現在の地球環境と自然を生かした気候変動緩和の取り組み(1/3)
2024年10月
みずほリサーチ&テクノロジーズ サイエンスソリューション部 渋木 尚
- *本稿は、2024年3月に「みずほリサーチ&テクノロジーズ技報 Vol.3 No.1」で発表した内容となります。
はじめに
地球温暖化、気候変動という言葉が定着した現在、大気中のCO2の世界平均濃度は415.7[ppm](2021年)と400[ppm]を超えている。しかしながら、過去の地球ではどのような濃度変化が起きていたのか等、過去、現在、未来の観点から、地球環境の状態を示すデータを総合的に把握される機会は多くない。
大気中へ排出されるCO2量の将来動向を手始めに、CO2濃度、地表面温度、海面温度の経年変化の傾向について整理して、温暖化現象がどの程度進んでいるかを示す。次いで、人類が地球に与える影響を明快に示している、地球圏・生物圏国際協同研究計画(IGBP:The International Geosphere-Biosphere Program)が発表した、「大加速」を紹介する*1。
最後に、自然生態系保護を通した気候変動緩和の取り組みに触れ、将来の地球環境を改善する方策を考えるきっかけとしたい。
CO2排出量の動向
全世界でCO2の排出量はどの程度なのか、排出量の将来シナリオはどうなっているかについては、国際エネルギー機関 (IEA)の 「Net Zero by 2050 Roadmap for the Global Energy Sector」という報告書が参考になる。
以下に示す図1において、NZEは2050ネットゼロシナリオに基づく、CO2排出量の想定推移を示している。このNZEシナリオは国際的な協力が良好に進むことを前提としたものであるが、国際的な協力が低レベルとなる可能性があるため、その場合についてCO2排出量の推移を想定したのが、図1中のLow International Co-operation Caseである。2050ネットゼロ (NZE) シナリオと比較して、CO2の排出量が正味ゼロとなるのが40年遅くなると想定している。
図1 CO2排出量シナリオの例
(出所)IEA, Net Zero by 2050 A Roadmap for the Global Energy Sector*2
国内の動向については、2021年度の温室効果ガスの正味の排出量は11.2億トンCO2換算 (1.12ギガトンCO2換算) であった。世界のエネルギー関連CO2排出量が363億トンであるから、全世界の排出量の3.1%が日本から排出されていることになる。また、2020年度の比較では2,150万トンCO2換算の増加であるが、基準年の2013度比では20.3%の減少となっている。図2に示すように、2030年度目標の達成及び2050年度のカーボンニュートラル実現に向けてはその計画に近い推移を示しており、日本国内の取り組みについては一定の進捗が見られると評価されている。
図2 国内の温室効果ガスの排出量実績と2030年度・2050年度目標
(出所)環境省,国立環境研究所,2021年度温室効果ガス排出・吸収量(確報値)概要*3
地球環境を示す観測量の推移
地球環境を示す観測量のうち、我々になじみのある大気中CO2濃度、世界の年平均気温の長期変化を示すとともに、地表面側を暖めるとされる赤外放射の観測データの現状を示す。
(1)大気中CO2濃度の長期推移
過去80万年前まで遡った、大気中CO2濃度の長期推移を図3に示す。急激な変化を示す現代 (1960年以降) を除くと、数万年単位で180[ppm]から300[ppm]までの範囲で変動していることがわかる。
図3 大気中CO2濃度の長期推移
(出所)Scripps Institution of Oceanography at UC San Diego, The Keeling Curve*4
次に、産業革命以前 (1700年) から現在までに限定した大気CO2濃度の推移を示す (図4)。1850年以降に微増のトレンド始まり、1960年以降は顕著な大気CO2濃度の増加を確認できる。
図4 1700年から現在までの大気中CO2濃度の推移
(出所)Scripps Institution of Oceanography at UC San Diego, The Keeling Curve*4
(2)世界の年平均気温偏差の経年変化(1891~2022年)
大気中CO2濃度は1960年以降に顕著な増加を示すが、世界の年平均気温はどのような応答をしているかを次に述べる。
1891年以降の世界の年平均気温の推移を図5に示す。世界の年平均気温は、陸域における地表付近の気温と海面水温の平均から算出している。ここで注意が必要なのは、世界の年平均気温についてはその値ではなくて、基準値 (現在は1991年から2020年までの30年平均値を使用する。) からどの程度ずれているかを表わす偏差で表現する点である。最新のデータである、2022年の世界の平均気温の基準値からの偏差は+0.24℃である。
図5の赤色の直線で示されている通り、長期的なトレンドは100年間で0.74℃の割合で上昇している。1990年代半ば以降の世界の平均気温偏差はこの長期的なトレンドを示す赤色の直線より上側にプロットされているので、近年は高温傾向にあることが確認できる。
図5 世界の年平均気温偏差の経年変化
(出所)気象庁,世界の年平均気温*5
(3)海面水温の長期変化
地球の表面積の70%を占め、地球温暖化への影響が大きいと考えられる、海面水温の変化を以下にまとめる。
海面水温の2022年の年平均海面水温 (全球平均) の平年差は+0.17℃で、統計を開始した1891年以降で6番目に高い値となっている。ここで、平年差は1991~2020年の30年平均で求めた平年値との差である。
図6に示すように、年平均海面水温 (全球平均) のグラフは数年から数十年の時間スケールの海洋・大気の変動や地球温暖化等の影響が重なり合って変化するが、100年程度の長期的な傾向は100年あたりで0.60℃の上昇となっている。 (図6では、各年の観測値は黒い実線で結び、5年移動平均値を青い実線で結び、長期変化傾向を赤色の直線で示している。)
この傾向は陸域における地上気温の変動とも概ね同じ傾向を示しているが、陸上気温の長期的な変化率は、1880年から2022年までの期間において100年あたり0.87℃の上昇 (世界の年平均気温 (陸上のみ) の経年変化) となっているので、海面水温の上昇率の方が地上気温の上昇率よりは小さいことになる。
図6 世界の年平均海面水温偏差の経年変化
(出所)気象庁,海面水温の長期変化傾向(全球平均)*6
(4)地表面に向う方向の赤外放射量の観測
大気CO2濃度が増加傾向にあること、また、地球の平均気温や海面水温の観測値も上昇傾向にあることを観測データから確認した。
次に、CO2をはじめとする温室効果ガスは地球の温暖化へどの程度関係しているかを調べるデータとして、赤外放射量の観測データを紹介する (図7)。
CO2をはじめとする温室効果ガスは赤外線を吸収しやすいと同時に、地表面側と大気圏の外側に赤外線を放出していることを利用して、地表面に向う方向の赤外放射量を観測することができるが、意外なことに公開されているデータが少なく、国内ではつくばの観測データにより、最近の50年ほどの変化を示すデータが存在する程度である。
図7 つくばにおける赤外放射量年平均値の長期変化傾向のグラフ
(出所)気象庁高層気象台,赤外放射観測*7
CO2濃度、地球の平均気温のデータと異なり、地表面に向う方向 (下向き) の赤外放射量の観測データは最近50年分しかなく、濃度が年々増加している大気中のCO2が地球をどの程度暖めていることに影響しているかについては、現時点はまだはっきりしない。さらなる観測データの蓄積が待たれるところである。
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