戦略コンサルティング部 上席主任コンサルタント 並河 昌平
次世代電力システムとビジネスの推移
前項では、「③次世代電力システム」がどのように進んでいくのかを示した。ここでは、それら「③次世代電力システム」において変化が起こりつつある中で、どのようなビジネスが進んでいくのかについて述べたい。
図表6は、「③次世代電力システム」の変化と「分散型電源」ビジネス、並びに系統を介した再生可能エネルギー電源による発電ビジネス(以降系統再エネ発電ビジネス)の推移を整理したものである。
図表6 次世代電力システムとビジネスの推移(弊社分析)

(資料)みずほリサーチ&テクノロジーズ作成
(1)現在拡大しているビジネス
足元では、「分散型電源」ビジネスとして「オンサイトPPA事業*4」、系統再エネ発電ビジネスとして「オフサイトPPA事業(コーポレートPPAとも呼ばれている)」が立ち上がっている。「オンサイトPPA事業」は、事業者が太陽光発電や蓄電池等の「分散型電源」を需要家に無償で設置し、そこから電力を長期供給していくモデルである。一方、「オフサイトPPA事業」は、発電事業者が太陽光発電等の再生可能エネルギーを系統を介して特定の需要家に長期供給していくモデルである(詳細は本稿の最後に掲載(図表9および図表10)しているので、参照されたい)。これらのビジネスが立ち上がる大きな背景には需要家のRE100への対応、脱炭素ニーズがある。
図表7は、需要家における再生可能エネルギーの調達手段を示している。需要家の再生可能エネルギーの調達手段には、再エネ証書や再エネ電力メニュー等間接的なものから需要家自らが再生可能エネルギー電源を導入する直接的なものまで様々な方法がある。ちなみに、RE100では「追加性」がある取り組みをより推奨している。「追加性」とは、新たに再生可能エネルギーを増やすことにつながる取り組みのことであり、昨今の再生可能エネルギーの価格低下と合わせて、需要家が再生可能エネルギーを「直接」調達していく流れを加速させている。この流れの中で、拡大するのが、「オンサイトPPA事業」、「オフサイトPPA事業」である。一般的には「オンサイトPPA事業」は「オフサイトPPA事業」と比較して託送料金(送配電を使用する料金)や再エネ賦課金がかからないため、経済性に優れている。このようなことから、需要家においては、「オンサイトPPA」を導入しながら、不足する電力について「オフサイトPPA」を活用することになる。
図表7 需要家の再生可能エネルギー調達手段

(資料)みずほリサーチ&テクノロジーズ作成
(2)次世代電力システムにおける新たなビジネス
さて、本題を今後のビジネスの推移に戻そう。これらの「オンサイトPPA事業」、「オフサイトPPA事業」のビジネスは、規模を拡大しながら、先ほどの「③次世代電力システム」の進展を見据えて、新たなビジネスへと発展していく。
「分散型電源」ビジネスの中心となる「オンサイトPPA事業」は、図表6に示しているように、今後台頭する「VPP事業」の中に組み込まれていくことが想定される。「VPP事業」は、如何に「分散型電源」を大量に収集して運用していくかということが鍵となるが、その手段の一つとして「オンサイトPPA事業」が活用されていくものと考えられる。さらに、中長期的には、郊外等の需要が比較的少ない一部エリアにおいて配電・マイクログリッド事業の中心となる「分散型電源」インフラに組み込まれる形で発展するだろう。
一方、系統を介した発電ビジネスで中心となっている「オフサイトPPA事業」は、図表6に示すように、「再エネアグリゲーション事業」に今後組み込まれていくだろう。「オフサイトPPA事業」では、再生可能エネルギーの特性上、需給バランスさせるための「調整力」が必要となる。「再エネアグリゲーション事業」では、これら「オフサイトPPA事業」の需給バランスを多くのPPA事業を束ねることでより効率的に統合管理していく。今後は、系統に接続する大型蓄電池である「蓄電所」からの「調整力」の活用も含めた「再エネアグリゲーション事業」が進められていくだろう。
なお「調整力」の確保という観点からは、これまで述べたように「分散型電源」(特に蓄電池、電気自動車、デマンドレスポンス等)の確保も重要であり、「再エネアグリゲーション事業」と「VPP事業」を今後統合して運用していくプラットフォーマー的な立ち位置の企業もでてくるだろう。
実際、電力業界ではこれまでにない大きな変革が起きている。従来、電力ビジネスは電気を発電する「発電事業者」、電気を送電する「送配電事業者」、電気を販売する「小売電気事業者」から構成されていたが、政府は、この既存の仕組みに、新たな仕組みを入れることで、変革を進めている。例えば、VPP(バーチャルパワープラント)の仕組みを回すため、「アグリゲーター」と呼ばれる「分散型電源」を束ねていく事業者が2022年4月から特定卸供給事業者という形で整備された。また、配電ライセンス制度においては、新たに配電事業を運用する「配電事業者」の枠組みが作られた。さらに、2023年度からは大型蓄電池を用いた「蓄電所」が発電事業として位置付けられる等、事業環境の整備は着々と進んでいる。
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