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アフターコロナの新たな旅行傾向(1/3)

2022年11月
みずほリサーチ&テクノロジーズ 戦略コンサルティング部 久米 雅人


はじめに

2019年まで日本、世界ともに拡大し続けていた旅行市場は、2020年から世界的な新型コロナウイルス感染拡大により壊滅的な打撃を受けたが、現在は、繰越された需要を背景に回復しており、時間をかけずコロナ渦前の水準に持ち直すものと思われる。一方、コロナ渦がもたらした人々のライフスタイル・価値観の変化や、旅行市場が低迷している際も進行した社会的な長期トレンドを背景に、新しい旅行の傾向が生まれつつある。本レポートでは、足元の旅行市場を概観し、新たな旅行の在り方について考察したい。

1. 日本市場動向

(1)コロナ禍中の市場推移

国内旅行市場は、新型コロナウイルス感染拡大状況に合わせた政府の人流抑制策に大きく影響を受けている。実際、国内旅行者数は、「緊急事態宣言」の有無に大きく左右されてきた。2020年4月、初の「緊急事態宣言」が発出され、国内旅行者数は激減した。その後、「緊急事態宣言」が解除され、Go Toトラベルキャンペーン実施期間中に、国内宿泊者数は伸長したが、2021年初からの感染者数増による2度目の「緊急事態宣言」発出を受け再度低迷した。以降、新型コロナウイルス感染拡大状況に応じた「緊急事態宣言」の有無により、国内旅行者数が変動する状況である。

これまでの実績を見ると、政府の人流抑制策である「緊急事態宣言」の解除から3か月程度で需要の回復が確認できる。実際、足元は2022年3月の「まん延防止等重点措置」解除を最後に人流抑制施策が実施されておらず、2022年5月には、33,101千人と前年同月対比163.7%、新型コロナウイルス感染拡大前の19年 同月対比79.4%まで回復している。

一方、国内旅行市場の約2割を占める外国人宿泊者数は、2020年4月に観光目的の「渡航規制」の強化にて、以降2年超の間、実質的に閉鎖されており、インバウンド市場は消失した。


図表1-1 延べ宿泊者数と新規陽性者数の推移
図表1

  1. (注)左縦軸:宿泊者数、右縦軸:感染者数。
  1. (出所)観光庁「宿泊旅行統計」とNHKホームページよりみずほリサーチ&テクノロジーズ作成

(2)インバウンド市場の再開と見通し

しかしながら、インバウンド市場は直近回復しつつある。2022年6月、9月の段階的緩和、10月の入国者数上限撤廃・ツアー以外の個人旅行の解禁・短期滞在ビザの免除を通じて、おおよそ2年半の期間を経て市場は再開した。

また、国際旅行者の意識調査において、日本は旅行先として高いスコアを獲得しており、訪日意欲は継続していることが窺える。例えば、世界経済フォーラムによる「2021年旅行・観光開発指数」においては指数1位である。その他、日本政策投資銀行と日本交通公社の共同調査「DBJ・JTBF アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査(第2回 新型コロナ影響度 特別調査)」によれば、「次に海外旅行したい国・地域」の質問に対し、いずれの地域に住む訪日外国人旅行者の間でも日本がトップであった。こうした点を踏まえると、現在の政府の「渡航規制」の緩和に応じ、インバウンド市場の早期回復が見込めるだろう。


図表1-2 「2021年旅行・観光開発指数」ランキング
図表1-2

  1. (注) 旅行・観光開発指数:世界経済フォーラムが各国の旅行・環境事業環境の評価を指標化したもの。
    117の国及び地域を対象として、「環境」「政策」「インフラ」「需要牽引」「持続可能性」の5領域の視点から評価している。
    対象の国及び地域の指数の平均は4.0。
  1. (出所)世界経済フォーラム「Travel & Tourism Development Index 2021」よりみずほリサーチ&テクノロジーズ作成

図表1-3 次に海外旅行したい国・地域
図表1-31

図表1-32

  1. (注) 訪日外国人旅行者向けの質問「次に海外旅行したい国・地域(回答は最大5つまで)」への回答結果
  1. (出所)「DBJ・JTBFアジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査(第3回 新型コロナ影響度 特別調査)」よりみずほリサーチ&テクノロジーズ作成

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