ページの先頭です

技術動向レポート

Virtual Reality技術の最新動向(3/3)

情報通信研究部 上席主任コンサルタント 松崎 和敏

4.今後の展望(続き)

(2)注目トピック

本章では、筆者が注目している、クラウドを活用したVRコンテンツ提供の仕組みとその特徴について解説する。

昨今、SNS、Webメール、オンラインストレージ、文書管理など、さまざまな場面でクラウドが活用され、ビジネスシーンにおいても営業管理や顧客管理、会計管理などでクラウドが活用されていることは、周知の事実であろう。こうした高負荷な処理や大規模なストレージをオンライン上に集約し、ユーザーは性能的に軽量なデバイスを用いてこれを活用するといった考え方はVR分野においても適用されつつある。クラウド上で高負荷なVR映像生成処理を行い、ユーザーは各自が所有するVRデバイスやスマートフォンでそれを利用するという試みであり、2章で紹介したPC接続型VRならぬクラウド接続型VRである。

クラウドサービスはGPUを搭載したバーチャルマシンを提供するもので、その性能は年々向上し、利用可能な規模は拡充し、価格は徐々に低下する等、利用しやすい環境が整いつつある。また、通信性能の向上も進んでいる。総務省によると、旧来のLTE/4Gが次世代通信規格である5Gに置き換わることで、通信速度が約10倍、遅延が10分の1(1ミリ秒程度)、機器の同時接続数が30~40倍になるとされている*14。クラウドサービスと通信性能の向上は、クラウドサービスを用いたVRコンテンツの展開を可能とし、これまでにない新しいサービスを形作っていくのではないかと期待している。

例えば、クラウドゲーミング(サーバでゲームの演算処理を行い、映像をスマートフォンやPCに伝送することでゲームを楽しむ。ハイエンドなデバイスをユーザー自身で所持する必要がなくなる)といったサービスも出てきており、Microsoft、NVIDIA、Amazon、Googleなどが提供を始めている。他にもKDDIがAWS*15と5Gを組み合わせたVR実証試験を実施するなど*16、VRの活用に向けたフレームワークの整備や実証試験が始まっている。

厚生労働省は「外国人労働者安全管理支援事業」において、増加傾向にある外国人労働者の労災防止を目的として、VR技術を活用した安全衛生教育を推進している。直感的で理解しやすいというVRの特徴を利用することで、日本語が得意ではない労働者においても高い教育効果が期待できる。また、現実世界で経験させることが困難な事故を、仮想的な環境で体験させることで、事故の危険さを強く印象付けることができる。本事業において当社は、2020年度からVR技術を活用した安全衛生教育教材の作成を行っており、VRヘッドセットを用いるVR教材の作成(図表12、図表13)と体験会を通しての周知活動や、リアルタイムクラウドレンダリングによるスマートフォンを活用したVR教材の検討・開発・検証などを行ってきた(図表14)

クラウドを活用したVRコンテンツはまだまだ少ないものの、スタートアップ企業なども出始めている。少し飛躍的な未来予想かもしれないが、既に広く普及しているスマートフォンやタブレットをVR野がさらに盛り上がるのではないかと期待している。


図表12 VR 教材のイメージ
図表12

  1. (資料)厚生労働省「外国人労働者安全管理支援事業」にて作成したVR 教材(第三者視点映像)

図表13 VR 教材の体験イメージ
図表13

  1. (資料)厚生労働省「外国人労働者安全管理支援事業」にて作成したVR 教材の体験イメージ

図表14 スマートフォンを活用したVR 教材
図表14

  1. (資料)厚生労働省「外国人労働者安全管理支援事業」にて作成したスマートフォン活用型VR 教材

5.おわりに

本稿では、xR技術、VRヘッドセット、VR映像生成デバイス・ソフトウェアについて解説し、今後の市場動向やクラウド・5Gといった周辺技術との関わりについて、私見も交えて紹介した。

VRは様々な可能性を持つ技術であるが、実際に普及させていくためには、まだまだ課題も多い。技術面では、VRデバイスの解像度や速度といった性能向上、コンテンツをより簡単に受け取れる仕組みや通信インフラの整備、低価格化、軽量化、バッテリの大容量化などの技術開発が求められるだろう。そのほかにも、VRを安全に体験できる場所の提供、健康に対する影響の把握と対処、犯罪や有害コンテンツを排除する仕組みづくりなど、社会的な課題とその解決策が必要になってくると想定される。しかしながら、今後のVRはコンテンツの拡充は元より、新たな付加価値を提供するサービスの登場によってパーソナルシーン、ビジネスシーンを問わず、身近な存在になっていくのではないかと考えている。

夢物語かもしれないが、教育現場や商談、買い物、広告など現実世界の様々な場面にVRが浸透し、誰もがスマートフォンのようにVRデバイスを持ち歩き、至る所でデバイスを装着するといった、漫画やアニメで描かれるような未来が訪れることを期待している。VRという技術が、世の中に広く受け入れられ、より面白く、活気にあふれた、豊かな未来を創る礎になってほしいと願う。

  1. *1PoKeMoN GOは任天堂株式会社の登録商標です。
  2. *2HoloLens はMicrosoft Corporationの登録商標です。
  3. *3Oculus、Oculus RiftはFacebook TechnologiesLLCの商標です。
  4. *4Oculus GoはFacebook Technologies LLCの商標です。
  5. *5Oculus QuestはFacebook Technologies LLCの商標です。
  6. *6RICOH THETAはRICOHが商標出願中です。
  7. *7Insta360は一路高飛(深圳)科技有限公司が商標出願中です。
  8. *8YouTubeはGoogle LLCの商標です。
  9. *9Mayaは米国および/またはその他の国におけるAutodesk,Inc.、および/またはその関連会社および系列会社の登録商標または商標です。
  10. *10Unityは米国商標特許庁およびその他の国において登録済みのUnity Technologiesまたはその関連会社(「Unity」)の商標です。
  11. *11Unreal EngineはEpic Games,Inc.の登録商標です。
  12. *12総務省 令和3年版情報通信白書
  13. *13Grand View Research U.S. Virtual Realitymarketby component, 2014-2025(USD Million)
  14. *14 総務省 第5世代移動通信システム(5G)の今と将来展望(PDF/8.000KB)
  15. *15AWSは、米国その他の諸国における、Amazon.com,Inc.またはその関連会社の商標です。
    実証実験を実施―ビルや都市空間の3Dデータを利活用した事業価値創出に貢献―
  • 本レポートは当部の取引先配布資料として作成しております。本稿におけるありうる誤りはすべて筆者個人に属します。
  • レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。全ての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
ページの先頭へ