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社会動向レポート

時代とともに変化する児童館の機能と「児童館ガイドライン」(2018年版)の役割

地域の「子ども施設」としての児童館の役割(1/3)

社会政策コンサルティング部 チーフコンサルタント 野中 美希  リサーチャー 杉田 裕子

戦後間もない1947年に児童福祉法が制定され、児童館は、同法において児童厚生施設として位置づけられた。その後、70余年が経過し、我が国の状況は、経済、社会をはじめあらゆる面で様変わりし、子どもを取り巻く環境や抱える課題、行政の児童福祉関連施策も大きく変化している。

本稿では、児童館の存在意義を問い直し、現代における児童館の役割と今後の可能性を考察する。

1.はじめに

児童館は、児童福祉法に定められた児童厚生施設であり、同法において「児童に健全な遊びを与えて、その健康を増進し、又は情操をゆたかにすることを目的とする施設とする」とされている。また、法律上は0歳から18歳未満までのすべての子どもを対象とした施設であるが、児童館の設置是非は地方自治体が決定するため、自治体により整備状況、役割、機能等は異なる。このため、生まれ育った地域や今まで暮らしてきた地域によっては、児童館がなく、その存在を知らない人もいる。また、児童館の利用が乳幼児等に限られており、中・高校生世代の子どもまでが利用できる施設であるとの認識をもたれていないこともあるなど、児童館のイメージは人によって異なる。

そもそも児童福祉法で位置づけられた当時、児童館は、戦後間もない時期で戦争孤児、少年犯罪の増加、栄養不足等様々な問題があるなかで、要保護児童対策のみならず、すべての児童の福祉の増進や文化の向上を目的として整備された。しかし、戦後の我が国は、高度経済成長を遂げ、経済、文化、社会などあらゆる面で変化していった。そして、豊かさを実感する機会が増えた一方、経済発展に伴い、子どもが安心して遊べる場所は減少していった。

また、現在の我が国においては、「一億総中流」(1)と言われた1970年代ごろと比較すると、中間層が減少、年々生活保護受給世帯が増大するなど、新たな貧困や格差問題が新聞等の報道で取り上げられ、社会問題として認識されるようになっている。家庭や社会状況等をみても、近年は児童数が減少し、母子世帯・父子世帯の増加、地域との関係の希薄化等により、子どもも保護者も、どこにも、誰にも助けを求めることができず、「孤立」しやすい状況にあるなど、現代の新しい課題も指摘されるようになった。こうした時代背景のなかで、様々な要因と重ね合わせるように、児童虐待、いじめ、子どもの貧困等さまざまな問題が発生し、年々、子どもをめぐる問題は多様化かつ複雑化している。

このように、社会環境や抱える課題などが戦後間もないころとは異なるものとなっているなかで、当然、児童館に求められる機能や役割も変化している。本稿では、児童館の歴史を振り返りつつ、多様な児童福祉施策が実施されるなかで、なぜ児童館が必要なのかを問い直し、現代における児童館の役割と今後の可能性を考察する。

2.児童館をめぐる政策の変遷

(1)児童館の成り立ちと施設整備の状況

日本における児童館の原型は一般的に、「セツルメント(2)の児童クラブ」にあるといわれている(3)。これは貧困等の課題を抱える要保護児童を支援することを目的として組織され、明治末期から大正、昭和にかけて、大都市を中心に発展したものである。他方、東京市(現:東京都千代田区)に設置された日比谷公園児童遊園とそこで発展した児童指導の考え方が児童館を含む児童厚生施設のルーツであるという捉え方もあり、児童福祉法成立過程における児童厚生施設の概念整理も含め、児童館の誕生にまつわる歴史は多方面にわたる。

1947年、児童福祉法の制定により、児童館は法律に基づく児童福祉施設として位置づけられた。同法の規定に基づく児童福祉施設最低基準(昭和23年12月29日厚生省令第63号。現在の名称は「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」。以下、「児童福祉施設最低基準」という。)では児童館の設備や職員に関する基準が示された後、1950年には厚生省(現:厚生労働省)が「児童厚生施設運営要領」を編さんし、児童館の基本方針を提案している。しかし、設置を義務としていなかったこともあってか、児童館の整備はすぐには進まなかった(4)

その後、民間社会活動家阿部千里の提唱を契機にした陳情を反映して、1963年に厚生省が市町村立の児童館の施設整備費・運営費に対する国庫補助制度を開始したことが、児童館発展の契機となる。制度創設を受け、国庫補助対象となる児童館の基準が「国庫補助による児童館の設置運営について」(昭和39年5月8日厚生省発児第121号厚生省児童局長通知。以下、「児童局長通知」という。)として示されたことにより、児童館の水準が明確化されるとともに、各地で児童館の整備・拡充が急速に進んでいった。

ところが、1980年代になると地方分権を推進する動きに伴い、1986年には人件費の国庫補助が廃止、地方交付税措置化され、さらに1997年には県立を除く公設公営児童館の事業費が廃止、地方交付税措置化された。そして2012年には、民間児童館の事業費も廃止され、児童館施策は全般的に地方の裁量に委ねられることとなった。こうした流れのなか、徐々に児童館の新設は少なくなり、2000年以降は緩やかな増減を繰り返しながら今日へと至っている(図表1)。

図表1 児童館数の推移(公営・民営別)
図表1

  1. (資料)厚生労働省「社会福祉施設等調査」より筆者作成。
  2. (注)1.各年10月1日現在の値。
    2.2009年~2011年は、調査方法を変更し、調査対象施設のうち回収できなかった施設があるため、2008年以前及び2012年以降との年次比較は適さない。

(2)時代とともに変化する児童館の機能

ここでは、児童福祉法制定以降の児童館施策について、児童館の「機能」という観点からその変遷を辿る。1950年公表の「児童厚生施設運営要領」において、児童館の任務は「(一)安全な遊びを与えること」、「(二)楽しい遊びを与えること」、「(三)心身の向上を図ること」、「(四)子供の人格の成長をはかること」とされている。同要領では、児童館の意義、児童厚生員の任務についても言及されており、児童館は、戦後の荒廃した社会環境のなかで、子どもが児童厚生員による適切な援助を得ながら安心安全かつ豊かに遊びを展開できる場と機会を提供することを通じて、子どもの心身機能の向上と人格の形成を図るという構想のもとに誕生した施設であることがわかる。

しかし1960年代以降、都市化の進展や核家族化等により子どもの生活環境が変化するなかで、児童館に求められる役割も変化していく。1963年の国庫補助開始に伴って示された児童局長通知では、児童館の利用対象として「家庭環境、地域環境、交友関係等に問題があり、指導を必要とする児童」を最優先に位置づけている。この背景には子どもの生活環境悪化による非行問題等への対応を児童館で行いたいという思惑があった。1970年代に入ると、共働き家庭の増加を受け、「留守家庭児童対策は児童館で」という考え方(5)のもと、学童保育を行う児童館が増えていく(6)。さらに、運動機会の充実や中・高校生世代の居場所づくりの必要性から、運動に親しむ習慣の形成や体力増進指導による健全育成を担う児童センターや大型児童センターが新たに整備されるようになる。なお、児童センター創設に際して「児童館の設置運営要綱」(以下、「設置運営要綱」という。)が厚生事務次官通知(7)として示され、以降は同通知の改正・発出により児童館機能と水準の明確化が図られている。

1990年代には、子育て支援のための基本的方針を盛り込んだエンゼルプラン(8)発表等をはじめ、少子化対策・子育て家庭支援が大きく展開されていくなかで、地域における福祉施設としての児童館の役割が注目されるようになり、2000年の設置運営要綱改正(9)に伴って、児童館の機能に「子育て支援機能」が追加されるに至る。児童館は、地域における子どもの健全育成活動を推進する中核的機能だけでなく、子育て支援の拠点として、地域のニーズを把握し、子どもに係る支援をより包括的に担っていくことが期待されるようになっていったのである。

(3)「 児童館ガイドライン」策定による児童館・児童厚生員の役割定義

このように児童館は、時代の要請に応じてその機能・役割を変化させながら、それぞれの地域で、地域の特性にあわせて独自に発展してきた。また、補助金が抑制される環境下での活動継続の打開策として、児童館を活用した様々な事業を実施しながら運営を模索してきた。こうした経緯もあり、児童館は単なる「遊びの場」、あるいは非行防止や中・高校生支援、子育て支援等の「事業やイベントを実施する場」と捉えるケースもみられ、児童館の本来的な役割である「遊びを通じた子どもの健全育成」の位置づけやあり方について、市町村ごとに異なるアプローチがなされているという側面は否めない。加えて、児童館で子どもに直接関わる児童厚生員の資格は保育士、各種教諭、社会福祉士等の任用資格を満たしていれば与えられるものであり、一般財団法人児童健全育成推進財団が認定資格を独自に認定・推進しているものの、そのほかの体系だった研修等による育成は行われていない(10)。また、児童福祉施設最低基準における「児童厚生員」の名称は、規制緩和の影響から1998年に「児童の遊びを指導する者」へと改正されている(11)。こうした状況から、児童館の社会的な位置づけや、子どもの健全育成を担う児童厚生員の専門性についても、十分な理解が得られていないという課題が指摘されるようになっていった(12)

2011年に公表された「児童館ガイドライン」(平成23年3月31日雇児発0331第9号厚生労働省雇用均等・児童家庭局長通知)は、こうした状況を踏まえ、[1]児童館固有の機能と今日的役割を明確に示すことにより、自治体の施策に児童館を積極的に位置付けられるようにすること、[2]老朽化等を理由に廃止・縮小されてしまうことがないよう、改めて児童館の理念と今後の活用の見通しを示すこと、[3]子どもの健全育成の方向性を国として示すこと、[4]より有効かつ創造的な児童館活動を展開させ、児童館の整備を図ることを目的とし、作成された(13)。そこでは、児童福祉法第40条の内容を今日の状況に照らし、「児童館運営の理念と目的」として改めて謳うとともに、具体的な児童館の機能・役割として、「発達の増進」、「日常の生活の支援」、「問題の発生予防・早期発見と対応」、「子育て家庭への支援」、「地域組織活動育成」の5点が挙げられた。

(4)今見直される児童館の役割

2017年において、児童館設置数は全国で4,541館となっている。ただし、その設置状況をより具体的にみると、児童館を設置していない市区町村が約4割あるほか(14)、設置している市区町村においても運営形態等の設置方針は自治体ごとに大きく異なっている。加えて、2015年創設の子ども・子育て支援新制度における地域子ども・子育て支援事業(15)のなかに児童館そのものの活動は含まれておらず、国主導による児童館施策が積極的に推進されているとは依然として言い難い。

しかし、児童福祉法制定から約70年間にわたる活動のなかで、児童館という場所には、常に地域の子どもの遊びを中心とした日常があった。そして今、子ども・子育て家庭の状況がますます多様化かつ複雑化するなかで、中・高校生世代の居場所づくりや学習支援、食事の提供など、今日的課題に対応する児童館の取組が評価され、児童館における日常を起点とした子ども・子育て支援の可能性の広さに注目が集まりつつある。次項では、具体的な事例も交えながら、それらの実態を取り込むかたちで検討・発出に至った新しい「児童館ガイドライン」(平成30年10月1日子発1001第1号厚生労働省子ども家庭局長通知、以下「『児童館ガイドライン』(2018年版)」という。)策定の背景や経緯、現代における児童館の役割等について詳述する。

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