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ビジネス最前線

コロナ禍で進むデジタル技術を活用した飲食ビジネス変革の可能性(1/3)

経営・IT コンサルティング部 コンサルタント 羽田 康孝

感染症対策として飲食事業者が取組む「テイクアウト」「キッチンカー」「フードデリバリー」は、デジタル技術の活用により新たな価値創出を実現している点で、ビジネス変革の手法としても注目に値する。

1.コロナ禍における飲食サービスの変容

新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、私たちは感染予防のための取組が求められている。具体的には、マスクの着用や小まめな手洗いといった基本的な感染症対策のほか、不要不急の外出自粛やテレワークの実施などがある。その中でも「飲食」の場面は、複数人が屋内に集まり、マスクを外した飲食や会話が行われることが多く、感染リスクが高いとされ、特に感染予防の取組が重要であるという指摘がある。政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会は、「感染リスクの高まる『5つの場面』」として「飲酒を伴う懇親会」「大人数や長時間におよぶ飲食」などを挙げ、飲食の場面における感染症対策の重要性を示している1

これを踏まえて飲食事業者は、営業時間の短縮や座席数の削減、パーティションの設置や座席の消毒などを行ってきた。しかし、これらの対応により収益機会の制限や、新たな作業負担による事業運営コストの増加といった課題も生じている。そこで、店舗内での喫食提供に拘らず、店舗外での喫食を前提としたサービス提供方法に切り替えている飲食事業者も登場してきた。今回取り上げる「テイクアウト」「フードデリバリー」「キッチンカー」などである。

2020年9月に行われた株式会社プレシャスパートナーズの調査によると、約7割の飲食店がテイクアウトサービスの提供を実施し、そのうち5割以上がコロナの影響でテイクアウトサービスの提供を開始したという2。また、大手フードデリバリーサービスの「出前館」によれば、コロナ禍の1年で加盟店舗数が3倍以上に増加した3。キッチンカーと出店スペースとのマッチングサービス「SHOP STOP」では、2020年の登録店舗数が事業提供開始以来最も高くなった4

しかしながら、「テイクアウト」「フードデリバリー」「キッチンカー」は目新しいサービスではない。以前より「持ち帰り」「出前」「移動販売」と呼ばれる業態*1は存在してきた。そのため、これらサービスは、昔ながらの飲食サービスが感染症対策として再び注目されたとも考えられるが、提供過程においてデジタル技術を活用しているという点で新しい。

本稿では、飲食サービスの提供形態として存在感を高めている「テイクアウト」「フードデリバリー」「キッチンカー」について、デジタル技術を活用した新しいサービス形態の側面に着目したい。今回実施した飲食事業者における活用事例調査、消費者に対するアンケート調査の分析を通じて、これらサービスの現状と今後の展望について考察する。

2.「テイクアウト」「フードデリバリー」「キッチンカー」におけるデジタル技術の活用動向

「テイクアウト」「フードデリバリー」「キッチンカー」では、デジタル技術をどのように活用しているのだろうか。その事例から、飲食事業者や消費者にもたらされる新たな価値について検討する。

テイクアウト:飲食事業者のサービス提供の効率化や消費者における待ち時間の有効活用

「テイクアウト」では、注文から商品受け渡しに至る業務プロセスの効率化にデジタル技術が用いられている。例えば、2020年11月にオープンしたテイクアウトのハンバーガー専門店のBlue Star Burgerは、スマートフォンのアプリケーションを活用し、完全非対面でサービスを提供する5。消費者がスマートフォンのアプリケーション上(店頭のタブレット端末でも可能)で注文・支払を行うと、店舗側に注文情報が届く。商品ができあがると、スマートフォンに通知があり、消費者は指定されたピックアップ棚から商品を受け取るという流れである。注文や商品受け渡しの対応を無人化することで、スタッフは調理に集中でき、業務負荷や人件費の大幅な抑制が可能になる。また、スマートフォンからの注文によって、事前決済や完成予定時刻の把握ができるようになり、消費者にも注文の利便性向上や待ち時間を有効に活用できるといったメリットがもたらされている。

フードデリバリー:飲食事業者の配達業務の負荷軽減や消費者が注文できるメニューの充実

「フードデリバリー」では、デジタル技術の活用により、配達サービスを提供する際の業務負荷が軽減されている。従前の「出前」では、配達サービスの提供にあたって、飲食事業者が自ら要員確保や注文受付、要員アサインなどを行う必要があった。しかし、配達代行者と注文情報(注文内容、配達先など)とをリアルタイムでマッチングするフードデリバリープラットフォームを利用すれば、飲食事業者は店頭で配達代行者に商品を渡すだけで配達サービスを提供できるようになる。要員確保からアサインに至る一連の業務を、外部サービスで代替することで、これまで「出前」を提供していなかった店舗でも配達サービスを手軽に始められる6。また消費者も、このプラットフォームを活用すれば、多くの店舗から提供される多様なメニューを簡単に検索できる、配達状況をリアルタイムで確認できるといったメリットがもたらされる。

一方、新たな課題も顕在化してきた。配達代行者を介した新しい配達方法の急速な拡大により、配達員の交通ルール違反や配達トラブルなどが生じている。こうした課題に対し、フードデリバリーサービスを提供する事業者13社は共同で業界団体を設立して、交通安全に関する啓発活動や、配達サービスに関する指針の策定などに取り組んでいる7。飲食事業者、消費者、配達代行者のそれぞれが安心・安全にサービスを提供/利用できる環境が整備されることで、「フードデリバリー」による価値提供のさらなる進展も期待されよう。

キッチンカー:飲食事業者における出店調整に係る手間の軽減や消費者がメニューを選ぶ際の利便性向上

「キッチンカー」では、デジタル技術を活用し、飲食事業者の出店スペース確保に要する手間の軽減が図られている。従前の「移動販売」では、オフィス街や商業施設などのスペース管理者が出店者を個々に募集していた。また出店料金もそれぞれ異なるため、「移動販売」を行う飲食事業者は、出店の都度、スペースの探索や料金交渉を個別に行う必要があった。これに対し、飲食事業者は出店スペースをマッチングするサービスを利用することで、出店の交渉に要する負担を大幅に軽減できる。例えば前述の「SHOP STOP」では、全国で500箇所以上の出店スペースの検索が可能で*8、出店料金も歩合制で統一されている9。こうしたサービス利用することで、「キッチンカー」を出店したい飲食事業者が、簡単に出店スペースの確保ができるようになった。また消費者にとっても、近隣の出店情報をWEB上で一括して確認でき、店舗やメニューの選択の利便性が高まるだろう。

このようなデジタル技術の活用により、「テイクアウト」では注文や商品受け渡しの効率化を、「フードデリバリー」では配達業務の外部サービス化を、「キッチンカー」では出店交渉の手間軽減を、それぞれ実現している。また消費者も、「待ち時間の有効活用」や「注文できる店舗数やメニューの充実」等、飲食サービスを利用する際の利便性を高めている。「テイクアウト」「キッチンカー」「フードデリバリー」は、デジタル技術を組み込むことで、飲食事業者と消費者の双方にとって従前の「持ち帰り」「出前」「移動販売」では実現が難しかった新たな価値を生み出している。

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2020年12月18日
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―デジタル技術が支える飲食業―
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