みずほリサーチ&テクノロジーズ 環境エネルギー第2部 谷口 友莉
- *本稿は、『産業洗浄』No.28(日本産業洗浄協議会、2021年11月発行)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。
本稿では、国内でのプラスチックリサイクルに関する政府方針に関して2021年6月に公布された「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」に触れつつ、国内のプラスチックリサイクルの現状と課題についてまとめる。
プラスチックリサイクルへの政府方針
資源・廃棄物制約、海洋プラスチックごみ問題、地球温暖化、アジア各国による廃棄物の輸入規制などの幅広い課題に対応するため、日本では2019年5月に「プラスチック資源循環戦略」が策定された。基本原則として「3R+Renewable」(3R:リデュース.リユース.リサイクル)が掲げられ、目指すべき方向性としてマイルストーンが設定された(表1)。マイルストーンの設定にあたっては2018年のG7海洋プラスチック憲章の数値目標を踏まえており、目標が設定された3Rの項目はほぼ一致している。一方で、「Renewable」にあたるバイオマスプラスチックの導入目標は日本独自のものである。表1ではEUがプラスチックごみや容器包装に関して設定している目標値も示しているが、使い捨てプラスチック製品の削減、特にプラスチック製容器包装をリユース・リサイクルできる設計とすること、それらを回収・再生すること、再生材の利用を増やすこと、という大方針は共通している。
プラスチック資源循環戦略の策定後、象徴的な取り組みとして2020年7月にレジ袋の有料化がスタートした。これと並行してプラスチック資源循環に関する具体的な施策のあり方が経済産業省および環境省の審議会で議論され、2021年1月に「今後のプラスチック資源循環施策のあり方について」という提言がまとめられた。これを受けて、「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(以下、プラスチック資源循環法)」が2021年3月に閣議決定、国会に提出された。法案はその後、衆参両院において全会一致で可決・成立し、2021年6月11日に公布された。審議会での議論*1やパブリックコメントを経て2022年4月に施行される予定である。
プラスチック資源循環法では、「プラスチックに係る資源循環の促進等を図る」ため、基本方針*2を策定することと、個別措置を定めている(表2)。個別措置としては、設計の工夫、使い捨てプラスチックの削減(使用の合理化)、回収・再資源化の促進が並ぶ。法律を紹介する経済産業省や環境省の資料では各措置事項に関する先行事例が例示されており、民間企業ですでに進められている様々な取り組みを阻害せず、トップランナー(先行事例)を応援して企業の自主的な取り組みとして横展開を進めることで全体の底上げを図ろうという意図が見える。
プラスチック資源循環のメインパートとも言える回収・再資源化については、既存の制度との兼ね合いも踏まえて3つの措置事項が挙げられ、市区町村や企業の協力の下、廃プラスチックをいかに資源として回収し再資源化(リサイクル)を進めるかが重視されているように見える。中でも、製造・販売事業者などによる自主回収や排出事業者による再資源化の促進に際しては、プラスチック資源循環法の措置によって、プラスチックリサイクルの拡大を妨げる既存の法律による壁が一部緩和される*3。廃棄物処理法では、廃棄物の収集・処理にかかる業許可について定めており、業許可を持ったリサイクル事業者でないと使用済製品などの廃プラスチックの回収・運搬・処理ができない。先行事例もあるとおり、既存の制度下でも、製造・販売事業者などによる自主回収の取り組みは存在するが、業許可取得のための都道府県・市区町村ごとの行政手続きは非常に煩雑で時間がかかり、ハードルが高いため、大規模な廃プラスチックの回収・再資源化はなかなかビジネスとして発展してこなかった。
プラスチック資源循環戦略や法律の検討も受けて、すでに一部の企業では廃プラスチックの回収・資源化の部分にビジネスチャンスを見出し、一部の使用済プラスチックはブランドや製造事業者による争奪戦の様相を呈している。例えば、使用済PETボトルは飲料メーカー各社が小売や自治体なども巻き込んで、リサイクルのためのまとまった量を集めようと囲い込みを始めている。また、製造事業者などが自社のビジネスに整合する技術や設備を持った有力なリサイクル事業者や技術の囲い込み、買収をしようという事態も見えつつある。政府としては、廃棄物の適正処理が確保される限り、プラスチック資源循環法によってこうした廃プラスチックの回収・再資源化のビジネスの発展を後押しする姿勢であり、事業者間の連携強化や廃プラスチック回収スキームの大規模化などの変化はさらに進むだろう。
表1.プラスチック資源循環に関する目標
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(日本)プラスチック資源循環戦略 | (G7)海洋プラスチック憲章 | (EU)プラスチック戦略、使い捨てプラスチック規 制、容器包装廃棄物指令 | |
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リデュース |
2030年までに、容器包装等ワンウェイプラスチックを累積25%排出抑制 |
代替品の環境影響を考慮し、使い捨てプラの不必要な使用を大幅に削減 |
2021年~カトラリーなど特定の使い捨てプラ製品・容器包装のEU市場への上市を禁止 |
リユース、リサイクル |
2025年までに、プラ製容器包装・製品の機能を確保しつつ、技術的に分別容易かつリユース可能又はリサイクル可能な設計とする。難しい場合にも熱回収を可能に |
2030年までに100%のプラスチックをリユースもしくはリサイクル可能とする。代替品がない場合には熱回収(リカバリー) |
2030年までに欧州市場に投入されるすべてのプラ容器包装は経済的にリユースまたはリサイクル可能とする |
2030年までに、プラ製容器包装の6割をリサイクルまたはリユース |
2030年までにプラ製容器包装の55%以上をリサイクルまたはリユース |
プラ製容器包装を2025年までに50%、2030年までに55%リサイクル |
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2035年までにすべての使用済プラスチックを熱回収も含め100%有効利用 |
2040年までにすべてのプラスチックを熱回収(リカバリー)を含めて100%有効利用 |
2030年までに欧州で発生するプラ廃棄物の半分以上をリサイクル |
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2030年までに、プラスチックの再生利用を倍増 |
2030年までにプラスチック製品での再生材使用を50%以上増やす |
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Renewable |
2030年までに、バイオマスプラスチックを最大限(約200万トン)導入 |
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(出所)各種資料よりみずほリサーチ&テクノロジーズ作成
表2.「 プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」個別措置の概要と先行事例
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措置事項 | 先行事例 | ||
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設 計 ・ 製 造 |
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販 売 ・ 提 供 |
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排 出 ・ 回 収 ・ リ サ イ ク ル |
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(出所)各種資料よりみずほリサーチ&テクノロジーズ作成
関連情報
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2021年2月1日
循環経済 ―サーキュラー・エコノミーへの波(1)
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2020年1月
『みずほグローバルニュース』 Vol.105 (2019年10月発行)