ページの先頭です

社会動向レポート

資源循環におけるブロックチェーンの活用動向と課題(3/3)

環境エネルギー第1部 上席主任コンサルタント 秋山 浩之

5.資源循環の特性を踏まえたシステム構築・運用のポイントと課題

(1)システム構築・運用のポイント

① 資源循環ループに応じたサプライチェーン管理

資源循環のループがオープンか、クローズドかによってサプライチェーン管理のモデルが異なると考えられる。自動車や家電のように製品メーカーが、拡大生産者責任に基づいて、製品の回収・再資源化を行うクローズドループの場合、そのサプライチェーンでのトレーサビリティ確保は比較的行いやすい。プラスチック資源循環促進法を契機に飲料メーカーが主体となって回収・再資源化するPETボトルや、欧州の電池規則案に見られる電池、リースによるサービス提供が一般的な複写機・オフィス機器なども、その典型的なものである。情報共有の関係者が特定されることで、CO2排出量や再資源化率なども紐づけた高度なサプライチェーン管理を行う情報システムを構築しやすい。

一方で、リサイクルの方法や処理委託業者が固定化されていないオープンループの場合、共有できる情報が限定されるため高度なサプライチェーン管理を行うことは困難で、提供するトレーサビリティ機能やシステムは、法令順守のレベルや汎用性が高いものに留まりやすいと考えられる。

②受付・回収・分別システムの重要性

静脈サプライチェーンは様々な使用済み製品・不要物を分別して排出するところから始まる。一般的に、分別排出や回収、さらにその契約・運用等に関する取引コストの低減が、処理コスト全体の削減に寄与する。

産業廃棄物の場合、委託処理業者との契約を通じて一定の範囲で分別排出が行われることから、回収や契約等の取引コストの削減が効果的であり、排出事業者向けのWeb 受付ポータルなどがソリューションの一つとして期待される。

一方で、一般廃棄物などの消費者から出されるごみの場合、分別排出による処理コストの低減・資源価値の向上に資する技術の活用が適している。例えば、自治体等が分別排出の方法を伝える「ごみ分別アプリ」や「チャットボット」、特定の受付場所に持ち込んだ時のポイント付与システムなどである。

なかでも、筆者が期待をしているのがデポジットシステムである。デポジットシステムは容器を返却した場合にその料金が戻ってくるもので、返却するインセンティブがある。有料ゴミ袋による「Pay as you throw」システムにならって「Pay back as you return」システムと呼ぶこともできる。現在、普及が進んでいるキャッシュレスシステム等の機能に組み込むことが考えられるほか、購入時のPOSデータなどと紐づけられる回収ルートとシステムを構築すれば、個品単位の引取実績を把握することも期待できる。

(2)資源循環分野で特徴的な課題

①データ連携や統一コードの必要性

資源循環×デジタル分野の取組は各所で行われている。しかし、事務処理効率化の取組で見てきたように電子契約のような特定事務に関するシステムの導入が進んでいる一方で、営業、経理、マニフェスト管理など様々な事務処理システムとの連携が十分ではない。本来であれば、許可情報を基に処理業者が選択され、その業者と契約し、その契約に基づいて廃棄物が持ち込まれ、受入・処理結果を記録し、それに基づいて処理料金の請求・支払い・消込等の事務処理が行われる。こうした一連の事務処理では、前工程で使われた情報が引き継がれれば、作業時間の効率化や入力ミスの削減という効果が生まれる。その際、RPA*12やAPI、ETLツール*13、その他プログラミング言語を用いたデータ連携技術を、費用対効果を改善しながら導入・運用することが必要である。

さらに、多様な素材の種類や受入を行う静脈企業では、管理範囲の拡大や精度向上を行う必要がある。参考になる取組の事例として、公益財団法人日本産業廃棄物処理センター(JWセンター)の取組がある。JWセンターは電子マニフェストシステムの運用を行っている。主な対象は産業廃棄物だが、処理業者の中には、一般廃棄物も受入対象にしているところがある。そうした企業が一般廃棄物も同システムで管理できるように、2020年1月に一般廃棄物向けのコードを公開した。

同コードは廃棄物の種類によって振られているが、回収した製品と紐づける場合の製品コードとの対応や含有素材情報のコード化も考えられるほか、AIを活用する際にも、データのクレンジング作業に利用することも考えられる。

② 高度なトレーサビリティ確保のための運用ルールの明確化

資源循環のトレーサビリティシステムの構築にあたり不可避なのが、回収した製品を解体し、同一・類似素材に選別・濃縮していく際に、どのようなロットで工程管理・品質管理を行うかという課題である。動脈サプライチェーンの場合、設計情報に基づいて製品を組み立て、流通する際には、予め素材・部品が把握できる製品にIDを振って管理することが可能である。

一方、使用済み製品や廃棄物を回収する場合、解体・選別・濃縮の工程で全てのロットをトレースするIDを振ることは相当困難で、再資源化された素材のニーズに応じて運用時のルール化が必要である。また、混入する異物を検出するのは、動脈側のサプライチェーンと比べて難易度が高い。

さらに、そのルール化の際には、生産性向上のため、データ連携やコードの統一、そのルールを運用するためのRFID等の識別・個品管理技術なども必要である。

③ 情報プラットフォーム等の運営体制・ルールの明確化

トレーサビリティシステムの一つであるブロックチェーンは、その利用者や運営主体などによって、パブリック型、コンソーシアム型、プライベート型などに分けられる。クローズドなループでは、コンソーシアム型、プライベート型との親和性が高いが、情報プラットフォームとして機能するためには、認証機関を含めた関連するステークホルダーから成るコンソーシアムを形成し、運営等のルールについての合意形成が必要である。先に紹介したRSBNでは、IBMのようなIT企業のほか、人権のデューデリジェンスを行う機関などが参加している。4(2)で見たように、こうした仕組みに対するビジネス面の期待から多様な企業・業種が参画しているが、資源循環の社会性、情報プラットフォームの汎用性を高めるためにも中立性、透明性の高い運営体制とルールの明確化が必要である。

一方、パブリック型については、オープンな取引市場での利用が適すると考えられるが、例えば、クレジットのような環境価値取引の試行から、新たな動きが出てきても不思議ではない。

6.まとめ

資源循環に関するブロックチェーンは、「再利用・再資源化市場における製品・素材の由来」、「CO2排出量・炭素」、「調達資源の安全性・公正性」に関するトレーサビリティシステムを構築する技術として、海外では盛んに実証が続けられ、日本でもやや遅れて実証や業務提携の動きが表面化した。日本では、廃棄物処理・再資源化や事務処理効率化のためのデジタル技術の研究・導入は静脈産業内で盛んに行われている一方、トレーサビリティシステムは業種横断的になることから、商社や素材メーカー、IT企業が中心となって進められている。しかし、製品・部品・素材に関するトレーサビリティを確保する以上、製品メーカーや流通事業者も加わり、回収も含めたサプライチェーンを構築することが必要である。

他分野で導入実績のあるブロックチェーンを資源循環分野で活用するためには、再資源化のサプライチェーンに必要な情報共有の内容を検討した上で、「データ連携や統一コードの必要性」、「高度なトレーサビリティ確保のための運用ルールの明確化」、「情報プラットフォーム等の運営体制・ルールの明確化」といった課題を解決する必要がある。

  1. *1令和2年度経済産業省委託業務「令和2年度産業標準化推進事業委託費(製品含有化学物質の情報伝達方式に関する調査研究)調査報告書」(みずほ情報総研株式会社)
  2. *2The White House, “BUILDING RESILIENT SUPPLY CHAINS, REVITALIZING AMERICAN MANUFACTURING, AND FOSTERING BROAD-BASED GROWTH, 100-Day Reviews under Executive Order 14017”, June 2021
  3. *3EEA, and European Topic Centre on Waste and Materials in a Green Economy, “Eionet Report? Digital waste management”, September 2020
  4. *4一般社団法人廃棄物資源循環学会「2019年度(令和元年度)廃棄物資源循環学会 春の研究討論会/ICT・IoT・ブロックチェーン(BC)による廃棄物処理・リサイクル高度化の可能性」
  5. *5イオン株式会社、イオンリテール株式会社、イオントップバリュ株式会社、2021年2月9日ニュースリリース「“海洋プラ削減”へ 沿岸地域で回収したペットボトルを使用/再生プラスチック使用掛けふとんを新発売」
  6. *6Aditya Chidepatil, Prabhleen Bindra, Devyani Kulkarni, Mustafa Qazi , Meghana Kshirsagar and Krishnaswamy Sankaran, “ From Trash to Cash: How Blockchain and Multi-Sensor-Driven Artificial IntelligenCECan Transform Circular Economy of Plastic Waste? ” , Administrative Sciences, 15 April 2020
  7. *7WEFホームページ(https://www.weforum.org/our-impact/the-responsible-sourcing-of-raw-materials/)2021年10月4日閲覧、(https://www.weforum.org/press/2020/12/blockchain-can-trace-carbon-emissions-for-mining-metals-companies-proof-of-concept-released/)2021年10月4日閲覧
  8. *8三菱重工業株式会社、日本アイ・ビー・エム株式会社、2021年5月6日ニュースリリース
  9. *9IBMソリューションブログ「鉱物資源の『責任ある調達』に取り組むRSBN」(2019年9月30日)
  10. *10サプライチェーンの製造段階の流れに遡って情報の履歴を辿っていき、問題の発生した時点・原因を特定する機能。
  11. *11DX研究会は、廃棄物処理・リサイクルIoT導入促進協議会と廃棄物資源循環学会情報技術活用研究部会によって共同で設立された。アンケート調査は、廃棄物処理業者(発送数1,679社、回答数321社)に対して2021年7月15日~同年8月31日に行われた。(2021年10月12日ニュースリリース)
  12. *12RPA活用については、松本亨ほか「静脈系サプライチェーンマネジメントへの情報通信技術の導入可能性と効果」(廃棄物資源循環学会誌,Vol.32,No.2,pp.112-121,2021)に、2019年度時点の課題が掲載。
  13. *13組織の内外のデジタルデータを抽出(Extract)、変換(Transform)したうえで、格納(Load)するデータ処理ツール。
  • 本レポートは当部の取引先配布資料として作成しております。本稿におけるありうる誤りはすべて筆者個人に属します。
  • レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。全ての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
ページの先頭へ