環境エネルギー第2部 谷口 友莉
2022年4月に「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(以下、新法)」が施行される*1。新法は、2019年5月に発表された「プラスチック資源循環戦略」の実行に向けた具体的な施策として打ち出されたものである。新法では、プラスチックを使った製品の設計から廃棄までプラスチックのライフサイクル全体で、企業や消費者、自治体などあらゆる主体がプラスチックの資源循環に向けた取り組みを進めるための措置が盛り込まれている。
新法施行による変化として、食品小売や飲食店、宿泊業などでカトラリーやアメニティなどの素材や提供方法、扱いが変わることが予想される*2。具体的には、軽量化や再生可能材・再生材の採用、有償提供や受け取りを辞退する消費者へのポイント還元などの取り組みが企業に求められている。企業での取り組み方に自由度はあるが、プラスチックの排出量を抑制し、プラスチック消費に対する消費者の意識変革を意図した措置である。2020年7月から始まったプラスチック製レジ袋の有料化では、マイバッグを使う人が増えたほか、紙袋やバイオマスプラスチックを含む袋を提供する店舗も増えた。同じような変化がより多くのプラスチック製品で見られるようになるだろう。
新法では、プラスチック製品のリサイクル促進策も打ち出している。具体的には、企業が計画を策定して国の認定を受ければ、自主回収や再資源化(リサイクル)のために従来は取得が必要であった廃棄物処理業の許可を不要とする例外規定を設けており、規制緩和も含めたプラスチックのリサイクル促進策となっている。細かな運用は、春の新法施行後に具体的な事例を積み上げて決まる見込みだが、企業が自主的に進めている取り組み*2を国が後押しし、同様の取り組みをほかの企業にも普及させていく狙いがある。たとえば、ブランドのサステナビリティ対応に向けた再生材確保のため、素材選択、製品設計から回収とリサイクルまで包括的に行うことも考えられる。1社だけで完結できる取り組みではないので、メーカーやリサイクラーといった動静脈の新しいパートナーと連携する事業機会ともなるだろう。これに伴って、たとえば化粧品や日用品の容器、おもちゃなどの店頭回収が増えることも考えられる。消費者としても買い物や食事に行く際に空容器や不要になったおもちゃを持っていくという場面が増えるのではないだろうか。日用品・消費財メーカー、小売業や飲食店にとってはサステナビリティ対応によるブランド価値の向上だけではなく、たとえば店舗においては容器などの回収が消費者の再来店、つまり次の売上という直接的な経済メリットにつながる可能性がある。
生活のあらゆる場面で使われているプラスチックは、ここ数年で大量消費に付随するさまざまな課題が大きな注目を集めた。よく考えればこの包装はいらない、この袋はまだ使えるなど、プラスチックの消費や廃棄を減らそうという意識が芽生えた読者もいるのではないだろうか。プラスチックの使われ方は少しずつ変わっていくだろう。企業においてもこのままプラスチックを使い続けるのか、新素材の開発や再生材の活用を進めるのか、自社の製品を回収・リサイクルすべきなのか、見直す必要に迫られている。数年後には、生活や企業活動の中のプラスチックはどうなっているのか。変化の転換点はこの春になるかもしれない。
- *1)環境省「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」の普及啓発ページ
- *2)経済産業省や環境省の資料では、たとえば以下のような事例が挙げられている
- プラスチック使用製品設計指針:PETボトルリサイクル推進協議会(国内産業界での設計標準化)、大日本印刷(モノマテリアル包材の実用化)
- 特定プラスチック使用製品の使用の合理化:セブンイレブン(ストローを使用しないフタや、紙・生分解性プラスチック製のストローを導入)
- 市区町村による分別収集・再商品化:ライオン×花王×イトーヨーカドー(使用済詰替パックを回収してブロックなどにリサイクル)、ユニリーバ×花王(使用済ボトルをポイントや限定商品と引き換えに自主回収、ボトルtoボトルリサイクル実証)
- 製造事業者等による自主回収・再資源化:協栄産業(マテリアルリサイクル、回収PETボトルから飲料ボトルへの再生技術をサントリー等と開発)、日揮×荏原環境プラント×宇部興産×昭和電工(ガス化ケミカルリサイクルの協業)
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