ページの先頭です

技術動向レポート

AIによる外観検査(1/3)

情報通信研究部 コンサルタント 橋本 大樹

1.はじめに

人手不足の深刻化や働き方改革が叫ばれる中、製造現場における製品検査の省人化は重要性を増している。またWith/Afterコロナの世界において、新型コロナウィルスの感染症対策としても、その重要性は今後ますます拡大していくと考えられる。そのような状況の中、近年大きく発展を遂げている深層学習(ディープラーニング)をはじめとした人工知能(Artificial Intelligence、AI)による製品検査の自動化は注目すべき技術と考える。

本稿では、はじめにAIや機械学習、ディープラーニングについて概説する。その上で、AIによる外観検査の現状およびAIの普及拡大に向けて注目される技術の一端について、当社での研究開発事例を交えて紹介する。

2.AIと機械学習、ディープラーニング

筆者の考えるAIと機械学習、ディープラーニングの間の関係性を図表1に図示する。AI(の中でも特化型AI)を実現するためのアプローチに応じた手法の区分の1つが機械学習であり、さらにその機械学習の具体的な1手法がディープラーニングである。ただし人によりルールベース手法がAIに含まれるか等、図に示した関係性と定義や認識が異なることがある。本章では、AI、機械学習、ディープラーニングについてそれぞれ概説する。


図表1 AI と機械学習・ディープラーニングの間の関係性
図表1

  1. (資料)みずほ情報総研作成

(1)AI

[1] 汎用AI

汎用AIは、特定の分野・用途に限定されることなく、様々な課題を処理可能なシステムのことをさす。例えば、SF小説の中に登場する会話や判断が出来る人型ロボットなどでイメージされるAIはこの汎用AIの1種と考えられる。汎用AIでは、事前に想定された条件からはずれた状況においても、ある程度は能力を応用して問題を正しく処理できるとされているが、筆者が知る限り実現には至っていない。

[2] 特化型AI

特化型AIは、特定の分野・用途に限定して性能を発揮するAIのことをさす。画像認識や音声認識・自然言語処理など、さまざまな分野において特化型AIの研究が進んでおり、一部では人間の判断能力を超える精度を達成している。例えば囲碁やチェスにおいてAIがトッププレイヤーを打ち破るといった出来事は、記憶に新しいであろう。

近年、特化型AIは目覚ましい性能向上を遂げ、外観検査を含む多くの分野で関心を集めている。本稿においても主に特化型AIのトピックについて取り上げる。

(2)機械学習

特化型AIを実現するための現状の手法は、そのアプローチに応じて、ルールベースと機械学習の2つに大別することが出来る。

[1] ルールベース

ルールベースとは、明示的に人間がルールを与え、これに基づいて予測・識別する手法の総称である。既に予測・識別のためのルールや判断基準が確立している作業を自動化する場合などに適しているが、人間がルールを把握していない事象、あるいは明確な判断基準を定義できない事象に対する予測・識別の精度は低い。

[2] 機械学習

機械学習とは、事前にデータの特徴を学習することにより、予測・識別における人間の判断基準を自動的に法則化する手法の総称である。機械学習では、教師データとして人間の判断結果を大量に用意し、コンピュータで同様の予測・識別結果を得られるように学習する。データをもとにコンピュータが判断のルールを学習するため、判断基準が明確でない事象の予測・識別に対しても適用できる。データを十分に用意できる場合には、予測・識別を精度良く行うことができるが、データが不十分な場合には性能を発揮できない。また、学習で与えたデータから大きく外れるデータに対しては、一般的に精度が低下する。

(3)ディープラーニング

ディープラーニングとは機械学習の1手法であり、生物の神経細胞のモデル化を目指した研究に端を発したニューラルネットワークにより予測・識別を行うものである。ニューラルネットワークは、層(Layer)と呼ばれる演算処理モジュールを組み合わせて構成される。入力から出力へ層がー直線につながる単純な構造から枝分かれや再帰構造をもつ複雑な構造まで、目的とするタスクに応じてさまざまなニューラルネットワーク構造が提案されている。大量のデータと豊富な計算資源が必要となるものの、近年の計算機の性能向上と並列化などによる計算効率の向上に支えられ、活用が進んでいる。

ディープラーニングが注目を集め始めたきっかけの1つが、2012年の画像認識の国際コンテストImageNet Large Scale Visual Recognition Challenge 2012(ILSVRC 2012)である。同コンテストの分類部門において、画像の1000クラス分類を競い、評価基準として上位5つの候補クラスの中に正解クラスが含まれていない割合であるTop5エラー率が使われた。このコンテストで、ディープラーニングを用いない機械学習手法を用いたチームのTop5エラー率が26.2%以上であったのに対し、ディープラーニングを利用したチームは約16.4%のTop5エラー率を達成した*1。さらに2015年には、人間のTop5エラー率といわれる5.1%*2よりも低い4.94%という数字を達成する*3など、急速に研究が進んでいる。2010年代以降、ディープラーニングは画像分野以外の機械翻訳や対話プログラム、コンピュータ囲碁など様々な分野に応用され、進化を続けている。

ディープラーニングの研究が急速に広まった理由の1つは、様々な分野の課題で得られた知見が共有可能であり、応用可能性が高いためと筆者は考えている。例えば、画像から工業製品の欠陥を検出する課題と、手書き文字を認識する課題は、入力データが画像である点は共通しているが、まったく別の課題である。それにもかかわらず入力データが画像データであるという共通点があるために、どちらに対しても多くの場合畳み込み層と呼ばれる層が有効に作用する。畳み込み層は、画像の局所的特徴を抽出することが可能な層であり、学習によって決定されたエッジ強調フィルタや平滑化フィルタなどのフィルタ処理を行う。現在、画像データに対する畳み込み層のように、データの種類や予測・推定する内容に合わせて様々な「層」が研究・提案されている。ディープラーニングはそれらの層を組み合わせることで多種多様な課題に対応が可能となるため、高い応用可能性を持つ。

  • 本レポートは当部の取引先配布資料として作成しております。本稿におけるありうる誤りはすべて筆者個人に属します。
  • レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。全ての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。

関連情報

この執筆者はこちらも執筆しています

ページの先頭へ