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社会動向レポート

企業の移行と他者貢献の促進に向けて

グリーンボンドとEUタクソノミー(1/3)

環境エネルギー第2部 シニアコンサルタント 永井 祐介

近年、グリーンボンドを発行して自社戦略の訴求や投資家拡大を行う企業が急増している。本稿ではグリーンボンドの概要や資金使途に関するEU基準(タクソノミー)案を紹介し、企業の新たな選択肢となり得る「移行」や「他者貢献」グリーンボンドについて考える。

1.はじめに

パリ協定が目指す「脱炭素社会」の実現や「SDGs(1)」の達成には、そうした目標に貢献する企業活動を促進していく必要がある。現在その手法の一つとして、資金使途を環境改善効果のある事業に限定した債券である「グリーンボンド」(2)が注目されている。

企業にとって、グリーンボンドは脱炭素社会の実現やSDGsに対する自社の貢献をアピールするだけでなく、自社の成長戦略を投資家等に訴求し投資家層を拡大する手法でもある。実際にそうした効果を狙ってグリーンボンドを発行する国内企業も急増しており、資金使途も再エネ発電や省エネビルのみならず再エネ調達や部品工場建設、研究開発まで多様化している。今後も、ESG投資の拡大を背景に様々なグリーンボンドの発行が続くと予想される(3)。まだグリーンボンドを発行していない企業も、自社戦略や取組を投資家に適切に訴求すべく、発行機会を見逃さないことが重要である。

そしてグリーンボンドを投資家に効果的に訴求するには、資金使途の適切な設定が重要である。最近では資金使途の環境改善効果の有無だけでなく、その改善効果の度合い(グリーン性)も問われる傾向となっており、EUやISOにおいてグリーンボンド適格事業の基準も検討されている。特に2019年6月にEUが公表した基準案は非常に厳しい基準値を提示しており、大きな議論を呼んでいる。今後は、これらの基準の考え方や基準値を把握した上で自社の訴求ストーリーを構築することが必要である。なお、これらの基準はグリーンボンドのみならず、今後どのような活動を“環境に優しい”活動と定義するか、という議論でもあり、グリーンボンド発行予定の有無にかかわらず注視すべき議論である。

そこで本稿では、グリーンボンドの概要やEU基準案を紹介し、企業にとって有望な選択肢となり得る「移行」や「他者貢献」を資金使途とするグリーンボンドについて考える。

2.グリーンボンドとは

グリーンボンドとは、資金使途を「グリーンな活動(CO2削減等の環境改善効果のある活動)」に限定した債券である(4)

企業がグリーンボンドを発行する狙いは、投資家等に自社の中長期的な成長戦略や環境ビジョンや具体的な取組を訴求し、環境や社会課題に貢献する投資先を重視するESG投資家(年金基金や保険会社、運用機関)等の新たな投資家からの資金を呼び込むことである(図表1参照)。


図表1 グリーンボンド発行の狙い
図表1

  1. (資料)みずほ情報総研作成

但し、ESG投資家がどのような資金使途を「グリーンな活動」と捉えるかは、投資家によっても異なり、またNGOやEU等の国際的な議論にも影響される。グリーンボンドを発行したものの、NGO等から批判を受けてかえって評判が落ちるような事態は避けねばならない。そのため、資金使途選定の際には、自社の成長戦略や環境ビジョン等を踏まえたストーリーを描くと共に、グリーン性を巡る最新の議論動向や今後の政策見通しも踏まえる事が重要である(図表2参照)。


図表2 グリーンボンド発行時の流れとポイント
図表2

  1. (資料)環境省資料等を元にみずほ情報総研作成
  • 本レポートは当部の取引先配布資料として作成しております。本稿におけるありうる誤りはすべて筆者個人に属します。
  • レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。全ての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
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