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社会動向レポート

資源循環におけるブロックチェーンの活用動向と課題(2/3)

環境エネルギー第1部 上席主任コンサルタント 秋山 浩之

3.資源循環サプライチェーンを高度化・効率化するデジタル技術

(1)資源循環のデジタル技術の種類と導入・実証状況の概要

資源循環分野だけでもデジタル技術の活用・研究に関する事例は膨大な数に上るため、2020年9月に公表された欧州のレポート「Digital Waste Management*3」を参考にしながら概要を把握する。同レポートによれば、「ロボティクス」、「IoT」、「クラウドコンピューティング」、「人工知能とニューラルネットワーク」、「データアナリティクス」、「分散型台帳」に分けて事例が挙げられている。特に、廃棄物処理・リサイクルの各プロセスでは「ロボティクス」、「IoT」、「人工知能とニューラルネットワーク」を組み合わせた処理システムの開発・導入が進んでいる。典型的なものは、画像認識にAI等を活用した選別の自動化や、AI等による収集運搬車両の配車計画の作成などである。

「クラウドコンピューティング」、「データアナリティクス」も各種データの蓄積とともに導入から活用に近づきつつある。例えば、日本では、電子マニフェストデータを可視化・分析するBIツールの利用が始まった。さらに、廃棄物収集受付や契約・各種事務処理、画像・センサーデータ等の蓄積・分析は、最近のデジタル化の流れを受けて粛々と進んでいる。

「ロボティクス」、「IoT」、「人工知能とニューラルネットワーク」などは、資源循環の各工程・各社・各産業で完結する動きであるのに対して、「分散型台帳」はサプライチェーンを結び付ける技術である。さらにQRコード®やRFID等の表示・識別・情報伝達技術を組み合わせることで、資源の追跡(トレーサビリティ)を省力化することができる。

この他、欧州の廃棄物管理のデジタル化の状況については、「コミュニケーション」、「廃棄物回収」、「内部プロセス」に分けて説明されているので、同レポートをご参照いただきたい。


図表2 日本・欧州等における資源循環分野のデジタル技術の活用・実証例
図表2

  1. (資料)欧州等の事例は主にEEA, European Topic Centre on Waste and Materials in a Green Economy, “Eionet Report - Digital waste management”、日本の事例は各種プレスリリース資料をもとにみずほリサーチ&テクノロジーズ作成

(2) 分散型台帳(ブロックチェーン)に関する海外を中心とした取組み事例

分散型台帳、いわゆる「ブロックチェーン」の資源循環分野での実証・適用が最近国外で多く進んでいる。ブロックチェーンは、「ハッシュ・暗号化」、「コンセンサスアルゴリズム」、「P2Pネットワーク」、「電子署名」などの要素技術から成る複合機能の総称で、耐改ざん性、透明性、追尾可能性という特徴を持つ。廃棄物処理・リサイクル分野に当てはめれば、処理過程を正しく記録し*4、必要な情報を閲覧・確認でき、追跡することができるトレーサビリティ機能に優れると言える。

前節で示した3つのサプライチェーンに関するトレーサビリティ機能等に関する事例や動向を、以下で紹介する。

① 再利用・再資源化市場における製品・素材の由来に関するトレーサビリティ

トレーサビリティ機能を活かして、中古品や再生材由来の証明を行う事例がある。

米フォード・モーターやホンダなどが加盟する自動車関係の国際団体「モビリティ・オープン・ブロックチェーン・イニシアチブ(MOBI、モビ)」では、様々なサプライチェーンでのブロックチェーンの活用を検討している。2021年1月19日には、中古車販売市場において、ブロックチェーンを利用し、複数のステークホルダーと車両の製造証明書を共有することができるモビリティエコシステムの開発を推進していることを発表した。

イオン株式会社等3社は、2021年2月9日に、ブロックチェーン技術により来歴が保証された原料を使用した掛け布団の発売を発表した*5。この原料の由来をブロックチェーン技術によって保証するのが、海洋プラスチックごみ問題に取り組むカナダの企業「プラスチックバンク(Plastic Bank)」である。

また、ブロックチェーン上で契約を自動的に実行するスマートコントラクトの実証を行ったRadical Innovation Groupの事例*6(図表3)もある。彼らは、近赤外線(NIR)や遠赤外線(FIR)、画像センサー(VIS)からの情報を組み合わせたAIによる選別システムと、ブロックチェーンを活用したスマートコントラクトの実証を行っている。スマートコントラクトのモデルには、選別事業者と再生事業者との間、再生事業者とプラスチック製品メーカーとの間との二種類があり、いくつかの利用シナリオを設けて、セキュリティや情報の透明性などを検証している。また、共有されるデータは、「排出源」、「プラスチックの種類」、「色」、「重量」といった認証のために公開されるパブリック・データと、「ロットID」、「価格」、「排出国」、「選別方法」、「注文の種類」といった契約当事者間でしか共有されないプライベート・データに分け、情報アクセスのコントロールを行っている。


図表3  使用済みブラスチックリサイクルのためのブロックチェーンとマルチ・センサーによるAI インター フェース
図表3

  1. (資料)Aditya Chidepatil, Prabhleen Bindra, Devyani Kulkarni, Mustafa Qazi , Meghana Kshirsagar and Krishnaswamy Sankaran “From Trash to Cash: How Blockchain and Multi-Sensor-Driven Artificial Intelligence Can Transform Circular Economy of Plastic Waste?” より引用
    Licensed under CC BY 4.0

② CO2排出量・炭素のトレーサビリティ

2020年12月10日、欧州委員会が提案した電池規則案では、欧州市場で販売される産業用、EV用電池のカーボンフットプリントに関する宣言を義務化し、その後の、産業用、自動車用、EV用電池の再生材使用量の開示、有害物質の使用を制限した責任ある原材料の使用などのほか、ITを活用したトレーサビリティを念頭に置いたと考えられる「電池パスポート」が挙げられている。デジタル技術がCO2排出量、再生材使用量の基準遵守を示す重要な技術の一つになっても不思議ではない。

その5日後の12月15日には、世界経済フォーラム(World Economic Forum)のMining andMetals Blockchain Initiative(MMBI)が、ブロックチェーンを用いて鉱山から最終製品までのCO2排出量を追跡する独自の概念実証を行った旨、公表した*7。これはCarbon TracingPlatform(COT、炭素トレーシングプラットフォーム)と名付けられている。

COTの機能について公表資料からは分からないものの、ブロックチェーンを活用した炭素サプライチェーンに関するコンセプトペーパーでは図表4のように、トラッキングや排出量の計算のほか、クレジットのプライシング・シェアリングなどの機能が挙げられている。

また、三菱重工業株式会社と日本アイ・ビー・エム株式会社は、2021年5月6日、CO2を有価物として活用する新社会への転換を目指すデジタルプラットフォームの構築に向けて協力し、2021年5月から、その実証実験に向けたコンセプト実証(PoC)を行うことを公表した*8


図表4 サプライチェーンでの炭素削減を行うための統一プラットフォーム機能の例
図表4

  1. (資料)Infosys White paper, “RE-ENGINNERING THE CARBON SUPPLY CHAIN WITH BLOCKCHAIN TECHNOLOGY”より引用

③ 調達資源の安全性・公正性に関するトレーサビリティ

資源循環分野に関連する紛争鉱物の調達においてブロックチェーンに関する検討が進んでいる。RSBN(Responsible Sourcing BlockchainNetwork)は鉱物サプライチェーン全体における可視性と透明性の確保をブロックチェーンによって推進するコンソーシアムで、コバルト用のアプリケーションの開発は2019年7月末に完成し、今後、紛争鉱物用の開発を予定している*9。また、企業の紛争鉱物調達の意思決定ツールの提供等を行うRMI(Responsible MineralsInitiative)からは、RMI Blockchain Guidelines第二版が2020年9月に公表されており、システムとして運用が開始されていることが窺える。また、先ほど紹介したMOBIでも、「倫理的調達と持続可能性」が想定されるユースケースとして挙げられている。

こうした調達に利用するだけではなく、不良品などを特定するトレースバック機能*10を活用すれば、リサイクル工程の品質・安全管理などに役立てることが期待できる。

4.日本の静脈産業におけるデジタル化とプレイヤーに関する動向

サプライチェーンでのブロックチェーン等の導入が進められたとしても、この構成企業・現場でのデジタル化やサービスの提供体制が整っていなければ効率的な運用ができない。そこで、筆者の専門分野である静脈産業におけるデジタル化やプレイヤー参画の動向について見てみる。

(1)廃棄物処理における事務作業・設備と動静脈情報連携

1998年に、産業廃棄物の処理の流れを電子的に把握する電子マニフェストが運用を開始してから20年以上が経過し、電子化率は70%にまで達した。2020年4月からは特別管理産業廃棄物の多量排出事業者は電子マニフェストの加入が義務化され、その義務化対象が今後広がっても不思議ではない。

さらに、コロナ禍を契機にしたテレワークの広がりなどから事務処理系のデジタルサービスの開発・導入が進んでいる。排出事業者向けのWeb受付ポータルを起点したワンストップサービスや、電子契約も汎用的なサービスを廃棄物処理業者向けにカスタマイズされたものが提供され始めている。廃棄物処理・リサイクルにおけるDX推進のための研究会(以下、「DX研究会」)によるアンケート調査*11によれば、2021年7月~8月現在での電子契約の導入率(「一部のみ使用」、「全ての契約において使用」)は58.5%である。これは、ここ1~2年、廃棄物処理業界において、導入率や関心が高まっているという筆者の肌感覚と合致している。

この他、図表2で示したように、収集運搬車両の配車計画の作成や自動選別装置、焼却施設の自動運転、廃棄物処理施設の火災予防システムでのAIを活用する事例など、施設・設備におけるAI・IoTの活用は日本でも徐々に始まっている。

このように個々の企業でのデジタル化は進みつつある一方で、動静脈間の情報共有は進んでいない。先ほどのDX研究会のアンケート調査によれば、動脈側が発生する廃棄物の情報を静脈側に伝える等の情報共有については、「情報を得てない」と答えた廃棄物処理事業者の割合は65.1%に上っている。また、情報共有手段も電話・メール等に留まっている。

(2)資源循環企業等のIT関連事業の進出

ここ数年静脈産業では「資本提携」、「業務提携」等の動きが注目を集めている。最近では、2021年10月1日にリバーホールディングス株式会社と株式会社タケエイが、売上高1,000億円を目指す共同持株会社(TREホールディングス株式会社)を設立したというのがその例である。

一方、そうした大規模な動きではないが、資源循環のIT分野でも新会社設立などの動きがある。廃棄物処理会社による100%子会社の設立に加えて、2020年12月1日には、一般社団法人資源循環ネットワーク、大栄環境株式会社、ユニアデックス株式会社によって、リサイクルビジネスのDX促進に資する情報システムの開発・維持管理・販売等を行う「資源循環システムズ株式会社」が設立された。本来の廃棄物処理・リサイクル事業の資本・業務提携との相乗効果を狙って、(1)で述べたような装置・システムの外販や、システムを通じたフランチャイズ化も期待しうるものである。

また、ブロックチェーン等による情報プラットフォーム構築の領域では、大手商社やITベンダー、コンサルティング会社による取り組みも活発である。2020年8月27日、豊田通商株式会社は株式会社JEMSと「資本提携および包括的な業務提携」の契約を締結し15%を出資した。他の大手商社も資源循環でのデジタル分野の取組みを活発に行っており、さらに、ITベンダー、コンサルティング会社と合わせ、国の実証プロジェクトを始めている。


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