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日本の食はどう変わるのか?

気候変動対策から注目される食

2020年7月29日 環境エネルギー第1部 小山田 和代

近頃、スーパーの加工肉コーナーに、大豆などの植物由来の「肉」が売っていることをご存じだろうか。植物由来の肉は代替肉と呼ばれ、代替肉市場は、日本のみならず世界で急成長を遂げている。小売店、外食店などでは、食品ロス対策も大きく進んできた。いま、食の持続可能性に関する問題が、日本でも世界でも注目されている。本コラムでは、食の持続可能性に関する社会および政策動向について、主に気候変動の緩和策の観点から示す。

気候変動の緩和策と食

気候変動対策から食に注目が集まる理由は、2019年に気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が土地関係特別報告書を公表したことにある。同報告書では、世界の人為起源の温室効果ガス排出量のうち、21~37%が世界の食料システムに関連し発生していると指摘した。また、排出量の低減方策として、食品ロスや食品廃棄物の削減に加え、生活の選択を変えることが指摘された。たとえば、世界全体が動物性食品を摂らないビーガンとなれば、1年あたり約8Gt-CO2換算の温室効果ガスの削減、肉や魚介は月1回程度とするベジタリアンとなれば、約6Gt-CO2換算の削減ポテンシャルがあると見込まれている。2018年の世界全体の1年あたりの温室効果ガス排出量は55Gt-CO2換算であるから、この削減ポテンシャルはかなり大きなものだといえる。

しかしながら、食品ロス対策はまだしも、気候変動対策から、我々の食生活が変わることに抵抗感を覚える人も多いだろう。

欧米で流行する菜食への転換

欧米では、ベジタリアンやビーガンなどの菜食への転換が大きなトレンドになっている。ポール・マッカートニーが始めた、週に1回は植物由来のみの食事とするMeat Free Mondayなどの社会運動のみならず、代替肉や培養肉市場には企業が次々と参入している。

政策動向としても、2020年5月に欧州委員会からFarm to Fork Strategy戦略が出された。2050年に温室効果ガスの実質排出量ゼロを目指す欧州グリーンディールの鍵となるこの戦略には、食品の持続可能な生産・加工・販売の推奨、持続可能な食料消費や健康的な食生活への転換、食品ロス・廃棄の削減を進めることが掲げられており、2023年には持続可能な食料システムのための法的枠組みを提案すると示された。

このような欧米の社会・政策動向の盛り上がりの背景には、気候変動問題のみならず、肥満に代表される食生活に係る健康と医療の問題、農薬や抗菌剤使用に伴う問題(耐性菌問題等)、動物福祉の向上、そして農業・漁業経営の問題など多数の問題がある。

今後の日本に求められるもの

日本に話を戻すが、日本の地球温暖化対策計画には、すでに食品ロスの削減や農業漁業設備の省エネ化が定められている。また、本来の旬を捉えた生産と消費をすることで、ハウス栽培の燃料消費の削減を狙う旬産旬消なども検討されてきた。しかし、産業革命以前からの気温上昇を1.5℃未満に抑えるためには、日本の食事に伴うライフスタイル・カーボンフットプリント*を2017年比で2030年までに47%、2050年までに75%の削減が必要という研究もあり、たとえばカーボンフットプリントの多い肉類の消費を減らすなど、食生活の変更も必要となってくる。

今後、日本の気候変動の緩和策においても、食に関する対策の再検討が求められるだろう。しかし、食はその国の自然環境と人間とが織りなしてきた社会文化であり、政策検討に当たっては、日本の食に関する文化を踏まえ、日本オリジナルの施策を作っていくことが望まれるだろう。

  • *家計が消費する製品やサービスのライフサイクル(資源の採取、素材の加工、製品の製造、流通、小売、使用、廃棄)において生じる温室効果ガス排出量
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