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社会動向レポート

PFI導入に当たっての留意点

公立病院整備事業へのPFIの導入について(1/3)

コンサルティング第2部
研究員 加藤 隆一
研究員 長谷川 薫
研究員 石井 由佳


近年、施設整備を伴う病院PFI事業が公募されていなかったが、PFIを導入することで、財政負担の縮減やサービス水準の向上等の効果を見込むことが可能であり、成否は事業スキームの構築にあると考える。

1.はじめに

我が国には令和3年8月時点で約8,200の病院があり、うち公立病院(本レポートでは、開設者が都道府県、市町村、地方独立行政法人である病院とする)は約900ある*1。これら公立病院はそれぞれの地域において重要な役割を果たしてきたが、昨今では、経営状況の改善、医療機能の明確化、施設の老朽化への対応などが求められている。こうした環境下において、公立病院の整備や維持管理等を効率的かつ効果的に行う手法としてPFI(Private Finance Initiative)が有効であると考える。PFIとは、公共施設等の設計、建設、維持管理、運営等を民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用して行う手法であり、官民連携を意味するPPP(Public PrivatePartnership)の一つである。

PFIは、平成11年の民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(以下「PFI法」という。)の制定以降、着実に実施件数を伸ばしてきた*2。特に近年は、内閣府により積極的に推進されており、平成27年に「国や例えば人口20万人以上の地方公共団体等において、一定規模以上で民間の資金・ノウハウの活用が効率的・効果的な事業については、多様なPPP/PFI手法導入を優先的に検討するよう促す仕組みを構築するとともに、その状況を踏まえつつ、適用拡大していく」*3という経済財政運営の方針が示されたり、令和3年には「優先的検討規程を定め、的確な運用が求められる地方公共団体を人口20万人以上から人口10万人以上の団体に拡大」*4するアクションプランが公表されるなどしている。こうした施策の成果もあり、特に近年の実施件数の増加は顕著であるといえよう。(図表1)

また、PPP/PFIの事業規模についても、平成25年度から令和4年度までの事業規模(契約締結した事業から見込まれる民間事業者の契約期間中の総収入)目標を21兆円と設定していた中、令和元年度までで約23.9兆円*4となり、3年前倒しで達成された。

一方で、施設整備を伴う病院PFI事業(以下「病院PFI」という。)は平成11年以降17件に留まっており、令和3年に東京都の多摩メディカル・キャンパス整備等事業が公募されるまでの間、約10年にわたって公募されていなかった。

近年、病院PFIが実施されていなかった要因としては、病院PFIのうち初期に実施された2件が事業期間中に中途で契約解除に至ったため敬遠されてきたのではないかと考えるが、筆者は、病院施設の整備にPFIは決して不向きではなく「包括発注・性能発注・長期契約」というPFIの特徴を活かし、それぞれの事業の特性に応じた事業スキームを構築すれば、財政負担の縮減やサービス水準の向上等の効果を発揮させることが可能であると考える。

本レポートでは、病院施設の整備事業へのPFI導入について、先行事例を整理するとともに、その効果や課題について考察する。


図表1 PFI事業の実施状況
図表1

  1. 事業数は、内閣府調査により実施方針の公表を把握しているPFI 法に基づいた事業の数であり、サービス提供期間中に契約解除又は廃止した事業及び実施方針公表以降に事業を断念しサービスの提供に及んでいない事業は含んでいない。
  1. (資料)「PFI事業の実施状況(令和2年度末)について」(令和3年11月12日内閣府)

2.病院施設整備に係る事業方式について

病院施設整備に係る事業方式として、代表的なものに、従来方式(本レポートでは、各業務を個別に発注する方式とする。)、ECI(Early-Contractor-Involvement)、DB(Design-Build)、PFIがある。各事業方式の特徴を以下及び図表2にまとめた。


図表2 施設整備方式の整理
図表2

  1. (資料)みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社作成

(1)契約形態

従来方式は、設計、建設、維持管理、運営がそれぞれ個別に契約されるのに対して、建設会社が設計に技術協力をするECIや、設計・建設が包括されるDB、PFIは、設計・建設段階において、建設に関するノウハウを設計に活かして、コスト削減や工期短縮を図れるメリットがある。

また、PFIは、設計・建設に加えて維持管理・運営についても包括して契約することで、維持管理・運営を考慮した施設を設計・建設できるメリットがある。ただし、病院施設には様々な維持管理・運営業務があるため、各業務についてPFIの業務範囲とすることで民間のノウハウが発揮され、発注者としてメリットがあるか検証することが重要である。

(2)発注形態

発注形態は、発注者が実施方法を細かく規定する「仕様発注」と、発注者が求める性能を規定し、受託者が実施方法を提案できる「性能発注」に大別される。例えば、建設業務における仕様発注では、発注者が示す設計図書に基づき事業者が施工をするのに対し、性能発注であれば、発注者は建物や設備に求める性能(要求水準)を示し、事業者が施工方法を提案し施工する。DBやPFIの発注形態は、性能発注である。ただし、性能発注でも全てを提案に委ねた方がよいというわけではなく、内閣府においても、「仕様規定を全く採用すべきでないということではなく、提示した仕様が民間の創意工夫を阻害するか否かでその可否を判断すべきである。」*5という考え方を示している。

つまり、DBやPFIの場合は仕様発注と性能発注をうまく組み合わせて、機能上必要な要件は仕様発注とし、民間の創意工夫を期待する内容は性能発注とすることが望ましい。仕様規定として求められる要件も多く存在する病院施設では、特にこうした整理が重要となる。

(3)契約期間

従来方式では単年度契約が原則であるが、PFIでは長期の複数年度契約が可能である。PFIの契約期間は、長期契約による民間ノウハウの発揮やコスト削減等のメリット、各種リスク等のデメリットを考慮して、事業ごとに適した期間を採用する。なお、長期契約になることで、PFIの業務範囲とした維持管理・運営業務に係る費用は概ね確定するため、公共側には、事業期間中の費用増加リスクを抑える効果がある。

(4)資金調達

従来方式、ECIやDBでは公共側が設計・建設に係る資金を調達する必要があるが、PFIでは事業期間が長期にわたるため、事業に必要な資金を民間事業者の調達とすることが可能であり、公共側は設計・建設に係る費用を事業期間にわたって民間事業者に割賦で支払うことで、財政支出を平準化することが可能となる。ただし、公共の調達金利は民間事業者よりも低いことも多いため、公共側が資金調達をして、民間事業者が資金調達をしないスキームにすることも可能である。

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