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エネルギー供給構造高度化法と再エネ電力の自家消費拡大に係る考察(1/3)

社会動向レポート

環境エネルギー第2部 コンサルタント 中村 悠一郎

本稿では、再生可能エネルギー由来の電力(以下、「再エネ電力」)等の非化石電源の拡大を目指すエネルギー供給構造高度化法と、家庭等で進む再エネ電力の自家消費の拡大について概要を整理する。そのうえで、再エネ電力の自家消費の拡大が、エネルギー供給構造高度化法の達成を困難にする可能性があることをシミュレーションにより示し、この課題を解決するための制度設計の在り方について提言する。

1エネルギー供給構造高度化法と非化石価値取引市場の創設

(1)エネルギー供給構造高度化法

2017年度の総合エネルギー統計に基づけば、同年度における日本の一次エネルギー供給*1のうち、約90%を石油や石炭、天然ガス等の化石エネルギーが占める。その大部分を海外からの輸入に依存しており、同年度の一次エネルギー自給率は9.5%にとどまる1。また、発電電力量についても同様であり、2018年度の約80%の電力は化石エネルギーにより発電されている(図表1)。

一方、発展途上国の経済成長による世界的なエネルギー需要の増大や、化石燃料の市場価格の乱高下等、エネルギー市場の不安定化が懸念されている。また、2016年に採択されたパリ協定に代表されるとおり、温室効果ガス排出量の削減が国際的な課題として共有されており、日本政府としても、「2030年度における温室効果ガス排出量を2013年度比26%削減」するという、いわゆる“2030年目標”を掲げている。

これらの状況を踏まえ、エネルギー供給構造高度化法(以下、「高度化法」)では、国内でエネルギーを供給する事業者(電気事業者、ガス事業者等)に対して、「非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用」を促進するために「必要な措置を講じる」こととしている。電気事業者に焦点を当てた場合、高度化法に基づく判断基準(非化石エネルギー源の利用に関する電気事業者の判断基準(平成29年経済産業省告示第130号))では、日本国内の各電気事業者に対して、各社が供給する電力量に占める非化石電源に由来する電力量の比率(以下、「非化石電源比率」)を、2030年に44%以上とすることを目標として定めている。非化石電源とは、原子力、再生可能エネルギー(以下、「再エネ」)等の化石電源以外の電源を意味する。44%という値は、上述の2030年目標の達成のために想定されている電源構成(原子力:20~22%、再エネ:24~22%)と整合する2。資源エネルギー庁によれば、2018年度の非化石電源比率は23%であり、原子力:6%、再エネ:17%(水力、新エネルギー等及び非化石証書等の和)であった3。 2030年の目標値と比較すると、原子力は14~16ポイント、再エネは12~14ポイント程度不足している。このため、2030年に向けて、再エネの更なる導入拡大等が促進されることと考えられる。


図表1 2017年度における日本の発電電力量内訳

図表1

* 化石エネルギーは石油、石炭、LNG、LPG、その他ガス、瀝青質混合物、その他の和
非化石エネルギーは原子力、風力、太陽光、地熱バイオマス、廃棄物、その他、水力の和
(資料)2018年度電力調査統計「発電実績」より筆者作成

(2)非化石価値取引市場の創設

2030年44%の目標達成に向けて、電力市場に供給された非化石電源に由来する電力(非化石電力)を、全ての小売電気事業者が公平に調達できるよう新たに創設されたのが非化石価値取引市場である。これは、非化石電力が有する非化石価値(排出係数ゼロの価値等)を電力から切り離し、非化石証書という商品として別個に取引することを可能とする仕組みである。これにより、自社で非化石電源を保有しない小売電気事業者においても、非化石証書を購入することで非化石電源比率の向上を図ることが可能となる。このように、電力と非化石価値を分離して個別の市場で取引可能とすることで、小売電気事業者における非化石価値の調達環境・アクセシビリティの改善を図るのが非化石価値取引市場の目的である。なお、非化石証書として発行される非化石価値は電力系統(通常の送配電網)を流れている非化石電力が対象であり、家庭や事業所等における再エネ電力の自家消費分等は対象外と整理されている。

高度化法の目標達成のために小売電気事業者が非化石価値(非化石証書)を必要とすれば、自ずと非化石電源の導入拡大にもつながると考えられ、このことを通じて日本全体の非化石電源比率の向上を図る仕組みである。なお、2018年度の高度化法報告に基づけば、2030年度の高度化法目標の達成手段として、多くの小売電気事業者が非化石証書の購入を挙げており、非化石価値取引市場という仕組みの重要性・必要性がうかがい知れる3

2自家消費モデルの推進

次に、官民双方で推進が図られている「再エネ電力の自家消費モデル」について述べる。

資源エネルギー庁では、第5次エネルギー基本計画における「再生可能エネルギーの主力電源化」の実現に向けて、各種検討会において政策課題・制度設計等について議論・検討を行っている。その検討課題の一つに「需給一体型の再エネ活用モデルの促進」(以下、「再エネ電力の自家消費モデル」)がある4

このような検討が進められている背景として、資源エネルギー庁では、世界及び日本において、以下に提示するような社会トレンド及び構造の変化が生じていることを指摘している。

  1. 1)太陽光発電コストの急激な低下
  2. 2)イノベーション(デジタル技術)の発展と社会システム(電力システム)の構造転換の可能性
  3. 3)電力システム改革の展開
  4. 4)再エネ電力を求める需要家とこれに応える動き
  5. 5)(特に日本では)固定価格買取制度(FIT)による買取期間を終え、投資回収が完了した安価ないわゆる“卒FIT電源”の大量出現

また、これらの結果として、「大手電力会社が大規模電源と需要地を系統でつなぐ従来の電力システム」から、「分散型エネルギーリソースも柔軟に活用する新たな電力システム」への変化が生まれつつあるとも指摘している。

さらに、資源エネルギー庁の各種検討会における議論では、例えば、家庭においては、FIT買取価格の低下やFIT買取期間の終了等による自家消費のメリット拡大により、今後は蓄電池や電気自動車等の自家消費率の向上に寄与する機器の導入が進むとされている。実際に、2019年11月からのFIT買取期間を終了した電源(以下、「卒FIT電源」)の登場にあわせて、様々な事業者が余剰電力の買取サービスを打ち出しているが、その中には蓄電池やヒートポンプ式給湯機(エコキュート)等の導入とセットでサービスを提供する事業者も多い(図表2参照)。


図表2 卒FIT 電源に関連する各社のサービス概要

図表2

(資料)各社ホームページより筆者作成


また、家庭だけでなく事業所や工場等の大口需要家においても、事業所や工場が立地する需要地点における再エネ電源の第三者保有サービス等、FITを前提としない再エネ電力の自家消費モデルが登場し始めており、これらを推進することの重要性も指摘されている。なお、第三者保有サービスとは、

  1. 1)例えばメーカーや電気事業者等が資金を供出して太陽光発電設備を購入・保有
  2. 2)当該設備を家庭や事業所等の屋根に無償で設置
  3. 3)発電された電力のうち、家庭や事業所等が自家消費した電力に対して、メーカーや電気事業者等は料金を請求(通常の電気代より安価であることが多い)
  4. 4)余剰電力については、FIT売電等を通じてメーカーや電気事業者等が収益を獲得

というモデルのことである。このとき、家庭や事業所等においては初期費用ゼロで太陽光発電設備を利用する権利を獲得し、なおかつ、通常の電気代より安価に自家消費ができることから、電気代の削減にもつながる。設備の利用者ではない第三者が設備を保有することから、第三者保有サービスと呼称される。図表3では太陽光発電設備の第三者保有サービスを提供している事業者を例示する。

このように、官民を挙げて再エネ電力の自家消費モデルが推進されており、例えば、家庭用蓄電池においては、2023年度の国内の市場規模が1,200億円に達すると見込まれている(2018年度比約1.5倍)5


図表3 太陽光発電設備の第三者保有サービスの例

図表3

(資料)各社ホームページより筆者作成

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