戦略コンサルティング部
研究員 長谷川 薫
主席研究員 石川 裕康
主任研究員 加藤 隆一
研究員 髙森 惇史
官民連携手法の導入について(続き)
(3)官民連携手法の導入に向けた検討のポイント
官民連携手法を導入する場合、導入方針の決定に先立って導入可能性調査を行うことが一般的である。その際に、これまで筆者が支援等を行う中で特に検討が必要になると感じたポイントは以下の通りである。
①スケジュール
一般的な施設整備事業を想定した場合、従来方式とPFI方式の事業化までに必要となるスケジュールのイメージは図表4の通りである。なお、施設種別や地方公共団体内におけるPFI事業実施状況等によって調整や検討に要する期間は異なるが、一般的に、PFI方式は従来方式と比較すると、工事の着工までの期間が1年程度長くなる。よって、事業手法を選択するにあたっては、予め事業化までのスケジュールを想定しておくことが重要となる。
PFI方式の検討期間が長くなる具体的な要因としては、(A)入札公告に先立ってPFI導入可能性調査や特定事業の選定等の手続きが必要となること、(B)入札公告の前と後で民間事業者と対話の機会を設けることが多く、その期間を確保する必要があること、(C)従来方式と比べて提案書類が多く、入札公告から提案書の提出までに数か月の期間を設ける必要があること、及び(D)提案書の審査に期間を要すること等があげられる。
ただし、募集から事業契約の締結までの間に時間を確保して、公共と民間事業者との間で対話等を行うことは、検討期間の長期化につながることになる一方で、相互に認識のすり合わせを行うことができ、官民のパートナーシップを構築しやすくなるというメリットも有る。
また、PFI方式では、複数業務を包含する長期契約となるため、事業規模が大きくなり、地元住民や議会からの注目度が高くなる傾向にある。そのため、事業化にあたっては、民間事業者だけでなく地元住民の意向を確認するとともに議会とも十分に議論し、事業条件等を適切に設定することが必要である。この観点からも、適切な期間を確保し、事前に関係各所とも調整を図りながら事業化を進めることが望ましい。
図表4 従来方式とPFI 方式の事業化までのスケジュールのイメージ

(資料)「地方公共団体向けサービス購入型PFI事業実施手続き簡易化マニュアル*6」(内閣府)をもとにみずほリサーチ&テクノロジーズ作成
②業務範囲
官民連携手法においては、民間事業者が創意工夫を発揮できる業務範囲を設定することが重要となる一方、多くの業務を業務範囲とすることで、参画できる事業者が限られてしまう懸念があるため、対象とする業務を検討する際には細心の注意を払う必要がある。
公共スポーツ施設に官民連携手法を採用する場合、施設整備業務(設計、建設や工事監理等)や維持管理業務は業務範囲に含まれる事例が多く、運営業務は既存施設における指定管理の業務範囲等を参考に決定されることが多い。多くの事業において業務範囲に含めるべきか否か議論となるのは、(A)周辺の既存施設の維持管理・運営、(B)大規模修繕業務や(C)統括管理業務の3点である。
(A)の周辺の既存施設における維持管理・運営については、運動公園内に位置する施設等、周辺に公共スポーツ施設が存在する場合に検討が必要となる。既存施設も一体的に管理対象とすることで、民間事業者にエリア全体の利便性向上に資する取り組みを期待できる反面、事業範囲が広がることで参画できる民間事業者数が減らないよう配慮すること、及び既に指定管理業務を行っている民間事業者が情報格差等により入札において有利にならないよう公平性を確保することにも留意が必要となる。
民間事業者数の確保は、業務範囲検討時に、民間事業者に意向調査を実施し、各社の要望も踏まえ検討することが、解決の糸口となる。また、入札における情報格差を解消するためには、実施方針の公表時等の早い段階から積極的に情報を公開する等の対応も考えられる。
(B)の大規模修繕業務については、その業務量が、事業期間が長くなるほど、公共側も民間事業者側も、費用の積算や妥当性の検証が難しくなることがポイントとなる。
特に、民間事業者が整備しない既存施設の維持管理・運営を業務範囲に含む場合、既存施設の修繕業務量を正確に見込むこと自体が難しい。そのため、民間事業者が整備しない既存施設を業務範囲に含む「新青森県総合運動公園新水泳場等整備運営事業(仮称)」等では、既存施設の修繕業務の範囲や金額の上限を明示するとともに、実費相当額支払いとする等の工夫を行っている。
(C)の統括管理業務(統括マネジメント業務を含む)は、これまで「事業者が受託した個別業務の全てを統括することにより、適切なコスト管理及び適切な品質管理を行う」や「発注者のパートナーとして、管理者等が行う業務についても助言・協力を行い、病院の健全経営に貢献する」*7こと等を目的に、特に、病院のPFI事業で業務範囲とされることが多い業務であった。しかし、近年は「愛知県新体育館整備・運営等事業」や「富士市総合体育館等整備・運営事業」等でも業務範囲に統括管理業務が含まれている。これは近年、公共側が、民間事業者に対し、単なる指定管理の延長ではなく、業務全体を一元的に管理し、プロジェクト全体のマネジメントを行い、必要に応じた業務改善実施を求める傾向が強くなってきているためと推察される。
こういった業務範囲については、官民連携手法導入方針を決定した後にも再度検討することが望ましいが、導入に先立って必要な業務を整理することも必要となる。
③PFI方式における事業方式・事業類型
PFI方式については先述の通り、想定される事業方式は、BTO方式、BOT方式、BOO方式、RO方式、及びBT+コンセッション方式がある。近年、BOO方式やBOT方式は、事業期間中の施設に関する固定資産税等が事業費に転嫁されてしまうことから、採用されることは少なくなってきており、公共スポーツ施設ではBTO方式が採用される傾向にある。また、BT+コンセッション方式を採用する施設も出現してきているが、この点については後述する。
事業方式の決定にあたっては、事業費や民間事業者の参画ハードルへの影響を検討し、必要に応じて民間事業者の意向について調査等を行い、適切なリスク分担等の方向性と合わせて決定していくことが望ましい。
④近年注目されるコンセッション方式について
事業方式については、コンセッション方式の採用も検討ポイントとなる。コンセッション方式とは、利用料金の徴収を行う公共施設について、施設の所有権を公共主体が有したまま、施設の運営権を民間事業者に設定する方式のことで、維持管理・運営方式の一つである。一般的には民間事業者が公共に事業期間中の運営権対価を支払う形式が多い。
実施方針公表済みの公共スポーツ施設に関するPFI事業のうち、コンセッション方式は「等々力緑地再編整備・運営等事業」、「新秩父宮ラグビー場(仮称)整備・運営等事業」、「グラスハウス利活用事業」、「愛知県新体育館整備・運営等事業」、及び「有明アリーナ管理運営事業」の5事業において採用されている。このうち有明アリーナを除く4事業はこの3年以内に実施方針を公表した事業であり、その内、「グラスハウス利活用事業」以外の3事業は、施設の運営権対価を施設整備費と相殺することで公共側の初期投資負担を軽減することを企図し、BT+コンセッション方式を採用している。コンセッション方式は近年採用事例が増えてきているが、現時点においては主に大都市に位置し、安定して多くの興行利用が見込まれる施設で採用される傾向にある。
これまで、コンセッション方式は、採算性の観点や民間事業者内の需要変動リスクの分担が複雑になること、公共側の手続きの煩雑さ等の課題から公共スポーツ施設での採用が進まなかったと筆者は考えている。しかし最近では、スタジアム・アリーナ改革の取組により全国的に公共スポーツ施設のプロフィットセンター化が目指されていることや、「PPP/PFI推進アクションプラン(令和4年改定版)」において、コンセッション方式の活用に向けて、内閣府や文部科学省による地方公共団体の支援方針が示されている。内閣府のPFI推進会議における資料でも、これまでコンセッション方式が採用されてこなかった野球場や、大都市以外に位置する体育館が例示*8されており、今後拡充される支援策の内容によっては、採用する施設が増加する可能性もあり、注目が必要である。
⑤VFM
「VFM」(Value For Money)とは、一般に、支払に対して最も価値の高いサービスを供給するという考え方のことで、従来方式で公共が事業を実施した場合の財政負担額(PSC:Public SectorComparator)とPFI方式で事業を実施した場合の財政負担額(PFI-LCC)を算定し、比較する。算定のタイミングとしては、PFI導入可能性調査実施時、特定事業の選定時や落札者決定時等がある。このうち、PFI方式を採用するかどうかを決定する特定事業の選定時において、定量的評価としてVFMを算定することが多いが、コンセッション方式で実施する事業では、ガイドラインにおいてVFMの算定が必須とされていないことや、PSC算出に必要なデータが揃わないこと等を理由にVFMを算定していない事例(「愛知県新体育館整備・運営等事業」、「有明アリーナ管理運営事業」)もある。
PSCやPFI-LCCを検討する際、既存施設を建て替えるようなスポーツ施設の場合は、既存施設の指定管理料をベースに検討を進める事例もある。しかし、既存施設の指定管理料については、物価や人件費等の高騰が反映されていないことや、昨今求められるサービス水準に対して適正な事業費となっていないことがあるため、民間事業者との意見交換等により、市場の実勢価格を踏まえた事業費を算出していくことが求められる。
また、スポーツ施設の場合、費用だけでなく収入の検討も必要である。特に既存施設が無く新たに整備する施設の場合、当該地域の状況や立地も考慮して、利用者数や利用料金の検討を行うことも重要となる。
(4)官民連携手法の導入に向けた検討のポイント
官民連携手法を導入する場合、導入方針の決定に先立って導入可能性調査を行うことが一般的である。その際に、これまで筆者が支援等を行う中で特に検討が必要になると感じたポイントは以下の通りである。
①リスク分担
PFI事業の発注において、一般的に大きなリスクとして考えられるものに、(A)建設費変動リスクと(B)用地リスクがある。このほか、公共スポーツ施設で特にリスクとして議論になるポイントとして、(C)施設需要変動リスクや(D)光熱水費変動リスクも挙げられる。
(A)建設費変動リスクについては、労務費や資材費の高騰により事業費が増加した分を、誰が負担するかという点の整理が必要となる。既述のように、PFI方式は従来方式と比べて、入札から着工までの期間が長い。そのため、その間に資材価格等の高騰があると、提案時の金額では整備ができなくなる可能性がある。特に近年は急激な資材価格高騰や労務費の上昇が発生していることから、事前にリスク分担や基準日等の詳細な適用方法を整理し、物価スライド等の導入により必要な事業費を確保できる仕組みを構築しておくことが必要である。
(B)用地リスクは、地中障害や土壌汚染、埋蔵文化財の発見等がある。PFI事業では比較的多く顕現化しているリスクであることから、可能な限り公共側でリスクの有無を発注前にしっかりと調査した上で、事業を実施することが望ましい。
(C)施設需要変動リスクは、提案時に想定したほど利用者を確保できないことによる収入減少リスクである。本リスクは施設の利用料金収入の帰属を公共とするか、民間事業者とするかによってリスクの負担者は変わるが、特に社会環境の著しい変化等に対応できる仕組みが必要となる。また、国民スポーツ大会の実施に向けた練習環境の確保等、公共側の都合により施設の利用を制限することによって需要が大きく減少する期間が生じる場合、当該期間についてのみ料金収入を公共の帰属とし、リスクの負担者を一時的に変更する等、事前に対策を講じる事例もある。
(D)光熱水費変動リスクは、その単価が増減した場合のリスクと使用量が増減した場合のリスクがある。特に使用量の増減リスクについては、プールのように使用量が非常に多く見込まれる施設の場合、公共と民間事業者とでリスクを分担することがある。
②民間事業者との対話
民間事業者に質の高い提案やノウハウを生かした新たな事業提案を求めるためには、発注者の意図を的確に伝えた上で、民間事業者と認識のズレを無くしていくことが必要となる。そのため、PFI事業においては公募前後で書面による質疑回答や、対面で対話を実施することが一般的である。
官民対話は、実施するタイミングによって趣旨が変わる。事業において明確な懸念事項がある場合や、複雑なスキームを採用する場合等、発注者が事業の大きな方向性を確認したい場合、実施方針の公表前後等に対話を実施し、事業条件の確認に重きを置いた対話を実施する傾向がある。一方で、入札公告後については、民間事業者が、細かな事業条件や図面等の確認を通じて、要求水準の解釈や理解に関する齟齬を解消することに重きを置いた対話を実施する傾向がある。「県プール整備運営事業」(宮崎県)における実施方針公表後の対話では、要求水準等の他に民間収益施設の事業条件が議題として掲げられていたが、入札公告後の対話では議題は民間事業者が提案するものとし、齟齬の解消を目的として実施されていた。
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