
米国環境庁(EPA)は2023年10月に、有害物質排出目録(TRI)*1に登録されている189種類のPFASを特別懸念化学物質(chemicals of special concern)に指定するとともに、TRIのPFAS報告に関する規制を強化する新たな規則(以下、新規則)*2を最終決定した。
「パーフルオロアルキル化合物・ポリフルオロアルキル化合物の報告要件および特別懸念化学物質のサプライヤー通知に関する変更」と題された新規則は、連邦規則(40 CFR Part 372)を修正する形で2024年1月以降の報告年度から適用される。
最大のポイントは、デミニミス(僅少)免除規定の廃止である。従来の規定では、対象のPFASが1%以上(発がん性物質の場合は0.1%以上)の濃度で使用され、かつ対象PFASの取扱量が100ポンド(約45kg)以上の場合のみ、事業場はEPA等に対するTRIの報告を求められていた。しかし、新規則では、これを下回る低濃度の使用でも、環境への排出量等について報告を義務づけられることになった。報告した情報はTRIの根拠法*3に基づいて公開される。
PFASは分解されにくく、自然界や体内での影響が懸念されているが、報告要件に該当しない低濃度で使用されている場合が多く、現在の規制では、その利用状況が十分に捉えられていない。たとえば、2021年度には176種類のPFASがTRIの対象物質であったが、このうち事業場からの報告があったPFASは43種類にとどまった。こうした事情を踏まえて規制強化に至ったと、EPAは説明している。
なお、新規則では、特別懸念化学物質に指定されている全ての物質について、低濃度で使用した場合にサプライヤー通知を免除する規定も廃止される。製造・加工を手掛ける事業場は、対象物質が1%未満(発がん性物質の場合は0.1%未満)の低濃度で製品に含有されている場合でも、販売先に対し、当該物質の情報を通知する義務が生じることになる。EPAはこの措置により、物質の情報が流通の川下まで伝わりやすくなり、TRIの報告を行う事業場が増えると見込んでいる。
デミニミス免除規定の廃止については、分析自体が困難なPFASが少なくない中で、極めて低い濃度まで事業者が把握・管理できるかが論点となるだろう。製品のサプライヤーは、TRIの対象となるPFASの種類や濃度を開示する必要があるが、企業秘密の観点から十分な情報が伝達されない可能性もある。しかしながら、TRIの報告やサプライヤー通知を怠った場合、高額な罰金が課された事例もあり、どこまでの精度で対応すべきか、多くの企業が頭を悩ませることになりそうだ。
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*1TRIとは、Toxic Release Inventoryの略で、米国内の事業場から届け出られた化学物質の製造・加工・使用について、EPAが市民に情報を公開するデータベースを指す。
https://www.epa.gov/toxics-release-inventory-tri-program/what-toxics-release-inventory -
*2
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*3緊急対処計画及び地域住民の知る権利法(Emergency Planning and Community Right to Know Act、EPCRA)
https://www.epa.gov/epcra/what-epcra
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