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社会動向レポート

再生可能エネルギー時代の新たな電力ビジネスと企業の在り方(1/4)

戦略コンサルティング部 上席主任コンサルタント 並河 昌平


1.はじめに

再生可能エネルギーの台頭等、電力ビジネスは新たな時代に突入している。恒常的に電力を利用する企業は、事業戦略の一環として、自らの電力調達の在り方や電力ビジネスとの関わり方について再考する必要がある。

本稿では、企業がこれらを検討するための参考として、電力分野において現在起きている事象、具体的には、電力システムを取り巻く現状、電力の分散化・再生可能エネルギーを中心とした次世代電力システムへの変遷、将来の電力ビジネス展望等について解説する。

2.電力システムを取り巻く現状

まず俯瞰的な話として、我が国の将来の電力供給の在り方は、次の二つの方向性で進められている(図表1左側)。一つは、「送電プラットフォームの広域化・高度化」である。既存の大規模電源から送電するのみならず、再生可能エネルギー等の新たな大規模電源から需要地付近(配電変電所)に効率的に送電することを企図している。もう一つは、「配電プラットフォームの分散化・多層化」である。大規模電源のみならず、今後需要家や需要地付近で発電される「分散型電源」の導入を進め、効率的に電力システムの運用を行うためである。

前者の「送電プラットフォームの広域化・高度化」は、洋上風力等、我が国のカーボンニュートラルに向けた大規模な再生可能エネルギー電源の導入推進が計画されていることからも、重要な取り組みである。しかしながら、本稿では、より中長期的な視野での電力システムの本質的な変革をもたらすと思われる、後者の「配電プラットフォームの分散化・多層化(以下「分散グリッド化」と表記)」に焦点をあてて説明をしたい。

近年、大規模な太陽光発電(メガソーラー)は、条件面から開発余地が少なくなる一方、「分散型電源」は価格低減が進んでいる。遠くにある大規模な発電所から電気を運ぶより、需要地近くに太陽光発電を設置して自家消費する方が、経済性が高くなりつつある。

また、こうした「分散型電源」の導入が進むと、電気の流れが双方向化する。このためこれまで大規模な発電所から需要家まで一方向で電気を送電すればよかったものが、従来と逆方向に電気を送電(逆潮流)することを前提とした電力システムや運用方法が必要になる。(図表1右側)。このように「分散型電源」の導入が進むことで、新たに発生する課題への対応、それらを解決するための配電の役割の変化等、新たな事業機会の創出が「分散グリッド化」において期待されている。

この「分散グリッド化」の意義として、政府は、以下の三つを挙げている(図表2)。

第一に、地域の電力供給レジリエンスの向上である。2022年度、配電ライセンス制度という新たな制度が始まり、事実上、電力会社(一般送配電事業者)以外の民間企業が配電網の運用管理を行えるようになった。今後、災害時の送電系統の停電時には、送電系統との切り離しを行い、配電より下位の部分のみを独立運用し、電力供給を継続する「地域マイクログリッド」という仕組みが想定されている。

第二に、エネルギーの地産地消ビジネスの深化である。地域の再生可能エネルギーの発電から配電、小売までのサプライチェーン全体を、地域が主体となって行うことで地産地消ビジネスを深化させ、地方創生につなげていくという意義である。

第三に、再生可能エネルギーの大量かつ効率的な導入である。詳細は後段で説明するが、「分散型電源」をうまく活用して、再生可能エネルギーをさらに導入できる電力システムを構築していくということである。

「分散グリッド化」により配電プラットフォームが変化することで、今後様々な異業種の企業が新しい事業分野で活躍することが想定される。例えば、「分散型電源」の電力量や時間、位置情報等に関する情報プラットフォームの形成、「分散型電源」を運用するプロシューマ同士のP2Pプラットフォーム等の新たな電力取引ビジネス、電力データを用いた電力と他産業の融合による社会課題の解決等の分野である。


図表1 電力供給における変化の方向性、配電の役割の変化―電気の流れの複雑化・双方向化
図表1

  1. (資料)経済産業省 再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会(第39回)基本政策分科会 再生可能エネルギー主力電源化制度改革小委員会(第15回)合同会議 「資料3 電力ネットワークの次世代化」(2022年2月)等より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

図表2 「分散グリッド化」の意義と分散化による電力プラットフォームの変化の可能性
図表2

  1. (注1)地域の電力網が送電網から切り離して独立して運営すること
  2. (注2)需要家に設置している機器を制御して、送配電網の安定化に寄与する取り組み
  3. (注3)電力を消費していた主体(コンシューマー)が、太陽光発電を導入する等、自ら電力を作るようになる(プロデューサー)こと。この主体を両者の造語で「プロシューマ―」と呼ぶ
  1. (資料)経済産業省 再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会(第39回)基本政策分科会 再生可能エネルギー主力電源化制度改革小委員会(第15回)合同会議「資料3 電力ネットワークの次世代化」(2022年2月)、資源エネルギー庁 第8回 次世代技術を活用した新たな電力プラットフォームの在り方研究会「資料7 事務局提出資料」より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成
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