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社会動向レポート

一般・療養病床の地域差を考える(1/3)

社会政策コンサルティング部 研究主幹 仁科 幸一

都道府県単位でみて、人口あたりの一般・療養病床数の格差が意外に大きいということはあまり認識されていない。本稿では、最初に病床数の地域格差を確認し、格差の現状を多面的に追究した。結果、都道府県間の病床格差は合理性が乏しいということが明らかになった。

また歴史的にみると、1955年時点では地域間格差は小さかったが、その後人口減少県でも増床が進み、病床格差は拡大した。これは、人口減少県では同時に高齢化が進展したために、総体としての入院医療需要が堅調に推移したためと考えられる。

人口減少県では高齢人口も減少することが予想され、高齢者人口増によって入院医療需要の下支えられるという「高齢化ボーナス」ともいえる構図は終焉を迎えつつある。一方、高度成長期に人口が急増した県では、今後高齢者数の急増による病床の不足が懸念される。

国は地域ごとの地域包括ケアシステムの構築をめざしており、各地域の具体的将来像の構築が求められている。

1.一般・療養病床数の地域差

(1)意外に大きい人口あたりの病床数の差

図表1は2014年の都道府県別の人口10万人あたりの一般・療養病床数を示している。

病床数が下位5都県は大都市圏に、上位5県は四国地方と九州地方に集中している。病床が最も多い高知県(2,171床)は最も少ない神奈川県(687床)の3.2倍。都道府県によって傷病構造や高齢化率が異なるとはいえ、この差は見逃せない。

国民皆保険制度が定着しているわが国では、医療サービスのインフラに格差があるという認識は一般に薄いように感じられる。もちろん、離島や山間地域に無医村があることは知られているが、都道府県単位でみればそう大きな差はないだろう、と思われているのではないだろうか。

本稿では、都道府県医療計画のベースとして策定された地域医療構想の対象とされる病床である一般病床と療養病床数(1)の都道府県間の差の現状を明らかにすることを目的とする。

図表1 人口10万人あたり一般・療養病床数
図表1

  1. (資料)2014年「医療施設調査」(厚生労働省)より作成

(2)分析にあたって

本稿では、直近で詳細な病床数の集計結果が入手できる2014年の「医療施設調査・病院報告」(以下「医療施設調査」と表記)、病床の使われ方をとらえるために「患者調査」(いずれも厚生労働省)をおもな分析の対象とする。その際、以下の点に留意されたい。

第1は、医療施設調査で示される病床数は「許可病床数」であること。許可病床数とは、医療施設が都道府県知事から設置を許可された病床数であるが、実際には各施設の経営方針など(2)から、実際に患者を受け入れることができる病床数とは乖離がある。そのため、病床数については実態よりも過剰になっている可能性がある。

第2の留意点は、病床の多寡や病院の病床規模は、必ずしも医療の質とは直結していないことである。病床数が極端に少ない状況は、国民の医療へのアクセシビリティを損なうという点で医療の質を低下させることに異論はないだろう。だが、どのような水準が最適であるかを定義することは困難である。たとえば患者の入院医療へのアクセシビリティに注目した場合、地理的な条件は地域によって異なるため、大都市圏の水準を単純に非都市地域に適用することはできない。

また、一般に病床規模の大きい病院は複数の診療科を擁して高度急性期医療を行っている場合が多いが、病床規模は小さくとも特定診療科に特化して高度急性期医療を提供している病院もある。それ以前に、高度急性期医療が医療の質の全てではない。「医療施設調査」から得られるデータにはこういった限界があるため、その結果をオーバーリーディングすることは慎まなければならない。

2.病床数と入院受療率には強い相関がある

図表2は、2014年の都道府県別の入院受療率(人口10万人あたりの一般・療養病床の入院患者数)を示している。多少の順位の変動はあるが、人口10万人あたり一般・療養病床数とほぼ同じ傾向を示している。

図表3は、縦軸に受療率(人口10万人あたり入院患者数)を、横軸に人口10万人あたり病床数を、いずれも全国100とする指数にした散布図である。これをみると、概ね病床数の多い県は受療率も高い。両値の相関係数(R2)は0.97と高い値を示しており、強い相関があることがわかる。

両者の因果関係、すなわち需要が供給を誘発した結果か、あるいは供給が需要を誘発した結果かをこのデータだけから断じることはできないが、病床が多い地域は入院受療率も高い傾向があるといえる。

図表2 一般・療養病床入院受療率(人口10万人あたり一般・療養入院患者数)
図表2

  1. (資料)2014年「患者調査」(厚生労働省)より作成

図表3 人口10万人あたり一般・療養病床の病床数と入院受療率
図表3

  1. (資料)2014年「患者調査」(厚生労働省)及び2014年「医療施設調査・病院報告」(厚生労働省)より作成
  1. ※1全国を100とする指数
  2. ※2図中の赤線は全国値

3.高齢者だけが入院受療率を引き上げているわけではない

入院受療率(人口あたり患者数)の差の要因は何だろうか。

高齢者は若年世代に比べて入院受療率が高い。2014年の患者調査によれば、全国で一般・療養病床に入院している患者数は103万人、うち65歳以上の患者数は78万人。入院患者のおよそ4分の3は高齢者が占めている。入院受療率が高い高齢者人口の割合が高い県で入院受療率が高くなるのは当然のことである。それでは、高齢者人口の割合や高齢者の受療率の高低だけが受療率の差の背景といえるのだろうか。

図表4は、縦軸に高齢者(65歳以上)、横軸に非高齢者(65歳未満)の入院受療率を、いずれも全国値を100とする指数にした各県の値を示した散布図である。これをみると、全国値と比較して「高齢者の受療率だけが高い」、逆に「非高齢者の受療率だけが高い」という県は少数派である。両値の相関係数(R2)は0.72であり、比較的高い相関がある。

つまり、高齢者の受療率が高い県はその他の年齢層の受療率も高い傾向があるといえる。入院受療率の高さは、必ずしも高齢化率や高齢者入院受療率だけの産物とは言い切れないといえる。

図表4 年齢階層別一般・療養病床入院受療率
図表4

  1. (資料)2014年「患者調査」(厚生労働省)より作成
  1. ※1全国を100とする指数
  2. ※2図中の赤線は全国値
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