの場合は、コンテンツの提供というタスクとその報酬を事前に定めることで、不特定多数のライターを世界中から調達できる。つまり、従来の組織が、法律や契約、規約、人と人との信頼関係などによって時間をかけて醸成し担保していた取引の際の信用を、スマートコントラクト、すなわち、ブロックチェーンに担わせることで、DAOは、適切なスマートコントラクトの作成さえできれば、組織行動に必要な労働力を信用醸成のコストをかけずにその都度調達が可能になる。

(3)意思決定内容の確実性

3つ目として、DAOの組織としての意思決定は、ブロックチェーン上のスマートコントラクトによって実行に移されるため、意思決定の内容が指示・伝達の段階で誤解・改ざんされることを防止できる。DAOの内外の人(DAOが提供する機能やサービスの利用者を含む)は、ブロックチェーンを信頼している限り、投票により合意に達した意思決定が、ブロックチェーン上で確認される内容のまま実行に移される/移されたことを信用できる。従来の組織では、法律や契約、規定によって組織のメンバーの行動を規定しているものの、現実には指示・伝達の段階で意思決定の内容が誤解・改ざんされる可能性があり、その過程を外部の関係者が確認することはできない。たとえば、組織でモノを購入するという意思決定が行われる際は、多くの場合、特定の購買担当者がその指示を受け止めるが、その過程で誤解や改ざんなどのリスクが入り込む余地がある。この観点から、従来の組織の場合は組織のメンバーに対する信頼が一定程度求められることになる。

なお、意思決定を伝達した後の実行段階では、DAOでも人が実行を担う場合が存在するため、この部分に誤解や改ざんなどのリスクが生じ得る。しかし、意思決定の内容はスマートコントラクト上に記録され、いつでも確認可能であるため、人が行った実行が意思決定の要求に適っているか否かを後から確かめることができる。この意味で実行段階においても、従来の組織よりは比較的確実性が担保されていると捉えることができる。

既存の組織にとってのDAO

以上のように、理想的な姿としてではあるが、DAOはトラストレスな状態でありながら、関係者を巻き込み、柔軟なリソース調達を行い、意思決定の確実な伝達も期待できる組織となり得る。このような特徴から、DAOは、既存の法や制度の枠組みでは組織的な対応ができていない、ニッチな領域のニーズについて柔軟に対応できる組織として捉えられるのではないだろうか。実際、ユースケース例に挙げた「山古志DAO」は、人口規模が小さく、既存の行政や企業では対応できていないニーズを満たす組織である。

このように捉えると、DAOは組織化するための信頼をブロックチェーン技術によって担保することで、既存の組織を補完する存在となり得るものと考えられる。他方で、行政や企業などでも多様な個人のより細かいニーズへの対応が今後一層に求められていることを踏まえると、将来的には、既存の組織と競合する(もしくは置き換える)可能性も想定される。

歴史を振り返ると、重商主義の時代に、国家では実施できない不確実性の高い活動を行う主体として、株式会社という組織が登場した。このように国家を補完する形で生まれた株式会社が、その後、現代に至るまでに、部分的に国家を超えるほどに成長したことを踏まえると、行政や企業などの既存組織でも、引き続きDAOという新しい組織形態の動向を注視していく必要があるだろう。

  1. *Web3.0研究会(第5回) 【資料4】Web3.0研究会DAOの立ち上げについて

伊藤 新(いとう あきら)
みずほリサーチ&テクノロジーズ デジタルコンサルティング部 コンサルタント

自動運転やMaaS等のモビリティ領域の技術動向や利活用に関する調査研究・コンサルティング・政策立案支援に従事。また、ブロックチェーンや5G等に関する技術・市場動向調査にも携わる。

ページの先頭へ