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2024年5月

大学法人に求められる運用・ガバナンス高度化(1/3)

国際卓越研究大学の要件、海外エンダウメントを参考に

みずほリサーチ&テクノロジーズ 年金コンサルティング部
上席主任コンサルタント 鈴木 麻悌
上席主任コンサルタント 立石 奈津美
コンサルタント 吉村 礼

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大学法人に求められる運用・ガバナンス高度化(PDF/1,596KB)

1はじめに

国際卓越研究大学は、新たな知・イノベーションの創出、人材育成・輩出、資金の好循環を生み出し、社会変革を牽引することを目指している。その実現に向けては、将来的には寄附金等の自己資金による独自基金の造成も視野に入れた、運用益による財源確保を戦略的に行う財務基盤の強化も重要となる。資金運用の側面については、持続的な成長のために必要な運用益を生み出すことと、その運用を実現する高度なガバナンス体制が期待されるものである。この動きは、国際卓越研究大学の認定に限ったものではなく、大学全体の資金運用高度化の指針となるものと考えられる。

一方で、多くの大学の資金運用の実態とは乖離が大きい部分があるのも事実であり、限られた資源を有効活用して高度化に取組む必要がある。本レポートでは、国際卓越研究大学の認定について概観するとともに、大学が目指すべき運用・ガバナンス体制高度化について概説する。

2日本の大学の資金運用の状況

国内の大学の資金運用の状況は大学によって大きく異なる(図表1)。高い目標リターンを設定してリスクをとる運用を実施する大学もあるが、多くは安全資産を中心とした低リスク運用を実施する大学である。特に、国立大学については、余裕金の運用は国立大学法人法に基づき規定されており、投資対象資産を拡大するためには、文部科学大臣の認定を受けることが必要となる*1,2

しかしながら、当社が行った複数の大学への資金運用体制に関するヒアリングでは、限られた人員によって実務が遂行されており、必ずしも十分な陣容とは言い難い状況であった。人員は少数かつ、専門的知識を持つ担当者も限定的で、その不足は運用機関のサポートやコンサルティングの活用等によって補っている例も見られた。

図表1 国内の大学の資金運用状況

図表1

出所:各大学公開資料、J-MONEY「大学基金の運用戦略」等より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

拡大図

3国際卓越研究大学

(1)国際卓越研究大学制度

国際卓越研究大学の制度は、政府が推進する高等教育政策の一環で、世界的な競争力を持つ研究大学を育成することを目的としている。この制度では、選定された大学に対して、特別な支援を行い、教育・研究の質の向上や国際的な交流の推進を図る。具体的には、選定された大学に対して、優秀な研究者や教員の採用や育成、研究環境の整備などのための資金や支援が提供される。

大学の持続的な成長を図り、目指す大学像を実現するためには、大学固有の資産を価値化し、産学協創やベンチャー創出、独自基金の拡充などを通して、新しい資金流を生み出し続けることも重要となる。国際卓越研究大学に関しては、年間3%程度の事業規模の成長と独自基金の拡充により、自律的な財務基盤を強化し、資金循環と学内の資産配分を行うことができるガバナンスが求められる。

(2)大学ファンド

2021年に科学技術振興機構(JST)によって、大学ファンドの運用が開始された。大学ファンドの目的は、その運用益を活用した国際卓越研究大学の研究基盤への長期・安定投資である*3

概要にも示す通り、大学ファンドは支出目標率3%プラス物価上昇率という高水準のリターン目標を掲げている。すなわち、この支出目標率に相当する年間3000億円(上限)が国際卓越研究大学への助成金原資となるため、選ばれた大学への影響は大きい*4。大学ファンドは50年の時限を設定しており、将来的には、各大学が自らの資金のみで研究基盤を維持していくことが想定される。

大学ファンドの概要

  • 基本的な方針
    • -世界と伍する研究大学の実現に必要な研究基盤の構築への支援を長期的・安定的に行うための財源確保
    • -支出目標率3%+長期物価上昇率 以上の収益率
    • -運用益からの支出上限 年間3000億円(実質)
    • -バッファ(備え) 過年度の運用益から6000億円を上限にバッファを確保
  • 資産構成
    • -グローバル株式:グローバル債券 = 65:35 のレファレンスポートフォリオ(※)の標準偏差の範囲内で、可能な限り運用収益率を最大化することを目指して基本ポートフォリオを定める
  • その他
    • -運用開始以降5年以内に年間3000億円の運用益達成を目指す
    • -運用開始以降10年以内に基本ポートフォリオを構築

    ※レファレンスポートフォリオは、許容リスク水準を示すためのポートフォリオ

(3)国際卓越研究大学の公募・選定

国際卓越研究大学に認定された大学については、大学ファンドからの助成を含め、総合的な支援が受けられる。認定される大学は無限に拡大するものではなく、数校に限定される模様である。認定は大学ファンドの運用状況を勘案し、段階的に行われる。なお、申請に関しては、体制強化計画の策定にあたり、下記要件について、世界トップレベルの研究大学をベンチマークとすることが求められている*5,6

昨年から始まった公募では、判断基準として、過去実績のみならず、「変革への意思とコミットメント」が重要になるとのことであり、足元では東北大学のみが認定候補に選定されている。

国際卓越研究大学認定の3要件

  1. 1.国際的に卓越した研究成果を創出できる研究力
    新しい学問領域の創出や優秀な若手研究者の育成等、国際的に卓越した研究成果
  2. 2.実効性高く、意欲的な事業・財務戦略
    財源に裏付けされた事業戦略とそれを確実に進める財務戦略
    (財源の多様化や独自基金の造成)
  3. 3.自律と責任あるガバナンス体制(図表2)
    ①合議体、②大学の長(法人の長)、③教学担当役員(プロボスト)、
    ④事業財務担当役員(CFO)、⑤監事

図表2 ガバナンス体制で求められる資質・専門性と機能

図表2

出所:文部科学省「大学ファンドを通じた世界最高水準の研究大学の実現に向けて」より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

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