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技術動向レポート

Virtual Reality技術の最新動向(2/3)

情報通信研究部 上席主任コンサルタント 松崎 和敏

3.VR映像生成デバイス・ソフトウェア

本章では、VR映像を生成するデバイスやソフトウェアについて解説する。VRでは全方位の映像が必要となるが、その生成方法は大別して、実写撮影によるもの、CGによるもの、また、これらの組み合わせによるものがある。

実写撮影によるVR映像の生成では、全方位カメラにより撮影をおこなう(図表6)。全方位カメラは、カメラを中心として上下左右に360°方向の映像を撮影することができるデバイスであり、魚眼レンズを用いた単眼カメラタイプや、複数のカメラを異なる方向に向けて配置し同時に全方向を撮影するデバイス等がある。後者は、撮影後に多視点映像を繋ぎ合わせることで全方位映像を生成する。

全方位カメラは手軽で安価なものから、高価かつ高性能なものまで、様々な製品が出てきている。手ごろな製品として人気の高いRICOH社のTHETA*6シリーズ(図表7)は、魚眼レンズを用いた全方位カメラである。映像の解像度は他社のハイエンドの製品には劣るものの、片手で持てる程度の大きさ、3万円程度の価格であり、初めてのデバイスとして導入しやすい。一方、非常に性能の高いハイエンドな製品も登場しており、Shenzhen Arashi Vision社のInsta360*7シリーズ(図表8)は、多数のカメラを配置することで、解像度の高い映像の撮影ができる。例えば、Insta360 TITANという製品は100万円を超える価格設定であるが、8台のカメラにより11K(10560×5280ピクセル)の高解像度で全方位映像を撮影できる。

全方位カメラによる実写撮影では、カメラを購入して撮影すれば、すぐにVR映像を作ることができるという点が魅力である。また、現実世界をそのまま撮影しているため、映っている物体の質感は高く、一定以上の解像度であれば実物と見分けがつかない等の利点がある。加えて、映像が全方位であること以外は、画像や動画といった従来からあるコンテンツと同様に扱うことができるため、動画配信サービスへの取り込みも進み、大手動画配信サービスのYou-Tube*8では、360度動画として利用者が好きな方向の映像を自由に楽しむことができるサービスを提供している。

一方、全方位カメラによる実写撮影では、VR空間内で撮影時のカメラ位置以外に移動すると映像が不自然に歪むことがあり、また、被写体の裏側などカメラからの死角はVR空間上に再現できないため、VR空間内での移動は限定的となる。

CGによるVR映像の生成では、現実世界では実現困難な事故や災害等の別世界の中を自由に移動できるコンテンツを作ることができ、これが実写撮影によるVR映像の生成と比べて優れた点と言える。一般的に手作業が中心となるCG制作に手間と時間を要するものの、CG制作を支援するソフトウェアの充実や、汎用的な背景・オブジェクトの有償/無償での提供など、CG制作のための環境は向上している。CG制作ソフトウェアの代表格であるAutodesk社のMaya*9は、1ライセンスあたり年間約25万円という価格であるものの、学生であれば無料で、一般ユーザーであれば体験版を30日間無料で使用できるため、ソフトウェア購入前に試用・評価することができる。また、BlenderというオープンソースのCG制作ソフトウェアは無料であり、気軽に利用できるにもかかわらず、モデリングからライティングまでCG制作に必要なさまざまな作業に対応している。

一方、CGによるVR映像の生成においては、大幅に改善されてきてはいるものの一般的に物体の質感は実写撮影より劣ることには留意する必要がある。

VRの利用目的や用途に応じて、全方位カメラによる実写撮影をおこなうか、CGによりVR映像を生成するかを選択するとよい。

実写撮影によるVR映像の生成、および、CGによるVR映像の生成とも、VR空間内で壁や物体に入り込めないように移動範囲を制約する衝突判定等の処理が必要となる。このような処理をおこなうソフトウェアがゲームエンジンであり、3Dグラフィックスのデータ変換、リアルタイムレンダリング、アニメーション、衝突判定、物理演算などをリアルタイムで処理することを前提としている。ゲームエンジンは、VR向けのソフトウェア開発において不可欠な存在であり、Unity Technologies社のUnity*10、Epic Games社のUnreal Engine*11などのソフトウェアが広く用いられている。

VRヘッドセットの進化、普及と相まり、全方位を撮影する全方位カメラやCG制作にかかわるソフトウェア等、VR映像を生成するための環境も充実を見せている。


図表6 全方位映像のイメージ
図表6

(画像提供)国立研究開発法人 防災科学技術研究所 実大三次元震動破壊実験施設(E-ディフェンス)


図表7 全方位カメラ製品例(THETA シリーズ)
図表7

図表8 全方位カメラ製品例(Insta360シリーズ)
図表8


図表9 VR 映像生成のための主要なデバイス・ソフトウェア
図表9

  1. (資料)各種資料をもとにみずほリサーチ&テクノロジーズが作成

4.今後の展望

(1)VR分野の市場動向

本章では世界と北米のVRの市場予測について紹介する。

総務省の情報通信白書*12によると、VRは消費者向けのエンターテインメント分野以外の、ビジネスでの利用も広がっている。不動産分野では物件を疑似体験する、旅行分野では旅先を疑似体験する、等のほか、これ以外の分野においても訓練や教育、3次元空間でのナビゲーションなどに活用されている。

同じく情報通信白書によると、世界市場でのAR/VRソフトウェア・サービスの売上高の拡大が予想されている。世界のAR/VRハードウェアの出荷台数についても、VRゲームへの多数のベンダー参入と市場淘汰により2019年までは減少となったものの、2020年以降は一転して右肩上がりでの増加が見込まれている。(図表10)

VR市場をけん引してきた北米市場について、Grand View Research*13は、2022年以降ハードウェアの市場の伸びは鈍化するもの、ハードウェア、ソフトウェアとも年々規模が拡大していくものと予想している(図表11)。

世界と北米ではハードウェアの市場の伸びの予測についての違いはあるものの、ハードウェア、ソフトウェアとも拡大するとの予測は一致している。これまではVRヘッドセットを中心としたハードウェアやデバイスの進化により市場が拡大してきたが、今後は、VRを活用したソフトウェアやサービスの拡充、高付加価値化がさらなるVR市場全体の拡大のカギとなろう。また、ハードウェアのブレークスルーにより、視覚、聴覚以外の触覚、嗅覚、味覚でのVR実現にも期待したい。

エンターテインメントだけでなく様々なビジネスシーンにVRが活用され、ソフトウェアやコンテンツが充実してくることで、皆さんにとってVRはますます身近なものになっていくのではないだろうか。


図表10 世界のAR/VR 市場規模等の推移及び予測
図表10

  1. (資料)総務省 令和3年版情報通信白書 世界のAR/VR市場規模等の推移及び予測( 図表0-2-2-28)

図表11 北米におけるVR 市場規模の推移及び予測
図表11

  1. (資料)Grand View Research U.S. virtual reality market by component, 2014.2025 (USD Million)
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