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衛星データを活用したビジネスの現状

衛星データと宇宙が、もっと身近に

2019年1月15日 サイエンスソリューション部 今野 彰

1969年7月20日、米国のアポロ11号が人類史上初の月面着陸に成功した。この時月面に降り立った宇宙飛行士の一人であるニール・アームストロング船長は「これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である。」という言葉を残し、アポロ11号による月面着陸は歴史的イベントとなった。

そんな「偉大な飛躍」から今年でちょうど50年が経つが、今も人類は宇宙に想いを馳せている。中でも2010年代に入ってから、宇宙がビジネスの新たなフィールドとして捉えられるようになった。宇宙ビジネスは多岐に渡り、例えばロケット開発・発射サービスから人工衛星開発・利活用、宇宙旅行、月・火星での資源開発まで存在する。今回のコラムでは、このうち「人工衛星開発・利活用」の分野、特に地球観測衛星で取得されたデータの分析ビジネスに焦点を当てて、宇宙ビジネスの現状を俯瞰したいと思う。

地球観測衛星で得られる画像データは様々なビジネス分野で利活用されている。その一例が、「石油タンクの蓋の位置による経済活動の分析」である。衛星から石油タンクを観測すると、その蓋が見える。浮き屋根式と呼ばれる石油タンクの場合、蓋は可動式となっていてタンクに貯蔵されている石油の量に応じて蓋の位置が変わる。従って定期的に石油タンクの蓋の位置を衛星から観測すれば、石油の需要・供給量を推定することができ、公式発表に頼らなくとも、その国・地域のマクロな経済活動の分析と予測が可能になる。ミクロ経済にも衛星データを適用できる。とある店舗の駐車場を衛星で観測すると、そこに停めている車の台数も調査することができる。過去の情報を基に、駐車台数と売上高の関係が分かれば、現在の売上高を推定し、決算発表等を待たずともその店舗の業績を予測することができる。

もちろん衛星データの応用先は経済分野だけにとどまらない。衛星の中には地面や構造物等の高さの変化を捉えられるものもある。この性質を利用すれば、例えば防災分野では、地震や集中豪雨により崖崩れや地盤沈降が生じた場所を災害発生から早い段階で検知することができ、人命救助や復興計画立案のために必要な情報が得られる。災害が発生した場所での活動は危険を伴うことになるが、衛星データは、それを助ける強力なツールにもなる。農業分野でも衛星データの利用が広がっている。衛星で水田地帯を観測すると、水稲の作付面積を把握することができるため、収穫量を予測できる。衛星データから推定できる情報は収穫量だけでなく、収穫時期や玄米に含まれるタンパク質の含有率、土壌の肥沃度のような、米の品質に関わる情報も得られる。これらの情報を提供・管理できるウェブアプリケーションも開発され、高品質なブランド米の安定的な供給に役立てられている。

他にも衛星データを活用したソリューション事例として、漁業分野では、海の温度や色を衛星から観測することで、好漁場を探査したり養殖場での赤潮被害を抑えたりする取り組みがある。環境分野においては、衛星で森林破壊の様子をモニタリングすることで、違法伐採の監視や森林バイオマス・二酸化炭素吸収量の変化の推定が行われている。衛星データ活用ビジネスはこれ以外にも多数存在し、枚挙に暇がない。このようなビジネスが浸透していけば、今後、衛星データに対するニーズも増えると予想される。

さまざまな活用が進む一方、日本国内には、これまで衛星データを活用したいと考えても、そのデータを容易に利用、解析できるようなプラットフォームが存在しなかった。しかし、それを解決するプラットフォーム“Tellus(テルース)(*)”が今年、2019年から正式にリリースされる予定である。なお、当社もこのプラットフォームの構築・利用促進事業の協力企業として参画し、衛星データを活用した新たなビジネスの創出に取り組んでいる。衛星データの利用環境が整備され、それを活用した様々なビジネスアイディアが生まれれば、宇宙ビジネスに新たなブレークスルーが生まれ、宇宙がもっと身近に感じるようになるかもしれない。

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