閉空間内の水素拡散挙動のシミュレーション
使用ソルバー:reactingFoam*1
キーワード:拡散、乱流、圧縮性、熱輸送、カスタマイズ、Hallwayモデル、並列化
- *1)境界条件、実効拡散係数の導入などのカスタマイズを行っています
燃料電池や事業用発電燃料として注目されている水素は、利用時にCO2を排出しないクリーンなエネルギー源として期待されています。しかし、一定条件で爆発する危険性があり、その安全性の対策が欠かせません。特に、密閉された建物や容器内での水素漏洩と滞留の防止を評価することが重要です。そこで、水素漏洩や滞留といった安全性にかかわる要因を評価する手法として、気体の流動、濃度拡散、熱輸送を考慮した閉空間内の水素拡散挙動のシミュレーションを実施しています。
この検討では対象とする現象に対して、境界条件や濃度拡散の取り扱いがOpenFOAMの基本機能だけでは不十分なため、境界条件(流入境界、圧力境界)の改良を行い、また、濃度拡散については実効拡散係数を考慮できるようにソルバのカスタマイズを行っています。
下図はHallWay実験モデル(部分開放の空間)による実験とOpenFOAMによるシミュレーション結果を比較したものです。

HallWay実験モデル概観(単位はm)
水素の体積分率


ケースA(換気量:大)

ケースB(換気量:小)
容器内の水素ガス拡散の様子
ケースAとケースBでは水素ガスの漏洩量(容器内への流入量)、温度の条件は同じですが、ガスの換気量が異なります。ケースBのほうが換気量が少なく、ケースAに比べて明らかに、漏洩した水素ガスが容器内に滞留していることがわかります。

ケースA条件における測定位置Aの水素濃度変化のシミュレーションと実験の比較
(シミュレーションは600秒までのH2濃度上昇を予測している。
実験は同じ実験を4回行いその内の2回の結果をグラフに表示している。)
- [1]井上雅弘、月川久義、金山寛、松浦一雄、“室内における漏洩水素の拡散に関する実験的研究”、水素エネルギーシステム、Vol.33,No.4(2008),P32-43
シミュレーションの濃度上昇の予測は実験結果と相関が取れています。測定点の水素濃度の上昇が約5%で止まる点もよく一致しています。このように本シミュレーションは予測精度も高く、また、燃焼モデルによる水素爆発の考慮も可能であり、水素などの爆発性ガス全般の安全性予測に活用できます。
- *OpenFOAMはOpenCFD社の登録商標です。
- 適用事例(1):閉空間内の水素拡散挙動のシミュレーション
- 適用事例(2):塗布シミュレーション
- 適用事例(3):カスタマイズ例の紹介
- 適用事例(4):専用シミュレーションシステムの構築