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3Dプリンティングの現状と将来展望(4/4)

  • *本稿は、『カレントひろしま』2018年11月号(発行:一般財団法人ひろぎん経済研究所)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研 経営・ITコンサルティング部 主席コンサルタント 岩崎 拓也

4. AMの活用に向けて

本章ではAMを活用していく際に有用と思われるデータベース(DB)及び設計手法について述べる。

4.1. AM人材の育成(DB活用)

AMに関する情報は世の中に溢れ返っており、情報を収集しようとしてうんざりしてしまった方も多いのではないだろうか。筆者もその一人であり、有象無象の情報からどれが重要なものなのか判断するのに大変苦労している。世界中でAMに関する学会も開かれているが、研究者でもない限り参加して情報を収集するというのも難しいであろう。

そのような場合に役立つのがデータベース(DB)である。例えば無償で利用可能なものとして米国のSenvol 6)がある。このDBにはAM装置や材料が登録されており、造形手法や材料種別、造形サイズ等で絞り込みを行うことができる。

一方、我が国においても、国立研究開発法人産業技術総合研究所(AIST)と一般社団法人ナノテクノロジービジネス推進協議会3Dプリンタ分科会が共同で整備を行っている3DプリンタDB 7)がある。もともとAISTが「加工技術データベース」を整備しており、その中に3Dプリンタを追加したものだ。本DBには造形手法の概要や標準化動向、AMの利用事例のほか、公設試験研究機関が発表しているAMに関する研究論文も登録されている。まだ整備中であるため情報量が少ないのは否めないが、AMの勉強を始めたい方だけではなく、既に活用されている方にとっても事例から研究論文まで見ることができるため、非常に有用なDBではないだろうか。利用したい方はぜひAISTの加工技術データベースにユーザー登録して欲しい。

4.2. DfAM(Design for Additive Manufacturing)

繰り返しになるが、AMは従来加工法では作製できなかった形状を作ることが可能である。そのため従来とは異なる発想で設計を行うことも重要となってくる。型抜きや切削工具のアクセスなど加工法による形状制限がない状態で設計できるからだ。一方で、3次元で自由な発想で設計をしろと言われてもそう簡単にできるものではない。そこで近年、特に注目を集めているのが、最適な形状を求める構造設計法「トポロジー最適化」である。

どのような手法かというと、初期形状を与え(簡単な形状でも、既存の製品形状でも良い)、それに対して拘束条件(固定、圧力荷重等)を指定し、かつ“体積を30%低減させる”“応力があらゆる場所で一定値以下になるようにする”などの条件を設定することで、その条件を満たす形状を計算するというものだ。簡単な例を図表8に示す。初期形状は長方形、左右側面を固定拘束、上面には圧力荷重をかけた上で、ミーゼス応力と呼ばれる圧力の基準値が200MPa以下となるよう設定し、体積が最小となるようトポロジー最適化シミュレーションを実施したものだ。最適化の繰り返し反復を通じて形状が変わっていく様子が確認でき、最終的には橋のような形状となっていることがわかる。

このように、どのような形状が最も軽量かつ強度を保っているのかがわからないような状況でトポロジー最適化の活用は効果的である。但し、得られた形状をそのまま利用するにはいびつであるため、3次元CADデータで出力した後にデータの加工を行う必要がある。その上でCAE等を利用して強度の検証を行えばよい。ここではトポロジー最適化を例としてあげたが、AMならではの形状設計、既存加工法と比較したときのコスト・スループットの検証等、独特の設計手法が求められる。最近ではAMを用いた設計をDfAM(Design forAdditive Manufacturing)と呼ぶこともある。AMを利用してより付加価値の高い製品設計を行うためにはDfAMを学ぶことも必要である。

図表8 トポロジー最適化の例
図表8

(出所)みずほ情報総研作成

おわりに

本稿ではAMの夢を語ることを極力避け、AMの特徴を示し、現状の課題とその対処方法について詳しく述べた。AMは工作機械の一種であるため何に使うのかはユーザー次第であるが、アイデアを生み出し技術革新を起こす可能性を大いに秘めた技術である。先に良いアプリケーションを思いつけばマーケットを大きく獲得することが可能かもしれない。反面、海外でアプリケーションが出てくるのを待っていては手遅れになってしまうだろう。装置の導入まではいかなくても、サービスビューロの利用でAM製品を作ることも可能である。多くの企業がAMの活用に取り組み、我が国発の技術革新が数多く生まれることを期待してやまないところである。

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