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社会動向レポート

企業に求められるカーボンニュートラル制約下におけるプラスチックに関わるサーキュラーエコノミー対応(1/3)

サステナビリティコンサルティング第2部 上席主任コンサルタント 佐野 翔一

企業はカーボンニュートラルだけでなくサーキュラーエコノミーへの移行も求められつつある。本稿ではそれら両面において社会的関心が高いプラスチックに着目し、企業が両者への対応を一体的に進めるために必要なアクションについて検討した。

1.はじめに

2015年頃より、欧州を中心にサーキュラーエコノミー(循環経済、循環型経済とも言われる)への移行を求める声があり、年々その声は高まっている。当初、日本では官公庁において資源循環分野における政策議題として関心を集めていたものの、民間企業の関心は限定的であった。しかしながら、近年は新聞等の幅広いメディアにおいても度々取り上げられるなど、民間企業を含めた社会全体での関心が高まっている。

サーキュラーエコノミーとは、「ライフサイクルのあらゆる段階で資源の効率的・循環的な利用を図りつつ、付加価値の最大化を図る経済」であり、動脈産業(製造業など)・静脈産業(リサイクラーなど)問わず、多様な産業が対象となり得る。サーキュラーエコノミーにおいては、かつて3R(リデュース、リユース、リサイクル)として社会における環境対応あるいは企業におけるCSR対応の一環として扱われていた取組に加えて、デジタル技術を活用した各種取組(たとえば、IoTを活用した需給調整やシェアリングなど)が積極的に活用される。また、これらの取組により、新たなビジネスを生み出し経済成長を目指すものとなっている。こうしたサーキュラーエコノミーへの移行を、経営ビジョンで位置付ける企業や推進部署を設置する企業等が登場している状況にある。

他方、近年最も関心を集めているサステナビリティテーマは、カーボンニュートラルであり、各企業により、移行に向けた対応が急速に進められている。企業は多様なステークホルダー(政府、投資家、NPO及び取引先等)からカーボンニュートラルへの対応を求められており、企業によるこうした取組に関わるニュースを見ない日がないほど、ホットトピックになっている。このようにカーボンニュートラルへの対応は企業にとって事業活動上の制約と言ってよいレベルになって来ていると言えるだろう。そのような状況と比較すると、サーキュラーエコノミーへの対応は多くの企業にとってまだまだ優先度が低く、今後対応が必要となり得るサステナビリティテーマの一つでしかないというのが実態である。

同じサステナビリティテーマであってもこのような状況差があるサーキュラーエコノミーとカーボンニュートラルは、相互関係が無いものと捉えられることがあるが、国内外の政策に係る議論においては、サーキュラーエコノミーの推進は、カーボンニュートラルの実現に直結すると考えられている。また、先進的な企業では既にサーキュラーエコノミーへの移行に資する取組を通じてGHG排出削減を図っている。そこで、本稿では、はじめにカーボンニュートラルとサーキュラーエコノミーの関係についてレビューを行い、続いて、サーキュラーエコノミーとカーボンニュートラルの両面に係る素材・製品の内、特に企業の動きが活発なプラスチックを対象として関連動向を整理し、企業がカーボンニュートラルと整合したプラスチック対応を進める上で求められるアクションについて検討した。

2.カーボンニュートラルとサーキュラーエコノミーの関係

カーボンニュートラルとサーキュラーエコノミーの関係に関しては、大きく2つの視点がある。一つは「サーキュラーエコノミーに資する取組によるGHG排出削減」、もう一つは、サーキュラーエコノミーに資する取組による「カーボンニュートラル実現に必要となる技術・製品に用いられる資源の確保」である。本レポートでは特にプラスチックと関連した議論が盛んに行われている前者に注目して議論を行うこととした。なお、後者については、たとえば電気自動車のキーデバイスであるバッテリーに利用される鉱物資源(リチウム、コバルト等)の安定的確保に向けたバッテリーのリユースやリサイクルが該当する。

前者の「サーキュラーエコノミーに資する取組によるGHG排出削減」に関しては、欧州委員会が2019年に発表した欧州グリーンディール(2050年までにカーボンニュートラルを目指す政策パッケージ)の中で、特に産業部門におけるカーボンニュートラル実現に向けた政策としてサーキュラーエコノミーを位置づけている。日本においても、2022年6月に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画・フォローアップ」*1において、カーボンニュートラルと整合する循環経済への移行に向けて工程表と戦略を2022年度に策定するとしている。

サーキュラ―エコノミーに資する取組によるGHG排出削減への定量的な貢献可能性の把握には、国連環境計画・国際資源パネルの資料が役立つ*2。世界全体のGHG排出量が49GtCO2であるのに対して、金属、非鉄金属、プラスチックとゴム、木材生産と言った物質生産による排出量は11.5GtCO2と23%を占める結果となっている。同値は1995年の15%と比べると8%増加している。今後、企業が省エネルギー対策や、再生可能エネルギーへのシフトを進めることで、自社における直接排出や調達した電気等使用に伴うGHG排出量が減少していくことを踏まえると、カーボンニュートラルの達成に向けては、素材由来のGHG排出の占める割合への関心が今後より一層高まると予想される。また、昨今のサプライチェーン排出量の削減に向けた企業の動きの一環として、SCOPE3(事業者の活動に関連する他社の排出)におけるカテゴリ1(購入した製品・サービス)の削減に向けて、素材の見直しを進める企業が多数登場しつつある。

GHG排出削減に繋がるサーキュラーエコノミーに資する取組は多様である(図表1)。たとえば、製品の寿命延伸、リサイクルによる廃棄物の活用、製品設計の変更及び、素材の変更等の取組が挙げられる。これらの取組は金属やプラスチックの物質需要の削減をもたらし、物質生産に伴うGHG排出量を削減することが期待できる。但し、このようなサーキュラーエコノミーに資すると考えられる取組が、必ずしもGHG排出削減に繋がらないケースがあることにも留意が必要である。国立環境研究所及び東京大学の共同研究*3では、耐久消費財を対象としたサーキュラーエコノミーに資する取組(レンタル、シェアリング、修理等)によるGHG削減効果に関する文献をレビューし、対象製品、取組の種類によっては、輸送の増大、使用頻度や製品寿命の変化などが要因となり、取組によってはGHG排出量が増加することがあるとしている。なお、こうした要因は各企業の取組に応じたプロセス別のGHG排出強度に依存し、また、それは中長期的には電源の脱炭素化の進展により改善される部分もあると考えられる。

以上のように、サーキュラーエコノミーに資する多様な取組はGHG排出削減にも寄与することが期待できることから、今後、カーボンニュートラルの実現に向けて最大限活用していくことが求められるものである。ただし、その効果は各企業の取組によって異なり、さらには将来的なGHG排出削減対策の導入によっても異なってくることにも留意が必要である。


図表1 GHG 排出削減に繋がるサーキュラーエコノミーに資する取組(例)
図表1

  1. (資料)Circle Economy(2019)「The Circularity Gap Report 2019」を参考にみずほリサーチ&テクノロジーズ作成

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