メタネーション反応器のシミュレーション
CO2とH2からメタンを合成するメタネーションのシミュレーションモデルを作成し、転化率やコストを踏まえた運転条件の検討を実施しました。条件設定にあたっては、既往研究*1 *2を参考にしました。
解析条件
反応器は、下の概念図に示すように、半径14[mm]、長さ1.5[m]の円筒型で、その内部は触媒Ni/ZrO2と支持材Al2O3で構成される多孔質で満たされているものとします。ここに、CO2(モル分率0.2[-])とH2(モル分率0.8[-])からなる温度473.15[K]の原料ガスを流入させ、内部で触媒を介した反応を起こして、CH4, H2Oを含む流出ガスを得ます。壁面外側には定温の熱媒油を循環させ、反応により発生する熱を十分に回収(冷却)します。今回は、壁面温度は流入ガス温度と同じに保たれているものとしました。なお、圧力は出口において0.6[MPa]としました。

反応器の概要
反応としては工程の中心をなすサバティエ反応(式(*))のみを考慮するものとしました。

解析結果
解析結果の一部を下図に示します(見やすさのためアスペクト比を調整して表示しています)。流入したCO2が入口にごく近い最上流部で局所的に反応して800[K]を超えるピーク温度を迎えた後、中流部以降ではCO2濃度が0近くまで低くなって反応が収まることで入口と同程度にまで冷却されています。この結果は、下図に示す通り、既往研究*1 *2ともよく整合しています。

多孔質固相温度[K]

CO2モル分率[-]

中心軸上の温度(左)とモル分率(右)の分布(文献*1 *2との比較)
次に、触媒比率(多孔質中における触媒の存在比率;反応速度にこの係数をかける形で反映)と壁面温度(流入ガス温度と連動)という2つのパラメータを様々に変更したケースで解析を行い、各ケースについて得られたCO2転化率とピーク温度を下図のように整理しました。
触媒を多く投入し、かつ冷却の程度を強くする(すなわち図中の右下)ほど転化率が高くなることが定量的に示されていますが、一方でこのとき材料コスト・冷却コストは増加することが想定されます。また、図中の右上付近の条件下では800[K]を超える高いピーク温度を伴う解析結果が得られています。このような高温条件では現実には(今回の解析モデルでは考慮できていない)メタン分解反応が顕著になることが知られており*3、転化率はより低い値に留まると推定されます。
このような分析は、モデルの適用可能条件範囲を特定した上で、その範囲内におけるコストと転化率との間のトレードオフを定量的に評価することを可能にし、複数の評価観点を考慮した適切な運転条件の設計に関する意思決定を行う上で助けとなると考えられます。

様々な触媒比率と壁面温度に対する転化率
参考文献:
- *1Lin Y. et al.: Inhibition of temperature runaway phenomenon in the Sabatier process using bed dilution structure: LBM-DEM simulation, AIChE J., 67 (2021) e17304.
- *2福本一生ら: カーボンニュートラルへの化学工学(丸善出版, 2023)157-173.
- *3Kuvshinov G.G. et al.: Peculiarities of filamentous carbon formation in methane decomposition on Ni-containing catalysts, Carbon, 36 (1998) 87-97.
- 適用事例(1):メタネーション反応器のシミュレーション
- 適用事例(2):リチウムイオン二次電池シミュレーション
- 適用事例(3):電気めっき解析による膜厚分布予測
- 適用事例(4):金型加熱の制御シミュレーション