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社会動向レポート

PPP/PFI活用の視点から

多様化するスポーツ施設の今後のあり方(1/4)

戦略コンサルティング部
研究員 長谷川 薫
主席研究員 石川 裕康
主任研究員 加藤 隆一
研究員 髙森 惇史


公共スポーツ施設は、近年、あり方が大きく変化しており、施設のポテンシャルを引き出す整備・運営手法も多様化している。そこで先駆的な取り組みや事業化の視点を解説するとともに、今後の展望等について考察する。

1.はじめに

2022年6月、政府は「経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太の方針2022)」において、「新しい資本主義」の実現に向け、重点投資分野における官民連携投資の基本方針と、新しい資本主義が目指す、民間の力を活用した社会課題の解決に向けた取組等に関する改革の方向性を示した。その中では「PPP/PFIの活用等による官民連携の推進」として、「PPP/PFIアクションプラン(令和4年改定版)」に基づいて官民連携に向けた取り組みを強化することとし、今後5年間を「重点実行期間」として位置づけ、幅広い地方公共団体の取り組みを促すことや、交付金等についての制度改善を検討すること等が記載されている。

なお、同プランで特徴的なことは、2022~2031年度の10年間の事業規模目標を30兆円に引き上げたこと(2013~2022年度の10年間の事業規模目標は21兆円であったが、2019年度までの実績が23.9兆円となり3年間前倒しで達成した)、公共施設等を運営する権利を民間に付与するPFIであるコンセッション方式*1の重点分野にスタジアム・アリーナが追加されたことである。スタジアム・アリーナは、2022年3月に文部科学省が策定した「第3期スポーツ基本計画」においても「スポーツの成長産業化及び地域活性化を実現する基盤」として位置づけられ、地方公共団体による民間活力を活用した整備の推進が掲げられている。

このように、スタジアム・アリーナについては、国を挙げて、整備及び官民連携が推進されているところである。なお、スポーツ庁によると、全国には95件ものスタジアム・アリーナの新設・建替構想があるほか(2020年8月31日時点)*2、「第18回 PFI推進会議(内閣府)」では、今後のコンセッション方式の活用拡大に向けた新たな対象として、千葉マリンスタジアムや秋田県新体育館等、20か所の候補案件が言及されている*3こともあり、全国で、スタジアム・アリーナの整備と官民連携の導入に関する検討が行われると考えられる。

また、バスケットボールのプロリーグであるBリーグが2026年から新B1リーグに改革されることよる新たな施設基準の影響や、国民スポーツ大会をはじめとする大規模な大会開催へ向けた建て替え需要等にもより、今後も全国各地において、民間活力を活用した、スタジアム・アリーナを含む公共スポーツ施設の整備に向けた機運が一層促進されることが予想される。

本レポートでは、公共スポーツ施設での官民連携手法の導入について、事業化の流れとポイントを示すとともに、事業手法や施設種別ごとの効果及び課題等を整理し、今後の展望を考察する。

2.スポーツ施設の事業化について

(1)事業の実施主体について

スポーツ施設については、地方公共団体等が住民の健康増進や教育を目的として整備する公共施設がほとんどで、「平成30年度体育・スポーツ施設現況調査結果」(スポーツ庁)においても、我が国の体育・スポーツ施設の設置数は187,184箇所あるうち、民間スポーツ施設は16,397箇所と全体の8.8%にすぎず、残りの91.2%を「学校体育・スポーツ施設」、「大学・高専体育施設」、「公共スポーツ施設」が占めている。

しかし近年、先進的な民設民営のアリーナの整備計画が進められるようになっており、全国的に注目を集めている。

東京都のお台場に整備が予定されている「TOKYO A-ARENA」は、トヨタ自動車株式会社等が整備を行う。本施設はBリーグに所属する「アルバルク東京」がホームアリーナとして利用することを予定しているだけでなく、トヨタ自動車のモビリティテクノロジーの活用や、敷地内に屋外空間を設けること等により、地域の賑わいへの貢献等を計画している。また、環境性能評価に関する認証であるLEED認証*4を国内のアリーナで初めて取得することも目指しており、持続可能なライフスタイルをデザインするアリーナを目指すことが、施設のコンセプトとして掲げられているところである。

同じくBリーグに所属する「三河シーホース」の本拠地として愛知県安城市に整備が予定されている「アイシンアリーナ」も、民設民営により整備が予定されている。本事業において特徴的なのは、Bリーグの基準を満たすアリーナを整備するだけでなく、整備予定者である株式会社アイシンと安城市が地域活性化に関する包括連携協定を締結し、アリーナの整備を通じたまちづくりに加え、市民の健康増進や地域の安全・安心に関すること等12の項目について連携事項を定めているところにある。

このほかにも特徴的な施設に、横浜市のみなとみらいに株式会社ケン・コーポレーションにより整備が進められている「Kアリーナ横浜」がある。本施設は全席がステージ正面を向く扇型の形状とした上で、約2万席を確保し、世界でも最大級の音楽特化アリーナを計画している。さらに併設する形で「ヒルトン横浜」も整備し、賑わいの場の創出を目指している。

このように、民設民営のスポーツ施設では民間事業者のノウハウを活用した先進的な施設の整備が進められており、これらに牽引される形で、公共スポーツ施設についても民間に運営する権利を付与するコンセッション方式の採用を国が推進する等、スポーツ施設のあり方は変革期を迎えていると筆者は考える。2016年にスポーツ庁が公表した「スタジアム・アリーナ改革指針」でも、「地方公共団体が中心となって整備・管理する運動施設の多くは、これまでは『公共施設』としてシビルミニマムな水準での整備が行われてきており、整備後の収益性の観点が不足していた。」として、「スタジアム・アリーナの整備・管理とスポーツチーム等による活用によってもたらされる効用を適切に評価し、観客の熱狂を生み出したり、来場者を楽しませたりするスタジアム・アリーナの効用を最大化するための機能については、華美なものとして避けるのでなく、必要なスペックととらえて施設内容を検討することが望ましい。」と記載されている。こういった国の動きもあり、地方公共団体においては今後、これまで以上に民間スポーツ施設を参考にした、公共スポーツ施設の整備が進められると考えられる。

そこで本稿では、公共スポーツ施設について着目して、スキームを整理するとともに、最新の民間ノウハウを取り入れるための官民連携手法の導入や、公共の土地の利活用を通じた施設の整備手法等について整理し、ポイントを解説する。

(2)施設に関する整備方針の策定

地方公共団体が公共スポーツ施設の整備を検討するにあたって、まずは、施設に関する整備方針を策定する必要がある。スポーツ庁は「地方公共団体が保有する個々のスポーツ施設について,安心・安全・快適な利用に必要となる施設の性能を把握するため,基礎情報を収集・整理し,その情報に基づき,個別施設の方向性及び整備手法を検討し,その評価結果を取りまとめる。」*5として、当該地方公共団体が保有する各施設の基礎情報の収集・整理等による現況評価を行った上で、個別施設の方向性と整備手法を検討するという流れを示している。具体的には当該地方公共団体内の既存スポーツ施設の状況を調査した上で、機能維持・強化等の必要性を判断し、整備方針を決定することが必要となる。その際、各地方公共団体のスポーツ施設に関する政策方針上の位置づけや、既存施設との棲み分け等の各地方公共団体内における需要を含む、総量コントロールといったストックの適正化に関する視点が必要となる。

地方公共団体におけるスポーツ施設に関する政策方針を踏まえ、必要な機能に対し既存施設では対応できず代替施設もない場合には、新規整備を検討することとなる。ただし、大規模な大会等に向けて施設を新設する場合は、一時的な需要だけでなく、大会後の利活用等も視野に入れた検討が必要であり、一部を仮設整備すること等も検討対象となる。

(3)施設の機能・規模等の検討

新規整備を検討する場合、施設の必要機能や規模等の検討が必要になる。これらは、施設の役割や需要といった視点から検討を行い、想定される施設の整備費用や維持管理費用、利用者数及び収入等も併せて検討する必要がある。

この段階で特にポイントになるのは、施設の機能やコンセプトに関する検討である。スポーツ庁は施設コンセプトの検討フローとして図表1を示しているが、この中でも特に、「提供する公共サービスの検討」は、施設の機能・規模等に大きく影響を与えることとなる。例えば体育館であれば、市民の健康増進のためのスポーツ利用を主目的とする場合、競技しやすい環境や、地域活性化の場となるような環境を整備することが求められる。一方で、プロスポーツやコンサート等の興行利用を中心とする場合は、大規模な観客席や控室、VIP諸室の設置、車両搬入が可能な床材の導入検討等が必要となる。また、公共サービスの種類によって主な利用者も変わるため、アクセシビリティにも影響が生じる。

そのため、機能の検討にあたっては施設の需要に関する予測を併せて行うことが望ましい。特にスポーツ利用以外の興行利用を見込む場合、誘致を行うプロモーターへのヒアリング等を通じて、より現実に即した需要を確認し、当該施設として過不足のない需要を見込むように留意する必要がある。

施設の機能等の決定後、規模と併せて立地についても検討が必要となる。立地の検討にあたって複数の候補地がある場合、必要な敷地面積の確保の可能性や各種法令への適合、周辺交通への影響、周辺の既存スポーツ施設との機能重複の有無、周辺施設との連携等を比較検討する必要がある。特に興行利用を目的とする場合、集客性に影響することから、誘致を予定するイベントの種類に応じた交通手段別のアクセスの容易さ、周辺における商業・宿泊施設の集積状況等についても比較することが望ましい。なお、立地については敷地面積のみならず配置計画、動線計画、インフラ等もあわせた検討が必要となる点には留意が必要である。


図表1 施設コンセプトの設定手順
図表1

  1. (資料)「スポーツ施設のストック適正化ガイドライン参考資料:ストック適正化における大規模スポーツ施設の基本的方向性」(スポーツ庁)をもとにみずほリサーチ&テクノロジーズ作成

(4)基本構想及び基本計画の策定

施設機能や規模の方向性決定後は、それに基づく諸室数や配置計画、周辺交通計画も含めた駐車台数等、施設の詳細について検討を行い、基本構想や基本計画としてとりまとめる。その際には事業費や費用対効果、事業手法、事業スケジュール等も合わせて検討を行い、公表する事例が多い。

なお、事業手法について内閣府は、2015年度から人口20万人以上の地方公共団体に対し、公共施設等の整備等にあたって、まずはPPP/PFI方式の導入が適切かどうかを優先的に検討する規程(以下、「優先的検討規程」という。)を策定するよう要請を行っている。2021年3月末時点で47の都道府県と20の政令指定都市全てで、人口20万人以上の111の市区では約75%の83の市区で、優先的検討規程が策定されている。また、2021年度からは人口10万人以上20万人未満の地方公共団体に対しても、2023年度までに優先的検討規程を策定するよう促している。

そのため、今後、各地方公共団体では、施設の整備にあたり、優先的検討規程に従い、PPP/PFIの可能性を検討する事例が増えることが想定される。なお、最近では基本構想や基本計画の策定段階において、PPP/PFIを検討し方向性を示す事例もある。

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