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国内のプラスチックリサイクルの現状と課題(3/3)

  • *本稿は、『産業洗浄』No.28(日本産業洗浄協議会、2021年11月発行)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほリサーチ&テクノロジーズ 環境エネルギー第2部 谷口 友莉

3.国内のプラスチックリサイクルの課題

入口に関して、再生材を安定的に供給するためにはリサイクル原料である廃プラスチックの回収スキームが必要である。特に油化やガス化といったケミカルリサイクルプラントの事業化のためには大量の廃プラスチックの安定的な確保が必要であり、どこにどのような種類の廃プラスチックが存在するのか把握し、リサイクル原料として合致するものを抽出し、廃プラスチックの排出ポイントに近い企業や自治体などとの協定などによる囲い込みを実行する必要がある。過去には中国へ大量の廃プラスチックが輸出されたことによって、国内でリサイクル原料となる廃プラスチックの確保ができないというケースもあったが、2018年からの中国側の廃棄物輸入規制で市場の様相は変化している。廃プラスチックの大規模な回収の大きな壁となってきた廃棄物処理法の業許可制度はプラスチック資源循環法で緩和される方針であり、食品・飲料のブランド、小売、リサイクル事業者など複数の企業が連携して回収スキームを強化している。特に使用済PETボトルを対象とする回収スキームが先行している他、化学メーカーや自動車などの耐久消費財メーカーにおいても、前出のPETに限らず使用済製品・部品などの廃プラスチックをリサイクル原料としてケミカルリサイクルプラントへ流すというスキーム構築の動きがある。製造業、小売業、物流など、従来は廃プラスチックの回収に関わってこなかった動脈側の企業も動き出しており、廃プラスチックの再資源化をビジネスチャンスとして活かす企業連携の進展に期待したい。

なお、回収した廃プラスチックをガス化や油化などのケミカルリサイクルのプロセスに投入する際、プロセスで必要な大量のエネルギー消費については気候変動対策との矛盾が生じないよう一層の工夫が必要である。気候変動対策と矛盾しない形でのプラスチック資源循環促進のためにはケミカルリサイクルプロセスにかかるエネルギーの徹底した省エネや再生エネルギー活用、また廃プラスチックの回収時の輸送効率化など、CO2排出削減対策が不可欠である。こちらについては実証を進める各社での技術やプロセス改良にも期待したい。

一方、出口に関して、再生材の需要確保のための壁としては品質や価格の問題がある。特にマテリアルリサイクルでは、再生材を使うメーカー側との品質のすり合わせがうまくいかず、再生材の用途が限られることがある。日本の製造業はサプライヤーに対する厳しい品質要求で定評があるが、再生材に求める品質について供給側と需要側での共通言語によるすり合わせが必要だろう。一方で、ケミカルリサイクルによる再生材は、化学組成はバージン材と同等になるため品質のすり合わせよりも、コストの壁が高くなると思われる。現状でも再生材とバージン材との価格競争となった場合、再生材のほうがバージン材よりも価格が高いため、再生材は採用されにくい。ケミカルサイクルでは設備やプロセスにマテリアルリサイクル以上にコストがかかるため、再生材のコストは最終製品まで転嫁され、消費者にも受容と負担が求められると考えられる。

現状、日本の消費者には再生材を使った製品への明確な忌避感はないが、再生材を使うことで販売価格が高くなれば商品選択ではマイナスに働く(図2:消費者の半数以上は再生材などを使っていても、価格が従来品と同じか安ければ購入する意向はある)。例えば、公共調達基準で再生材比率の要件が導入され、これが企業の調達基準にも反映され、同時に消費者の意識に変化が生まれて、再生材を用いた製品の価格が多少高くても売上が伸びるという流れができれば理想的である*4。日本でも徐々にプラスチック問題や気候変動問題への認知度が高まり、消費者が環境に優しいサステナブルな商品を求める流れは生まれつつある。ただ、価格の壁のほかにも、商品の種類が少ない、選択肢がないために購買に結びついていないという点は指摘されている*5ところであり、消費者への安価で実用的な選択肢の提供が必要だろう。ドイツのドラッグストア最大手であるdm(ディーエム)は長年プライベートブランドのプラスチック包装に再生材を使用する他、再びリサイクルできる設計としている*6。通常の商品と並べて、容器や商品棚の価格表示に容器包装のリサイクル率が高いことを示すラベルを付けた商品を置き、消費者が自ら選択できるようにしている。企業から選択肢を提供されないと消費者は選べない。一消費者としては企業側には柔軟に消費者ニーズを捉え、日本ブランドで評価されている品質や機能に加えて、プラスチック資源循環も含めた環境面でも工夫をこらした魅力ある選択肢の提供を期待したい。


図2. 再生材やバイオマスプラスチックなどを使用した製品の受容度
図2

(出所)内閣府(2019)環境問題に関する世論調査、調査概要:期間2019年8月22日~9月1日、有効回答数1,667人、設問:リサイクル材や植物由来プラスチックなどを使用した代替製品を購入しても良いと思いますか。価格・品質などの条件に近いものはなんですか。

4.今後の方向性

欧州を起点にグローバルな状況として、気候変動対応など環境面の取り組みを積極的に進める企業が高評価を与えられるようになりつつある。日本でも金融機関などがプラスチック問題に関心を示し、企業の取り組みの情報開示を促している。プラスチック資源循環法も企業・民間の自主的な取り組みを促進するという法律となっている。プラスチック問題への対応にあたってはリデュース・リユース以上にリサイクルが重大な課題であり、日本企業も期待に応え、プラスチック資源循環への対応の波に乗り遅れることのないようにしてほしい。

参考資料

  1. *12021年8月には、プラスチック資源循環法の具体的な制度内容を定める政省令・告示に関する審議が中央環境審議会循環型社会部会プラスチック資源循環小委員会、産業構造審議会産業技術環境分科会廃棄物・リサイクル小委員会プラスチック資源循環戦略ワーキンググループ合同会議で行われた。プラスチック資源循環法は公布から1年以内の政令で定める日から施行されることとされており、8月23日の会議資料では、令和4年4月1日から施行することとしている。
  2. *2基本方針については「海洋環境の保全及び地球温暖化の防止を図るための施策に関する法律の規定による国の方針との調和が保たれたものでなければならない」とされており、資源・廃棄物制約だけではなく、特に海洋プラスチック問題や気候変動対策への目配りもされるということである。
  3. *3廃棄物処理法による業許可のハードルは、プラスチックのリサイクルを進める際の障壁として産業界から長年に渡って指摘されてきた事であり、規制緩和の方針は歓迎されている。一方で、計画認定などの手続きがいかに円滑・柔軟に行われるのか、既存制度との整合がどのように図られるのかは注視が必要である。
  4. *4政府による再生材の利用促進策としては公共調達以外にもバージン材への課税が考えられる。現状、日本ではプラスチックへの課税は検討されていないが、英国では2022年4月からプラスチック容器包装税(Plastic Packaging Tax)が導入される予定である。プラスチック容器包装の生産者及び輸入者のうち、生産量または輸入量が年10万トン以上の事業者が課税対象となるが、再生材を30%以上含む包装は課税対象外となる予定である。容器包装での再生材の利用を後押しし、廃プラスチックのリサイクルを促進する狙いがある。
    https://www.gov.uk/government/publications/introduction-of-plastic-packaging-tax-from-april-2022/introduction-of-plastic-packaging-tax-2021
  5. *5例えば、PwCによる世界の消費者意識調査2021(6月)では、サステナブルな買い物にあまり関心がない消費者は、サステナブルな商品を購入しない理由について、価格が高すぎるから(44%)、商品の種類が少ないから(32%)、品質にバラつきがあるから(24%)、商品を探す時間がない(20%)などと回答。
    https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/consumer-insights-survey.html
  6. *6dmの企業ウェブサイトではプラスチック容器のリサイクルの取り組みについて発信している。
    https://www.dm.de/unternehmen/nachhaltigkeit-im-unternehmen/kreislaufwirtschaft
    dmでは2025年までに食品以外の容器包装の90%で、30%以上の再生材を使用するという目標を掲げている。2009年からプラスチック容器に関する取組を進めており、2021年には物流業者Quehenbergerと連携してから容器の店舗回収も始めている。
    https://www.dm.at/unternehmen/verantwortung/nachhaltigkeit-im-sortiment/recycling

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