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社会動向レポート

中小企業におけるガイドラインの認知度調査の結果から

治療と仕事の両立支援のさらなる普及に向けた課題と提言(2/3)

社会政策コンサルティング部 チーフコンサルタント 志岐 直美

4.ガイドラインの周知・活用状況の実態と課題

(1) 経営者、人事労務担当者におけるガイドラインの周知・活用状況

[1] ガイドラインの認知度

経営者に対してガイドラインの認知状況を尋ねたところ、6割超が「知らなかった」と回答するなど、経営者におけるガイドラインの認知度が低いことが明らかとなった。一方、人事労務担当者に同様に尋ねたところ、「詳しい内容を知っていた」は5.0%、「大まかな内容を知っていた」は24.5%であり、「名前や存在は知っているが内容は知らなかった」まで含めると6割超がガイドラインの存在を認知していた。実際に両立支援に対応する可能性がある担当者レベルでは、両立支援に対する関心度が高く、ガイドラインの認知度も高くなっていたものと考えられる。

なお、ガイドラインを知ったきっかけとしては、経営者、人事労務担当者ともに「新聞・広告」が約3割と多く、人事労務担当者においては、「厚生労働省ホームページ」を挙げる割合が最も高かった。(図表2)

図表2 ガイドラインの認知度(中小企業経営者、人事労務担当者)
図表2

  1. ガイドラインについて「詳しい内容を知っていた」または「大まかな内容を知っていた」「名前や存在は知っているが内 容は知らなかった」と回答した者について集計
  1. (資料)みずほ情報総研株式会社「治療と仕事の両立に関する調査」(2018年)

[2] ガイドラインへの評価

次に、ガイドラインについて「詳しい内容を知っていた」または「大まかな内容を知っていた」と回答した者に対し、ガイドラインが参考になったかどうかを尋ねたところ、「参考になった」と回答した者の割合は経営者では28.4%、人事労務担当者では28.8%であった。「どちらかといえば参考になった」と合わせると、経営者の8割超、人事労務担当者の9割超にのぼっていた(図表3)。ガイドラインが「参考になった」または「どちらかといえば参考になった」内容としては、「両立支援に当たっての環境整備」が上位に挙げられており、企業における仕組みづくりの参考資料として、ガイドラインが有用であることが示唆された。

図表3 ガイドラインへの評価
図表3

  1. ガイドラインについて「詳しい内容を知っていた」または「大まかな内容を知っていた」と回答した者について集計
  1. (資料)みずほ情報総研株式会社「治療と仕事の両立に関する調査」(2018年)

[3] 両立支援への取組状況

両立支援の取組状況についてみると、経営者の約7割、人事労務担当者の約4割が「これまでに治療を必要とする従業員はいなかった(または退職した)」と回答しており、それらの多くが両立支援に「取り組んでいない」と回答していた(図表4)。

両立支援に関しては、現在支援が必要な労働者がいない場合であっても、支援を必要とする労働者が企業に相談しやすいよう、日ごろから環境づくりに取り組むことが重要である。しかしながら、調査結果からは、この趣旨が十分に経営者等に周知されていない可能性が示唆された。

また、人事労務担当者に比べて、経営者において「これまでに治療を必要とする従業員はいなかった(または退職した)」と回答する割合が高かった。経営者と人事労務担当者が必ずしも同一の企業に所属しているとは限らないため、結果の解釈には留意が必要であるが、経営者においては、従業員における両立支援のニーズの実態を十分に把握できていない可能性がある。

なお、ガイドラインについて「知らなかった」と回答した経営者に対し、今後ガイドラインを参考にしたいと考えるかどうか尋ねた結果、参考にしたいと回答した者は28.4%に留まっていた。経営者においてガイドラインの活用意向が低い背景には、ガイドラインの内容が十分に周知されていないことに加え、相対的に両立支援が必要な場面に遭遇しづらい中小企業では、両立支援に対する関心が持ちづらいことも、原因の一つとして考えられる。

図表4 両立支援を必要とする従業員の有無と両立支援への取組状況
図表4

  1. 人事労務担当者(n=200)について集計
  1. (資料)みずほ情報総研株式会社「治療と仕事の両立に関する調査」(2018年)

(2) 労働者におけるガイドラインの周知・活用状況

[1] ガイドラインの認知度、活用意向

中小企業に勤める労働者に対し、ガイドラインの認知状況を尋ねたところ、治療中の病気の有無に関わらず、「詳しい内容を知っていた」または「大まかな内容を知っていた」、「名前は知っているが内容は知らなかった」と回答した者の割合が3割を超えていた(図表5)。ガイドラインは主に事業場を対象としたものであり、認知度向上に向けて改善の余地はあるものの、労働者においても一定程度の認知度があることが明らかとなった。

また、ガイドラインを「名前は知っているが内容は知らなかった」または「知らなかった」と回答した労働者のうち、「読んでみたいと思う」または「必要なときに読んでみたいと思う」と回答した者は8割超を占めており(図表6)、労働者における治療と仕事の両立に対する関心度の高さがうかがえた。

図表5 ガイドラインの認知度(中小企業に勤める労働者)
図表5

  1. (資料)みずほ情報総研株式会社「治療と仕事の両立に関する調査」(2018年)

図表6 ガイドラインの活用意向
図表6

  1. ガイドラインについて「名前は知っているが内容は知らなかった」または「知らなかった」と回答した者について集計
  1. (資料)みずほ情報総研株式会社「治療と仕事の両立に関する調査」(2018年)

[2] ガイドラインへの評価

ガイドラインについて「詳しい内容を知っていた」または「大まかな内容を知っていた」と回答した者に対し、ガイドラインが参考になったかどうかを尋ねたところ、「参考になった」または「どちらかといえば参考になった」と回答した者が8割を超えていた(図表7)。ガイドラインの内容は、労働者にとってもガイドラインは有用であることが示唆された。

図表7 ガイドラインへの評価
図表7

  1. ガイドラインについて「詳しい内容を知っていた」または「大まかな内容を知っていた」と回答した者について集計
  1. (資料)みずほ情報総研株式会社「治療と仕事の両立に関する調査」(2018年)

[3] 勤務先における両立支援のための環境整備の状況

勤務先において実施されている両立支援のための環境整備の取組を尋ねたところ、各項目とも実施割合は2割に満たず、「ない・分からない」という回答が6割超を占めていた(図表8)。環境整備が進んでいない、あるいは取組が周知されていないために、支援の申出がしづらい環境におかれている労働者が一定数存在すると考えられた。

図表8 勤務先で実施されている両立支援のための環境整備の取組(複数回答)
図表8

  1. (資料)みずほ情報総研株式会社「治療と仕事の両立に関する調査」(2018年)
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