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「子ども食堂」と企業(1)―地域貢献から企業は何を得るのか?―

2019年9月30日 社会政策コンサルティング部 齊堂 美由季

本コラムでは、様々な形で子ども食堂の支援に取り組む民間企業の事例と、そこに掛ける企業の思いを紹介する。全3回(予定)のコラムの中で、「子ども食堂との関わりを通じて、企業が得られるものとは何か?」という問の答えを探っていく。

1.子ども食堂の爆発的な広がり

「子ども食堂」という言葉は、一度は耳にしたことのある人が多いだろう。報道で取り上げられることも増え、テレビのバラエティ番組で芸能人が子ども食堂を改装する企画が放送されたこともあった。改めて子ども食堂について一言で説明すると、「子どもたちを中心とした地域の人に、無料または安価で食事を提供するコミュニティの場」とまとめられるだろう。

「子どもの貧困対策」というイメージが強いが、貧困かどうかに関わらず、また、子どもか大人かの区別もなく、地域住民のコミュニケーションの場として活動している子ども食堂も多い。目指す姿を明らかにするために、「地域食堂」等の名前をつける場合もある。

運営主体は地域の有志やボランティア団体のことが多く、民間の草の根的な取組みとして広がってきた。NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえによれば、2019年時点での子ども食堂の数は3,718箇所、2016年から2019年の3年間で11倍以上増加している。全国の児童館の数(4,598箇所;平成26年度)に迫る数というから、その勢いに驚かされる。

子ども食堂の数

子ども食堂の数 推移(単位:箇所)
出典:NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ プレスリリース
<https://musubie.org/news/993/>より引用

2.民間企業による子ども食堂支援の意味

こういった子ども食堂の躍進は、もちろん、それぞれの子ども食堂の主催者・運営者の方々の努力によるものだが、それに加えて、子ども食堂を理解し、支える地域が増えて行ったことも重要な要素だろう。個人レベルから公的機関レベルまで、子ども食堂への支援の輪は広がり続けている。

一方で、こうした支援は、民間セクターでは個人や公益団体(財団等)によるものが多く、一般的な民間企業による支援には、まだ拡大の余地がある状況だ。平成29年度の農林水産省の調査によれば、地域住民個人と連携している子ども食堂は8割を超えていた一方で、民間企業や商店・スーパー等と連携している子ども食堂は3割と、今後、より充実させられる可能性がある。

「既に公的機関の支援があるのだから、良いのでは?」と思われるかもしれないが、元々が民間発の取組みである子ども食堂に関しては、公的機関の取組み姿勢に地域差が大きく、所管部署が定まっていないという自治体も多い。また、子ども食堂の担い手は一般の地域住民であることが多いため、公的機関の支援制度は複雑で、うまく活用できないという声も聞く。まだ支援の余地は大きく、民間企業による柔軟な取組みは、子ども食堂の大きな助けになるだろう。

3.様々な支援のかたち

民間企業による子ども食堂支援というと、運営費の寄付や、食品メーカーによる自社製品の寄付を思い浮かべる方が多いだろう。もちろん、そうした支援は実際に多く、非常に重要な支援でもある。しかし、支援のかたちはもっと多様であり、寄付以外の方法も多くある。

第1回目である本コラムでは、子ども食堂と共同してイベントを開催し、地域との絆を深め、従業員の新たな世界を広げている企業の取組みをご紹介する。

4.子どものための「お祭り」開催

栃木県宇都宮市にある子ども食堂「昭和子ども食堂」は、毎週月曜日に、子ども・大人を問わず、地域の人たちに温かい食事をふるまう。近所の子どもたちが集まり、運営拠点である「キッズハウス いろどり」では、他にも、学習支援や居場所プログラム、外国にルーツを持つ子どものための日本語教室などの活動が行われており、運営費用はすべて県内外の企業や個人からの寄付やクラウドファンディングで賄われている。

この「昭和子ども食堂」と連携して、子ども達の「経験」を広げようと取り組んでいるのが、同市に所在する、カルビー株式会社 生産カンパニー東日本生産部 清原工場(以下、「カルビー清原工場」とする。)である。

去る8月20日、カルビー清原工場と昭和子ども食堂の共催で「夏祭り」が開催された。「子ども達と一緒に作るお祭り」として、屋台の定番メニューのやきそばや、トルネードポテト、からあげなどを参加した子どもたちと一緒に作り、みんなで一緒に食べるイベントだ。食事が終われば、射的やボーリング、スーパーボールすくい、クイズなどの遊びの時間となり、4歳から中学生までの子どもたちが、カルビー清原工場の従業員とともに楽しんだ。

夏祭りの様子

夏祭りの様子。 子どもたちはスーパーボールすくいに夢中だ。
出典:「キッズハウス いろどり」ウェブサイト
<https://syowa-kodomo.jimdo.com/>より引用

このイベントは、夏には「夏祭り」、冬には「文化祭」として、2018年から年2回のペースで開催されている。共催のカルビー清原工場からは、毎回多くの従業員がスタッフとして参加している。オリジナルの「社会貢献Tシャツ」を身にまとった従業員たちが、子ども達と一緒に料理を作ったり、クイズを出したりして、子ども達を盛り上げる。

参加している従業員は全て、自主的に手を挙げてイベントに取り組んでいるが、その背景には、カルビー清原工場による、従業員の社会貢献を促す仕組みづくりがある。

5.社会貢献活動促進に向けた取組み

カルビー株式会社は、全国の拠点ごとに「社会貢献委員会」と呼ばれる組織を設置し、地域ごとの社会貢献活動の牽引役としている。決裁権限は拠点のトップ(工場であれば工場長)ではなく委員長にあり、運営方法や活動内容は拠点によって異なる。委員の選定基準も各拠点にまかされており、カルビー清原工場では各部署から1人、所属長の推薦で選ばれている。以前は手挙げ式だったが、所属長推薦に変えたことで、社会貢献活動も業務の一環であるとの意識が高まったという。

また、カルビー清原工場では、地域の清掃や祭りの参加、美術館の資料整理など、毎月20件程度のボランティア活動をメニュー化し、従業員が自由に手挙げして参加することができる。社会貢献活動の幅を狭めないよう、地域でニーズのある様々な活動を社会貢献委員会が集約し、従業員の参加を募っている。自分の興味に応じて多様なメニューから活動を選択できるため、ボランティアの経験がない従業員も関心を持ちやすいという。

中でも、「昭和子ども食堂」との連携は、2017年から新たに始めた取組みだという。夏祭りや文化祭は、企画、備品づくり、料理の献立づくり、材料調達、当日の運営と、相応の時間と手間がかかるイベントだ。また、祭り以外にも、毎月1回「キッズハウス いろどり」の居場所プログラムの中で「カルビーの日」を設け、料理教室などの体験活動を行っている。

6.子どもたちと従業員 子ども食堂で広がる世界

なぜ、カルビー清原工場は、ここまで熱心に子ども食堂と連携しているのだろうか。 カルビーの宇都宮拠点で社会貢献委員を務め、カルビー清原工場での社会貢献活動を牽引する橋本さんは、「子どもたち、そして従業員の世界を広げたいと考えている」と話す。

先述の「夏祭り」や「文化祭」は、家庭の事情で地域の祭りに参加する機会がない子どもたちに、「お祭りに行ってやきそばを食べた」「スーパーボールすくいでボールをもらった」といった「よくあるお祭りの思い出」を持ってもらいたい、成長してから周囲の人と共感し合える「子ども時代の思い出」を増やしたいと考え、実現したものだという。居場所プログラムでの活動も、家庭で家事を教わる機会が少ない子どもたちの経験を広げることが目的だ。

橋本さんによれば、こうした活動は子どもたちだけでなく、従業員にとっても世界を広げる大事なチャンスだという。社外で、普段の業務にはない活動(人前で話す、社外の人と協働する等)をすることは、従業員の能力開発につながり、人材育成の観点からも有用だ。また、地域の状況を知り、多様な生活者の困りごとを知ることは、新たなビジネスアイディアの源泉にもなり得る。

短期的に分かりやすい効果が出るものではないが、子どもが苦手な従業員が「文化祭」スタッフに手を挙げ、苦戦しながらも子ども達と交流するなど、挑戦する雰囲気は広がりつつある様子だ。

7.社会貢献から得られるもの

今回紹介した事例では、子ども食堂との関わりを通じて「従業員の成長」を目指す企業の姿が見えてきた。また、その土台には、興味によって社会貢献の仕方を選べるメニュー制など、従業員の主体性を重視した仕組みづくりがあった。

政府の「働き方改革」の一環として「副業の解禁」の促進が注目を浴びる中で、従業員が社外で幅広い経験を積むことが、本業での業績向上や事業機会の拡大につながり得るという認識が広がりつつある。一方で、副業解禁に積極的に乗り出している企業は決して多数派ではない。労務管理や健康管理、業務への影響等から、副業解禁へのハードルを感じている企業も多いだろう。

そうした企業にとっては、今回の事例のように、社会貢献活動を通じた人材育成を目指すことも一つの方法ではないだろうか。ともすれば従業員への押し付け、限られた人たちによる活動になりがちな社会貢献活動であるが、企業の明確な目的意識と、従業員の主体的な取り組みを引き出す仕組みがあれば、企業と地域の絆を強め、広い視野を持つ人材を育てる可能性を秘めている。

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