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電気自動車の走行と大気汚染物質の排出

2020年8月28日 環境エネルギー第2部 秋山 雄

電気自動車といえば、内燃機関を持たない自動車で走行時に大気汚染物質*1(SO2、NO2等)の排出を伴わない、いわゆる環境に優しい乗り物として知られている。ガソリンやディーゼルを燃料とする内燃機関自動車(ICEV*2)と違って排気ガス口(テールパイプ)が存在せず、走行する際の大気汚染物質の排出を伴わないのが電気自動車の特徴である。

電気自動車は電力をエネルギーとして走行するが、この電力は一体どのように生み出されているか。日本の電力の過半は、LNG・石油・石炭の化石燃料を用いる火力発電で賄われている。すなわち、我々が使用する電力には、化石燃料の燃焼による大気汚染物質の排出が伴う。それゆえ、電気自動車の走行時に間接的ではあるがICEV同様、大気汚染物質の排出を伴っているのが現状である。

ICEVと火力発電所では大気汚染物質の排出・拡散のされ方が異なる。ICEVにおいては三元触媒*3で排気ガスが処理され、テールパイプから大気汚染物質が排出される。その高さは地表0.2m程度であるため、我々が普段生活する高さに等しい。一方、火力発電においては排煙脱硫・脱硝装置で排ガスが処理され、高さ100m程度の煙突から排出される。さらにはガスの種類や温度などにもよるが、排ガスの浮力上昇により、実質の排出は高さ200m近くになることもある。このように、発電所から排出される大気汚染物質は、この高さから拡散を経て我々の生活する地表面に届くことになるため、ICEVのテールパイプから排出される大気汚染物質と排出・拡散の仕方が異なっている。

電気自動車は電源次第ではいかような自動車にもなり得る。たとえば、2018年時点の東京電力管内の電力構成は約65%を火力発電(LNG・石油・石炭合算)で占める*4。そのため、電気自動車もICEVのように化石燃料の燃焼を伴う電力をメインに駆動しているということができる。一方で、仮に管内の電力に頼らず自宅の太陽光パネルで生成した電力のみを使った場合、細かい議論はさておき太陽光で走行する自動車ともいうことができ、この時の大気汚染物質の排出は0といえる。今後、電源構成が大幅に再生可能エネルギーにシフトしたり、火力発電所の排煙脱硫・脱硝装置の性能が向上したりすることで大気汚染物質の排出が少なくなり、気が付いたら自身の電気自動車の排気性能が向上しているということもあり得る。

このように電気自動車は、今後の電源構成の変化やユーザーの電源の選択次第で大気汚染物質の排出削減が可能となる。大気汚染物質排出削減ポテンシャルがある電気自動車の利用拡大に向けて、今後の電源構成やユーザーの電源に係る選択の変化に期待したい。

  1. *1大気汚染に係る環境基準(環境省)
  2. *2Internal combustion engine vehicle
  3. *3排出ガスに含まれる炭化水素、一酸化炭素、窒素酸化物を酸化・還元によって浄化する装置
  4. *4電力供給設備 電源構成比(東京電力)
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