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社会動向レポート

業務部門の照明における温暖化対策の更なる推進に向けて(1/3)

環境エネルギー第1部
チーフコンサルタント 佐野 翔一 コンサルタント 横尾 祐輔 次長 松井 重和

オフィス、宿泊施設などが該当する「業務その他部門(以下、業務部門とする)」の地球温暖化対策は着実に進行しているものの、「地球温暖化対策計画」に掲げられた目標の達成、長期的な温室効果ガスの大幅削減のためには、更なる対策の進展が必要である。本稿では、業務部門においてエネルギーを大量に消費する機器や設備の一つである照明を、白熱灯や蛍光灯などの従来型の照明からLED等の高効率な照明に置き換えていく対策について、さらなる対策の余地とそのために必要な施策を考察した。

なお、本レポートは弊社が環境省より受託した「平成30年度民生部門における低炭素化対策・施策検討委託業務」(以下、委託調査とする)において調査・検討した内容を、再整理したものである(1)

1.はじめに

地球温暖化対策の総合的かつ計画的な推進を図るため、2016年5月に地球温暖化対策計画が閣議決定された。本計画は「少なくとも3年ごとに我が国における温室効果ガスの排出及び吸収の量の状況その他の事情を勘案して本計画に定められた目標及び施策について検討を加えるものとし、検討の結果に基づき、必要に応じて本計画を見直し、変更の閣議決定を行うこと」になっており、今後、見直しに関する議論が行われるものと考えられる。

地球温暖化対策計画では、産業部門、家庭部門、業務部門、運輸部門、エネルギー転換部門といった部門別に対策と施策を掲げ、各対策の進捗状況を毎年度評価している。このうち業務部門では、図表1に示す対策が掲げられている。本稿で取り上げる業務部門の照明に係る対策である「高効率照明の導入」は直近の進捗状況の評価において、5段階評価で上から2番目の「B.このまま取組を続ければ目標水準を上回ると考えられる対策」と、比較的高い評価を得ている(2)。実際に、代表的な高効率照明であるLED照明は東日本大震災が起きた2011年頃から、節電ニーズを背景に急速に普及し、2017年度の照明器具出荷台数に占めるLED照明器具の割合は約93%に達する(図表2)。

このように一見順調に見えるLED照明の導入対策であるが、委託調査の一環で弊社が実施した「事業所における照明の利用状況に関する意識調査」の結果から、既築のテナントビルでの導入は必ずしも順調ではないなどの課題が明らかになった。地球温暖化対策計画では、業務部門の既存の照明設備(ストック)に占めるLED照明等の高効率照明の割合を2030年度までに100%にすることを目指すとしているが、同意識調査の結果はその達成に向けて施策強化の必要性を示唆している。

また、2019年6月に閣議決定された「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」(以下、長期戦略とする)においては、「カーボンニュートラルなくらしへの転換」に向けて、極限まで省エネルギー化を進めた設備・機器を最大限普及させるなど、長期的な温室効果ガスの大幅削減に向けて、更なる対策の必要性について言及されている。

上記の背景のもと、本稿では同意識調査の分析結果を示すとともに、地球温暖化対策計画の見直しに関する検討や、長期的な温室効果ガスの大幅削減に向け、業務部門の照明を、白熱灯や蛍光灯などの従来型の照明からLED等の高効率な照明に置き換えていく対策について、さらなる対策の余地とそのために必要な施策を考察した。


図表1 地球温暖化対策計画における業務部門の対策による省エネ量の内訳
図表1

  1. (資料)「地球温暖化対策計画参考資料 地球温暖化対策計画における対策の削減量の根拠」より作成

図表2 照明器具の出荷台数の経年変化
図表2

  1. (資料)みずほ情報総研「平成30年度民生部門における低炭素化対策・施策検討委託業務報告書」(環境省委託事業)
  2. (注1)原典は経済産業省「生産動態統計」、一般財団法人家電製品協会「家電産業ハンドブック2015」、一般社団法人日本照明工業会「照明器具自主統計」
  3. (注2)LED 器具出荷台数について、2006年度~2013年度は「家電産業ハンドブック2015」に掲載の一般社団法人日本照明工業会「照明器具自主統計」の値を、2014年度以降は一般社団法人日本照明工業会の「照明器具自主統計」を用いた。
  4. (注3)業務部門以外にも家庭部門や産業部門で用いられる照明器具の出荷台数が含まれる。

2.調査の概要

弊社が環境省より受託した「平成30年度民生部門における低炭素化対策・施策検討委託業務」の一環として、日本全国における事業所を対象として、「事業所における照明の利用状況に関する意識調査」を実施した。実施概要を図表3に示す。本調査では属性情報、LED照明の普及や改修に関する項目、LED照明の効率的な利用に関する項目について伺ったが、以降では、主にLED照明の普及や改修に関する結果を示す。


図表3 事業所における照明の利用状況に関する意識調査 実施概要
図表3

  1. (資料)みずほ情報総研「平成30年度民生部門における低炭素化対策・施策検討委託業務報告書」(環境省委託事業)
  • 本レポートは当部の取引先配布資料として作成しております。本稿におけるありうる誤りはすべて筆者個人に属します。
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