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予備知識ゼロ。突然のAI部門への異動。AI人材育成の現場から

2019年2月19日 AI Powerhouse 高野 哲平

以下の会話は、筆者が着任したAI部門で日常的に飛び交っている会話です。

(若手S):画像解析でなかなか精度が上がらなくて色々と調査していたら、CNNの深い層ではフィルター数を増やすのが一般的だったので、やってみようと思います。

(上司K):CNNで画像を解析するなら、それが普通だよ。それ以外にもフィルターサイズやストライドの設定でも変わってくるけど、一般的にこれといったモデルはないはずだから、学習結果を都度調べることが重要だね。

「日常会話だな」と感じた人は、きっとAIに関する知識やノウハウをお持ちなので何も心配なくAI部門でやっていけると思います。逆に「何を話しているか分からない」と感じた人はAI部門への異動発令が出たら、不安になるのではないでしょうか。

筆者も後者の人間で、現在のAI部門に異動する前は、みずほ銀行向けのシステム開発をプロジェクトマネージャーという立場で担当しており、新聞などでAIに関する記事を目にしても「ただの流行だし、数年後にはまた消えるよ」と考え、何の予備知識もないまま、AI部門に着任することになりました。当然ながら会話にはついていけず、着任後もしばらくは呪文のような会話を聞こえたままメモする日々となりました。

AI人材不足を知る

内閣府の発表(*1)によれば、AI人材を含むIT人材は2020年には先端IT人材で約5万人、一般IT人材では約30万人、2030年には約60万人が不足すると予測されており、現在では優秀なAI人材には数千万円の処遇を提示する企業が出てくるなど、各社のAI人材争奪戦は熾烈を極めています。

こういった中、各社で自社社員をAI人材として育成する動きがあるだけでなく、経済産業省としても従来型のシステム開発を経験してきた中堅世代のIT人材に新規技術を習得してもらう「Reスキル講座」(*2)を立上げ、AI人材の育成に取り組んでいます。

AI人材とは何か?育成すべきAI人材のレベルはどこか?

では、ここで言う不足している「AI人材」とはどういうスキルを持つ人材なのでしょうか。冒頭の若手と上司の会話を日常的と思える人だけがAI人材なのでしょうか。

答えは「No」です。AI人材についてはいくつかの分類/レベルの違いがあり、企業毎に求めるAI人材のレベルは異なります。この分け方についても決まった定義はないのですが、筆者が所属する組織ではAI人材を以下の5段階に分類しています。

  1. (1)スペシャリスト:先端技術全般知識を有し新規ビジネス開発開拓、業務改革をけん引できる。
  2. (2)上級AI人材:データと目的に応じた独自アルゴリズムの研究開発を行い、成功に導ける。
  3. (3)中級AI人材:複数のAIエンジンのアルゴリズムを理解しデータに応じた正しい選択ができる。
  4. (4)初級AI人材:既存のAIエンジンを用いた開発・チューニングが行える。
  5. (5)AI入門者:簡単な実装経験と、AIで実現できる/できないを区別する基礎知識を持つ。

ここで、各社が「AI人材育成」ということに取り組む際には、自分達が「何に力を入れていくのか」を意識する必要があります。例えば、“AIを活用したい”レベルの企業がAIのスペシャリストを育成するのは過剰かもしれません。社内ではAI入門者レベルの人材を育成してAIで実現したいことを決めるまでに留め、実際に開発する時には外部に任せるということの方が迅速で効果的な場合もあります。

AI人材になるために ―焦った筆者の3カ月―

私の着任したAI部門では中級AI人材以上の人材が求められており、このレベルでは冒頭の若手と上司の会話は日常的なのですが、皆さんの会社で育成しようとしているAI人材がAI入門者や初級AI人材のレベルなのであれば、この会話が理解できないことに大きな不安を感じる必要はないと思います。

それでは「(3)中級AI人材」以上を目指しているのに、会話が理解できなかった場合はどうでしょうか。筆者の場合は、AI人材としてのスタートラインはAI入門者ですらなかったので、「まずは会話が理解できるようになろう」を目標に、会社から帰宅後はAI関連の書籍を読みあさり、新しいPCを買い、Anacondaをインストールし、Pythonのサンプルコードをひたすら書くといったことを3カ月継続しました。それでも中級AI人材には到達しないのですが、何とか、冒頭の若手と上司の会話が呪文から言葉として理解できるレベルにはなってきました。

結局のところ、中級AI人材レベルには実践を通してしか到達できないため、このレベルを目指す皆さんは、とにかく「手を動かす」「頭を動かす」を実践してみてはいかがでしょうか。

最後に

現在、社会の様々なサービスや事業はAIと切り離せない関係になってきており、今後はさらにAIが身近な社会になっていくはずです。その時に、AIを便利な道具として使えるよう、自分に合ったレベルのAI知識を持っていることは必要なことだと筆者は思っていますので、今回のコラムを通じて、読者の皆さんが「AIを少し調べてみようかな」と思ってもらえたら嬉しいです。

  1. *1内閣府 重要課題専門調査会(第14回)
    (PDF/52KB)
  2. *2経済産業省 ニュースリリース
    第1回「第四次産業革命スキル習得講座」を認定しました
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