
*本稿は、『週刊東洋経済』 2024年7月27日号(発行:東洋経済新報社)の「経済を見る眼」に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。
厚生労働省は7月初旬、5年に1度の公的年金保険の財政検証結果を発表した。公的年金保険では、少子高齢化が進んでも財源の範囲内に支出が収まるように一定期間、給付水準の伸びを調整する仕組みを導入している。そこで調整期間の見通しを示して、給付水準などを検証している。
給付水準を測る物差しとして規定されているのが、モデル世帯の所得代替率である。これは「現役男性の平均手取り収入額」に対する「40年間厚生年金に加入した平均的な夫と専業主婦からなる世帯の年金額」の割合をいう。
2024年度の所得代替率は61.2%。4つの経済シナリオのうち4番目に厳しい経済前提を置いた「過去30年の経済状況を投影したケース(実質賃金上昇率0.5%)」では、将来の所得代替率は50.4%と試算されている。
なお、所得代替率は、購買力を示す実質年金額とは異なる概念であることに留意が必要である。24年度のモデル世帯の年金額は22.6万円であるのに対して、投影ケースにおいて、物価上昇率で現在価値に割り戻した将来の実質年金額は21.1万円と推計されている。
さて、今回の財政検証で注目すべきは、女性の労働参加の進展などが、年金額にプラスの効果をもたらすことを可視化した点である。
第一に、若年世代の女性ほど厚生年金保険の加入期間が延びて、年金額が上昇する。投影ケースにおける厚生年金保険の加入期間別分布を見ると、20年間以上加入する女性の割合は、65歳(1959年生まれ)では38.5%だが、30歳(94年生まれ)では71.6%に伸びていく。
その結果、65歳時点で女性が受給する平均年金額(1人分)は、今の65歳では9.3万円(実質額)なのに対して、30歳では10.7万円に増加すると推計されている。
第二に、年金改革として、短時間労働者への厚生年金保険の適用拡大を行えば、女性の年金額はさらに高まる。270万人規模の適用拡大を行った場合、30歳女性が受け取る平均年金額は11.4万円と試算されている。これは、現在の65歳女性が受給する平均年金額の23%増になる。適用拡大によって、報酬比例部分を上乗せされる女性が増加するのが大きな要因だ。
第三に、夫婦2人が正規労働で働く共働き世帯の増加も予想される。20年の「国民生活基礎調査」を用いた分析によれば、夫婦2人の合計年金額がモデル年金の1.3倍(29.6万円)以上の夫婦世帯の比率を見ると、「①正規労働者1人の片働き世帯」では15%なのに対して、「②正規労働者2人の共働き世帯」では47%に上る。
一方、現在の夫婦世帯の構成比をみると、①は53%、②は26%である。将来的には、この比率が逆転することは十分考えられる。
以上のように、女性の労働参加は、女性自身や夫婦世帯の年金額を高めていく。とくに、正規労働者2人の共働き世帯の増加は、年金額の上昇に大きな影響をもたらす。
今後、求められるのは、年金改革として厚生年金保険の適用拡大を進めることや、子育て期でも夫婦で働き続けられるような子育て支援策の充実であろう。
(CONTACT)

