サステナの落とし穴(1) 求められるサステナビリティの統合的アプローチ

2023年9月29日

サステナビリティコンサルティング第2部

高木 重定

パリ協定以降、カーボンニュートラルに向けた取り組みが強く求められるようになってきていることを受け、企業はサプライチェーンも含めた温室効果ガス(GHG)排出量の算定(Scope1・2・3算定)や、気候変動影響を勘案した戦略の検討・移行計画の策定、TCFD・ISSB開示基準を踏まえた情報開示などに積極的に取り組んできている。

しかし近年、GHG削減に加えて、生物多様性・自然資本、資源循環・サーキュラーエコノミー、安全・安心など、企業が取り組むべきサステナビリティに関するテーマは多様化してきており、企業はそれらにどのように取り組んでいくべきかという切実な悩みを抱えるようになってきた。

加えてこれら多様なサステナビリティに関する領域の間には、トレードオフの関係を有するものもあり、今後、企業の取り組みをより一層、難しくさせていくと考えられる。

サステナビリティ領域におけるトレードオフの一例として、古紙のリサイクルが挙げられる。古新聞などの古紙を使ってリサイクルした紙(再生紙)の利用促進は、森林資源の利用抑制・資源循環の観点から環境に配慮した取り組みとして多くの企業で実施されている。しかし、実際には森林から生産される木材チップから新たに生産した紙(バージン材)に比べて、再生紙の方が製造時のGHG(二酸化炭素)の発生量は多くなってしまうことがある。たとえば、古紙をリサイクルする際にはエネルギーが必要となるが、一般にそのエネルギーを消費する際には二酸化炭素が排出される。

一方、森林資源から紙(バージン材)を作る際に利用するエネルギーは森林資源自体が保有するエネルギー(バイオマスエネルギー)であり、そのエネルギーはカーボンニュートラル(炭素中立)と見做され、その二酸化炭素の排出はカウントされないという考えがある。そのため古紙のリサイクルの方が製造時の二酸化炭素排出量が多くなることがある。これは再生紙に限った話ではなく、資源循環に優れた取り組みであるリサイクル材の利用促進が、結果として温室効果ガス排出量を増やしてしまう場合もある。

このようなサステナビリティ領域のトレードオフやその反対のWin–Winの関係性についての重要さは以前から指摘されてきている。2012年4月27日に策定された第四次環境基本計画では、目指すべき持続可能な社会の姿として、「人の健康や生態系に対するリスクが十分に低減され、『安全』が確保されることを前提として、『低炭素』・『循環』・『自然共生』の各分野が、各主体の参加の下で、統合的に達成され、健全で恵み豊かな環境が地球規模から身近な地域にわたって保全される社会」と掲げている。また現在、見直しが検討されている環境基本計画においても政府が果たすべき役割としてサステナビリティ領域間の関係性を踏まえた「統合的アプローチ」を掲げており、改めてその重要性に触れている。さらにグリーンボンド原則*1や欧州のタクソノミー*2においてもサステナビリティの取り組みを進めることによるネガティブな面の確認が求められるようになってきた。

それを受け、研究機関や企業においても、領域間の関係性を統合的に評価するための指標開発やその導入が行われるなど、サステナビリティ領域の統合的アプローチの開発の必要性は増してきている。

このように、これからの企業のサステナビリティ戦略は、トレードオフを始めとした各領域間の関係性をしっかりと紐解き、統合的に評価したうえで作成されることが重要であり、このことこそが本来のサステナブルな社会構築につながると考えられる。

本連載では、領域間に潜むトレードオフの事例を紹介していきたい。次回は「脱炭素と生物多様性」について紹介する。

  1. *1
    グリーンボンド発行に関する自主的なガイドライン。
  2. *2
    欧州における持続可能な経済活動に関する基準。

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