ページの先頭です

社会動向レポート

資源循環におけるブロックチェーンの活用動向と課題(1/3)

環境エネルギー第1部 上席主任コンサルタント 秋山 浩之

資源循環における高度なトレーサビリティを実現する技術としてブロックチェーンへの期待が高まっている。資源循環のループや取引形態とコスト、データ基盤などを検証しながら、最適な活用方法を模索する必要がある。

1.はじめに

サーキュラーエコノミー(以下「CE」)は、廃棄物の資源化や製品の再利用などを通じて資源効率性の向上を図る社会経済モデルで、様々な産業を巻き込み国内外で取組みが行われている。また、これは、資源循環のサプライチェーンを再構築するものでもあり、資源循環のフローだけではなく、動静脈企業の連携・資本提携やビジネスモデルの変革にもつながりうる。

こうしたサプライチェーンの再構築を行う上で欠かせないのがデジタル技術の活用である。廃棄物・リサイクルの分野でも、各工程の省人化・高度化のための各種デジタル技術・サービスが導入されつつあるが、資源循環のサプライチェーンを管理する技術としてブロックチェーンへの注目も集まり、最近、国内外で様々な事例を目にする機会が増えている。

そこで、本レポートでは、影響する産業の範囲が広い資源循環のサプライチェーンに着目して主な国内外の動向を挙げた上で、ブロックチェーンを中心とした事例を紹介し、資源循環の特性を踏まえた活用のポイントと、それらの実装・運用の際に解決すべき課題を考察する。

2.資源循環に関するサプライチェーン

(1)資源循環政策の概観

日本の資源循環に関する政策を概観すると図表1左側のとおりとなる。資源生産性の向上という資源循環政策の命題を背景としながら、海洋プラスチック・脱プラスチック問題といった社会課題の解決、産業面では、静脈産業の大規模化、国際資源循環の促進といった課題があり、プラスチックやバイオマス、金属等の資源・素材分野ごとに再資源化等が必要な素材・製品を挙げることができる。

2020年3月11日に欧州委員会が発表した「CE行動計画」では、対策が重要な製品・素材として「電子機器・ICT」、「電池・自動車」等の7つが挙げられており、さらに、そのCEに関するサプライチェーンの管理に当たって、デジタル技術の活用も取り上げられている(図表1右側)。 特に最近は、CE、脱炭素・カーボンニュートラル、安全・公正・責任ある資源調達に関するサプライチェーンが重要になっている。そこで、以下では、そうした資源循環を巡るサプライチェーンについて、主な特徴を整理する。


図表1 資源循環政策の概観
図表1

  1. (資料)各種資料よりみずほリサーチ&テクノロジーズ作成

(2)資源循環サプライチェーンに関する動向

① CE等による資源循環フローの変化

CEに関するビジネスは消費財の世界での広がりが顕著で、繊維・プラスチック製品等のアップサイクルと呼ばれるリサイクルや、リユース・シェアリングなどのフローが増えている。こうしたフローは、所有者・利用者・製品の形態が変化するなかで、素材の由来、利用履歴・劣化状況などの情報を追跡する必要があるものである。

また、日本では個別リサイクル法と呼ばれる、容器包装、家電、食品などの製品・廃棄物ごとに法律が整備され、それに応じたサプライチェーンが形成されてきた。2022年4月1日より施行予定のプラスチック資源循環促進法は、初めての素材別リサイクル法とも言われ、容器包装リサイクル法に規定する指定法人を活用したプラスチック資源の再商品化を可能とすることや、製造・販売事業者等が製品等を自主回収・再資源化する事業者に認定された場合、廃棄物処理法の業許可が不要になることから、PETボトルなどの回収・再資源化のサプライチェーンが形成されつつある。

② 石油由来素材のリサイクルの促進とライフサイクルでのCO2排出量の算出

中央環境審議会第38回循環型社会部会(2021年8月5日)では「廃棄物・資源循環分野における2050年温室効果ガス排出実質ゼロに向けた中長期シナリオ(案)」として「資源循環を通じた素材毎のライフサイクル全体の脱炭素化」が示された。ここでは、廃プラスチックや廃油等の石油由来素材のリサイクル(エネルギー利用は除く)の促進が挙げられているが、CCUSの導入というオプションも含めればカーボンリサイクルのサプライチェーンの形成が中長期的に求められるものとなっている。

廃棄物処理・リサイクル段階だけではなく、社会全体の脱炭素化のためには、製品ライフサイクルでのCO2排出量の可視化と削減が必要である。例えば、欧州委員会の電池規則案では、2024年7月から、欧州市場で販売される産業用、EV用電池のカーボンフットプリントの宣言の義務化が始まり、CO2排出量の可視化を求めている。二次電池は製造段階のCO2排出量が多いことから、リサイクル原料の製造(再資源化)段階のCO2排出量を算出し、他の電池部材も合わせたサプライチェーンでの積算を行うことになる。

③安全・公正・責任ある資源調達の見える化

製品に含まれる化学物質の安全性をサプライチェーンで管理する取組みは国内外で行われ、日本では電機・電子機器を中心にchemSHERPAと呼ぶシステムで運用されている。また、2018年に改正されたEUの廃棄物枠組み指令では、成形品中のREACH規則(化学物質の登録、評価、認可及び制限に関する規則)の認可対象候補物質の情報を、廃棄物処理業者と消費者が参照することができるデータベース(SCIPデータベース)の構築が規定された*1

また、グローバルサプライチェーンにおける企業の社会的責任に取組み、400社以上の企業・団体が加盟するRBA(Responsible Business Alliance)は、「労働」、「安全衛生」、「環境」、「倫理」、「マネジメントシステム」から成るRBA行動規範をまとめ、資源調達の公正の内容を示している。さらに、再生資源の国際的な調達に当たっては、資源性のない廃棄物の輸出を規制するバーゼル法の遵守が必要となる。

バイデン大統領の大統領令を受けて2021年6月に公表し、電池の再資源化にも言及しているレポート*2に見られるように、特に最近は、レジリエントなサプライチェーンが注目を集めている。不芳事例によってサプライチェーンが寸断されることがないよう、安全・公正・責任ある資源調達を見える化することが重要である。

  • 本レポートは当部の取引先配布資料として作成しております。本稿におけるありうる誤りはすべて筆者個人に属します。
  • レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。全ての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。

関連情報

この執筆者はこちらも執筆しています

2020年3月
リチウムイオン電池のリサイクルを支えるデジタル技術の活用
―静脈産業の事業発展における垂直連携に向けて―
『環境新聞』 2021年3月10日
2020年3月
2025年のマイルストーンに基づく資源循環企業の計画と実行
ページの先頭へ