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4つのメガトレンドと、今後の行方を解説

今、注目を集める、ボランタリー・クレジット(1/3)

2021年2月
みずほ情報総研 環境エネルギー第2部 コンサルタント 内藤 秀治

要約

本稿では、企業におけるカーボン・ニュートラルやネットゼロ目標の達成に向け、注目を集めているボランタリー・クレジットについて、日本企業が調達検討する上で把握するべき4つのトレンドを整理した上で、筆者が予想する今後の行方を解説する。

ボランタリー・クレジットの取引量は、直近数年間で大きく変化しており、主に以下4つのトレンドが市況に大きな影響を与えている。

  1. 民間セクターによる取引活性化
    IPCC1.5特別報告書、GHGプロトコル・SBTの動向を受けた企業による自主的クレジット活用の加速
  2. 国際航空におけるクレジット活用
    “2020年以降のカーボンニュートラルな成長”を掲げるICAOにおけるカーボンオフセットスキーム(CORSIA)の開始
  3. VCSにおける2020年以降のプロジェクト対象スコープ見直し
    世界最大のボランタリークレジット制度VCSによる、再エネ・省エネ関連の新規クレジット創出停止の発表
  4. SDGsへの対応
    VCSやGold Standardなどで、気候変動以外のSDGs目標への貢献量を評価するプログラムが始動

また、「クレジットのトークン化」や「Oil and Gas業界によるクレジット創出事業者の買収」等、新しい動きも出始めている。このようなトレンドや新たな動きは、更に戦略的な立ち位置を築く「機会」になり得るが、参入障壁が高まる「リスク」にもなり得るため、いずれの動向にも注視が必要であり、流動的に変化する市場動向やその要因を適切に整理・分析する際の着目点の一つになろう。

1.ボランタリー・クレジットとは何か?

まず、ボランタリー・クレジットという用語を初めて聞く方向けに、本稿のテーマであるボランタリー・クレジットの概要を説明する。ボランタリー・クレジットは、温室効果ガス(GHG)の排出権の1種であるが、排出権にも複数の種類が存在するため、ボランタリー・クレジット以外の排出権についても触れながらボランタリー・クレジットの位置づけについて整理する。

(1)クレジットとキャップ&トレードとの違い

GHG排出量の削減効果を「環境価値」として取引する代表的な仕組みとして排出権取引がある。排出権取引はクレジットとキャップ&トレードの2種類に大別されるが、それぞれの考え方や相違点を下図に示す。


図1 クレジットとキャップ&トレードの考え方
図表1

  1. (出所)みずほ情報総研作成

クレジットとは、一定の設備・施設を対象に、現状の設備・施設を使用し続けた場合の排出見通しと、その設備・施設を更新した場合の排出量の差分をMRV(Monitoring, Reporting, Verification)を通じて認証する仕組みである。一般に認証されたクレジットは相対取引にて売買が行われ、購入者はカーボン・オフセットに代表される自主的な活用や、クレジット種類によっては公的制度への活用も可能である。

一方、キャップ&トレードとは、組織全体や施設全体の総排出量に対し、一定量の排出量規制(排出枠)を設定し、実排出量が排出枠を超過した場合、排出枠以下に抑えた企業から超過分の排出枠を購入する仕組みを指す。クレジットが自主的な取組みを後押しする仕組みであるのに対し、キャップ&トレードはカーボンプライシングの一手法として規制的な仕組みであることが大きな特徴であり、対象は業種やセクターを限定して実施されることが多い。例えば、欧州では、EU-ETSにて固定施設・航空業界を対象に既に実施しており、中国においても、発電施設を対象とした排出権取引の開始が発表されている*1

前述した排出権取引による規制に対し、国・地域によっては部分的なクレジットの使用も認めているため*2、クレジットとキャップ&トレードは混同しやすいが、対象や仕組み等の違いを整理することで、区別して考えることができよう。

(2)クレジットの種類と、ボランタリー・クレジットの位置づけ

クレジットについても様々な種類があり、ここも読者の混乱要因の一つであろう。日本の事業会社とお話をしていると、 “京都メカニズムクレジットとJ-クレジット制度は知っているが、それ以外にもあるのか?”といったご質問をよくいただく。ここでは下図のようにクレジットの種類を分類し、ネットゼロに向け注目を集めているボランタリー・クレジットの位置づけを整理する。


図2 クレジットの種類
図表2

  1. (出所)みずほ情報総研作成

クレジットは大きく4種類に分類され、[1]国連が主導して実施する京都メカニズムクレジット(JIやCDM)、[2]二国間交渉で進められるクレジット制度(JCM)、[3]各国・地域政府が実施する制度(J-クレジット制度、CCER等)、最後に[4]民間セクター・NGO等が主導して実施するボランタリー・クレジット(VCSやGold Standard等)が挙げられる。このうち、[1]~[3]のクレジット制度は、国・地域の排出削減義務や排出量報告制度等の規制・制度に基づき開始されており、ゆえに規制市場・コンプライアンス市場と呼ばれている。一方、ボランタリー・クレジットは、企業の自主的なクレジット活用が前提で開始されており、温室効果ガス排出削減以外の副次的な効果(生物多様性保全や水質保全、雇用創出等)にも焦点が当たることが大きな特徴である。

昨今、国内外の様々な企業がカーボン・ニュートラルやネットゼロ目標を掲げているが、省エネ・再エネ活用による総排出量削減により排出量をゼロとすることには限界がある。そこで、削減努力の結果どうしても排出してしまう残余排出量(Residual Emissions)について、クレジット活用による相殺が、現時点における"目標達成に向けた現実的な手法"と考えられ、政策的な制約がなく使い勝手の良いボランタリー・クレジットの活用に注目が集まっている状況である。次項では、ボランタリー・クレジットの盛り上がりについて、4つのメガトレンドを需要側・供給側それぞれの視点で解説したい。

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