環境エネルギー第1部 チーフコンサルタント 川村 淳貴
おわりに
自動車関係諸税は、産業政策の観点では我が国の基幹産業である自動車業界に影響を及ぼし、財制度の観点では地方自治体の貴重な財源でもあり、気候変動の観点では自動車の脱炭素化への移行を促進する政策とも捉えることができる。様々な利害が取り巻く自動車関係諸税が担う役割は多くあるだろう。その中で、ここ数年の自動車業界の変革に伴う新たな技術やサービスを契機として、抜本的な税制改革に向き合わねばならないフェーズに入っている。
本稿では、中長期を見据えた自動車関係諸税の選択肢の一つとして走行距離課税を取り上げた。今回は、欧州委員会を参考に、税収中立の観点から試行的に税率を設定して分析を行ったが、実際に具体的な検討を行う際は、税収中立に加え、特定の車種や地域に税負担が偏らないようにする配慮が欠かせない。また、外部性の選定や税率の設定においては、国として重視すべき問題やその対策コストに応じても異なってくることから、我が国の自動車を取り巻く状況や行政ニーズを踏まえ、制度設計を慎重に進めていく必要がある。
さらに、走行距離課税の導入に向けては、税収中立以外にも多くの課題がある。本稿では取り上げなかったが、走行データを取得するデバイスの開発、データ管理システムの構築やセキュリティの確保、プライバシーへの配慮など、技術的課題の克服や社会受容性の配慮も必要である。欧州諸国の一部では、貨物車やバスに対象を絞りつつ、走行距離課税の拡大を着実に進めており、そうした知見も整理していく必要がある。
中長期を見据えた理想的な自動車関係諸税の検討にあたっては、そうした実現可能性を踏まえつつ、本稿で示したような定量的な分析に基づき、分析的かつ多面的な政策評価が行われることを期待したい。
注
- (1)自由民主党・公明党(2018)「平成31年度税制改正大綱」
- (2) 日本経済新聞「車税制を抜本改革 走行距離で課税、EV やシェア対応(2018/11/27)」
- (3) 産経新聞「自動車税の抜本改革検討へ 走行課税の導入も(2018/12/6)」
- (4)日本自動車工業会(2019)「令和2年度税制改正に関する要望書」
- (5)日本経済団体連合会(2019)「令和2年度税制改正に関する提言」
- (6)総務省(2013)「自動車関係税制のあり方に関する検討会報告書」
- (7)東京都(2018)「平成30年度東京都税制調査会答申」
- (8)宇沢弘文(1974)「自動車の社会的費用」岩波新書
- (9)兒山真也、岸本充生(2001)「日本における自動車交通の外部費用の概算」運輸政策研究、Vol.4, No.2,pp.19-30
- (10)金本良嗣(2007)「道路特定財源制度の経済分析」日本交通政策研究会、第1章、pp.1-32
- (11)IEA (2019) 「Global EV Outlook 2019」
- (12)Van Dender, K. (2019)「 Taxing vehicles, fuels, and road use Opportunities for improving transport tax practice」OECD Taxation Working Papers No.44
- (13) 欧州委員会ウェブページ
- (14)Ministry of Finance(Netherlands)へのヒアリングによる
- (15)Ministry of Infrastructure and Water Management,Netherlands(2019)「Introduction of Heavy Goods Vehicle Charge-On the road to a competitive and sustainable transport sector」
- (16)European Commission(2019)「Assessment of the State of play of Internalisation in the European Transport Sector」
- (17)European Commission(2020)「Handbook on the external costs of transport Version 2019-1.1」
- (18) 日本自動車工業会ウェブページ
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