サステナの落とし穴(3) 「資源循環」と他のサステナビリティとの関係性

2023年11月30日

サステナビリティコンサルティング第2部

高木 重定

第3回となる今回は、「資源循環」と他のサステナビリティとの関係性について、焼却処理施設を事例に紹介する。

廃棄物の焼却処理施設は、戦後、公衆衛生の向上に向けて導入が促進された。1990年代には産業廃棄物の最終処分場の残余年数が2年を下回った時期もあり、焼却処理を行うことで最終処分量を減らし、大量生産・大量消費型の経済において急激に増加した廃棄物を適切に処理するうえで活躍してきた。また、2000年代には焼却処理時に発電する廃棄物発電が地球温暖化対策の1つとしてみなされるようになり、温室効果ガス削減にも寄与してきた。

しかし、近年、「脱炭素」への動きが加速化する中、廃棄物処理分野に関しても他の分野と同様に温室効果ガス排出量ゼロを目指す動きが起き、2021年8月に環境省から公表された「廃棄物・資源循環分野における2050年温室効果ガス排出実質ゼロに向けた中長期シナリオ(案)*1」でも、温室効果ガス排出実質ゼロに向けてはCCUS*2による炭素回収・利用が必要であるとされた。全国各地にある焼却処理施設の全てに回収処理設備を設置するには技術的・経済的に多くの障壁が予想されることから、焼却施設・廃棄物発電は脱炭素とwin–winとは言い切れなくなる可能性が出てきた。

一方で、「安全・安心」の観点からみると、焼却施設の重要性も高まっている。近年、自然災害が増加してきているが、災害により発生した災害廃棄物は迅速に処理を行わなければ復興を阻害することになる。こうした場面において可燃性の廃棄物を迅速に、かつ、適切に処理することができる焼却施設は復興において重要な役割を果たす。特に腐敗しやすい廃棄物は早期に処理を行わない場合には悪臭や衛生面での問題も起こりかねない。つまり、焼却施設は安全・安心とはwin–winの関係性になってきている。ほかにもリサイクルを行うことが困難な有害物質などを適正に処理するうえでも焼却施設の役割は今後も重要であると筆者は考える。

本稿では、廃棄物発電を事例に「資源循環」と他のサステナビリティ領域との関係性を見てきたが、ほかにもリサイクル、リユース、リペア、シェアリング、PaaS*3など、他の資源循環の取り組みについてもwin–winとトレードオフの関係は複雑になっている。資源循環の取り組みは、資源の採掘から廃棄までのサプライチェーン全体に関わる取り組みであり、製造される製品のライフサイクルを考慮する必要があるため、ライフサイクルアセスメントなどの手法を用いた客観的な評価を行っていく必要がある。

今年度、環境基本計画の見直しが行われており、10月には「第六次環境基本計画に向けた中間取りまとめ*4」が中央環境審議会総合政策部会から公表された。その中で環境面の30年間の振り返りと課題認識の1つとして「個別の環境政策等の統合・シナジーへの流れ」に言及がなされている。本連載でお伝えしてきたとおり、サステナビリティへの取り組みを行ううえで、「脱炭素」「資源循環」「生物多様性」「安全・安心」の間での相乗効果やトレードオフといった関係性を統合的に考えることの重要性は高まっている。

  1. *1
  2. *2
    Carbon dioxide Capture, Utilization and Storageの略。
  3. *3
    Product as a Serviceの略。
  4. *4

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