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社会動向レポート

指名委員会等設置会社への移行による「一段高い水準のガバナンス」の実践(3/4)

コンサルティング第2部
コンサルタント 上野 剛幸
コンサルタント 長 樹生

4.コーポレート・ガバナンス強化の観点から見た指名委員会等設置会社の優位性

今般のCGコード改訂に照らせば、「モニタリング・モデルの実践」という趣旨を通じて指名委員会等設置会社が結びつく。本節では、機関設計の他2形態に対して指名委員会等設置会社が持つ優位性を具体的に考察することで、指名委員会等設置会社の選択が望ましいと考えられる理由について検討を行う。

(1)改訂CGコードの「自動的な」充足

今般の改訂CGコードで規定される「取締役会の機能発揮」においては、①「指名委員会・報酬委員会を設置」し、特にプライム市場上場企業は、②「独立社外取締役を3分の1以上選任」し、③「各委員会委員は過半数を独立社外取締役から選任」する必要がある。これらの3要件は、3委員会の設置が必須であり、設計上、社外取締役を一定数確保せざるを得ない指名委員会等設置会社の選択によってある種自動的に達成される。

①については、指名委員会等設置会社における取締役等の指名・報酬決定のプロセスそのものであるし、③についても要検討項目は社外取締役の独立性のみである。独立社外取締役とは、当該会社の主要な取引関係先またはその業務執行者でないこと、当該会社から役員報酬以外に多額の金銭等を得ている外部専門家等でないこと等の「一定の独立性」を有した社外取締役を指す。

しかしながら、そもそも③についてはプライム市場上場企業に求められる要件であるから、そのような企業においては、従前から社外取締役に求める要件として「一定の独立性」を勘案していないことは想定しづらい*5

最後に、②についても、指名委員会等設置会社であればその充足は比較的容易である。指名・報酬・監査の3委員会を構成する委員は、それぞれ取締役3名以上で、その過半数が社外取締役である必要があるため、当然に社外取締役は一定数必要となる。各委員は兼務も可能であるが、取締役数全体における社内取締役の数が極端に多くない限りは、「独立社内取締役1/3以上」の充足は結果として難しくない。取締役の独立性については③と同様である。

(2)指名委員会等設置会社における「取締役会の機能発揮」

①4機能の保有主体

機関設計を検討するうえでは4つの機能の保有主体を考慮する必要がある。4つの機能とは業務執行機能、監督機能、業務監査機能、取締役の指名及び報酬決定機能を指す(図表8)。

これまで紹介してきた会社形態の3種類は機関設計の形態に応じて業務執行機能、監督機能、業務監査機能、取締役の指名及び報酬決定機能の主体が異なっている(図表9)。

なお、業務監査機能については機関設計によって監査の及ぶ範囲が異なる。指名委員会等設置会社における監査委員の取締役と、監査等委員会設置会社における監査等委員は、「適法性監査」に加え、職務執行が経営方針等に照らして合理的か否かをチェックする「妥当性監査」にも職務範囲が及び、監査役会設置会社の監査役による監査よりも範囲が広い。


図表8 各機能の概要
図表8

  1. ※1この他に、財務諸表・計算書類の適正性をチェックする会計監査が存在する
  1. (資料)会社法をもとにみずほリサーチ&テクノロジーズ作成

図表9 機能の保有主体
図表9

  1. (資料)会社法をもとにみずほリサーチ&テクノロジーズ作成

②取締役会の役割変化

これまで確認した通り、監査役会設置会社から、指名委員会等設置会社やそれに近い会社形態への移行により、取締役会の持つ機能や監査機関の役割は大きく変化することになる。特に、取締役会は個別の業務執行に対する意思決定を行う「マネジメント・ボード」から、執行役による業務執行の全体状況について監督(監視・評価・選解任)を行う「モニタリング・ボード」へと位置づけが変わる。これにより、業務執行と監督の分離が図られることになり、取締役会は業務執行を行う執行役に対し、報酬の決定、社長の指名等を通じてより客観性・透明性の高い監督を行うことが可能となる(図表10)。


図表10 監査役会設置会社と指名委員会等設置会社の取締役会の違い
図表10

  1. (資料)会社法、東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード―会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために―」、冨山和彦、澤陽男「決定版 これがガバナンス経営だ!」をもとにみずほリサーチ&テクノロジーズ 作成

(3)指名委員会等設置会社の導入が進まない背景

2021年8月現在、指名委員会等設置会社を導入する企業は合計85社*6であり、2003年の制度開始から19年を経過しているものの、いまだ導入企業の数は広がっていない。これまでみてきたように、指名委員会等設置会社は、今日企業に求められる望ましいコーポレート・ガバナンス体制の構築という観点において、非常に優れた機関設計である。しかしながら、①基本設計や運用にあたっては(兼務可能であるものの)3委員会は過半数を社外取締役で構成する必要があり、相当数の社外取締役の確保が必要であること、②社外取締役が役員人事や報酬決定の権限を掌握することへの抵抗感、の2点が企業にとっては負担・課題となっていることが、指名委員会等設置会社の導入が進まない主な理由として考えられる。

また、指名委員会等設置会社を一度導入した企業でも、監査役会設置会社や監査等委員会設置会社に再移行する企業も、数は多くないもののいくつか*7みられる。特に、2014年に導入された監査等委員会設置会社は、指名委員会等設置会社と比べて取締役の指名・報酬決定を取締役会決議にできる点にメリットを感じる企業もあるようである。このため、一度指名委員会等設置会社を導入したものの、社外取締役数の確保・維持に苦慮した企業や、社内取締役による取締役指名・報酬への関与を再度強めたい企業などにおいて、揺り戻し的な動きとして移行する動きがあったものと想定される。

(4)指名委員会等設置会社を選択すべき理由

このように、指名委員会等設置会社は会社法で厳格に規定される領域も多いため、導入にあたっての負担や障壁も多い。また、機関設計の変更は、基本設計から実際の運用方法を検討・実践するにあたって、必要となる社内の労力や金銭的コストも少なくない。

実際に、指名委員会等設置会社以外の機関設計を選択している企業であっても、指名委員会等設置会社に近い独自の設計を行うことで、CGコードの要件に充足した、より高度なコーポレート・ガバナンス体制を構築している企業も存在する。例えば、監査役会設置会社でありながら、任意の指名・報酬諮問委員会等を設置し、各委員会の委員構成は社外取締役を過半数とするなどの運用*8がみられる。

しかしながら、このような取組みは、その運用に関連法規による縛りはなく、あくまでも改訂CGコードへの準拠等を目的として各社が任意で行うものである。逆に言えば、指名委員会等設置会社は、東証プライム市場の基準とも親和性が高く、改訂CGコードが規定する「取締役会の機能発揮」に資する高度なコーポレート・ガバナンス体制を、会社法を拠り所として設計・運用するものである。指名委員会等設置会社を選択することは、投資家を中心としたステークホルダーに対して、「会社法に準拠した高度なコーポレート・ガバナンス体制を備えている」という強いメッセージを発するとともに、プライム市場維持・昇格に向けても極めて有効な選択肢であると考える。

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