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心理的安全性を考える(2)

発言への不安を取り除き、心理的安全性を高めるには

2022年2月22日 コンサルティング第1部 市川 茉耶

心理的安全性とは、「率直に発言することや、懸念・疑問・アイデアを話すことへの不安や恐れを感じない状態」のことである。

前回は、この心理的安全性がなぜ今重要視されているのかを整理し、まずは組織のミッションに即して心理的安全性を高める目的を確認し、メンバー内に共通認識を醸成することを勧めた。

今回は、実際に心理的安全性を高めるにはどのような壁が立ちはだかっているのか、どのように取り組めばよいのかを紹介する。

心理的安全性に作用する「不安」や「恐れ」

心理的安全性の定義から考えると、心理的安全性が低い状態の人は、何かを発言することに不安や恐れを感じていることになる。この不安や恐れは何に対して、どのように生じるのか、以下ではそのプロセスを明らかにしていく。

「心理的安全性」の第一人者であるエイミー・C・エドモンドソンは、職場環境における対人リスクとして、以下の4つを挙げている*


  • 無知だと思われる不安
  • 無能だと思われる不安
  • ネガティブだと思われる不安
  • 邪魔をする人だと思われる不安

エドモンドソンの提示した対人リスクは、いわば相手の中の自己へのイメージの棄損であり、これ自体が発言することに不安を感じる要因となる。ただし、これに加えて、発言した後の予想される相手の反応や一連の行動・出来事も、発言しづらい要因となる。

以下に、心理的安全性を高めたい目的と求める発言内容として、代表的な例を挙げる。

例① フラットな風土の実現
既存事業の改善や新規事業の創発のためのアイデアについて上司に意見を出す

部下は仕事をよく知る上司への提案に難しさを感じるかもしれない。上司から見たら物足りない提案かもしれないという不安(無知だと思われる不安・無能だと思われる不安)に加えて、「やはり意見を求めても無駄だ」と思われ、その後さらに発言しづらくなることを心配するかもしれない。

例② リスク管理の強化
リスクを指摘する、実際に問題やミスが生じた場合は隠さず正直に報告する

未然であればリスクを指摘しやすいかもしれないが、心配性と受け止められ(ネガティブだと思われる不安)、ネガティブな人だと噂されるかもしれない。事後になると、ミスを起こした無能とみなされ(無能だと思われる不安)、咎められたりすることを恐れるだろう。

例③ 相談しやすい環境整備
離職防止・メンタルケア等の観点から、仕事上の悩みや働き方の価値観などを率直に話せるようにする

個人的な価値観も含まれる内容であり、業務上の伝達とは性質が違う。仕事に直接は関係しない悩みで相談の時間を取らせて迷惑がられるかもしれないし(邪魔だと思われる不安)、そのことで上司が不機嫌になることは避けたいだろう。

このように、対人リスクや相手の反応、その後に起こりかねない出来事は、発言者の「不安」や「恐れ」として、発言・行動をするか否かの判断材料となっている。以上のような不安や恐れを抱え、発言できない状態は、「心理的安全性が低い」ということになる。

「不安」や「恐れ」はどのようにして生じるのか

前項で見てきた発言への不安は、発言した後の展開を予想することで生じている。自身の過去の体験や考え、相手の性格・人柄や過去の言動から、発言した後に起こりそうなシナリオを思い描いているのである。そして、発言するか否かの実際の判断は、このシナリオを許容できるか否かによって行われている。シナリオが自身にとって許容しづらいものだと「不安」だと思うし、そうなることに「恐れ」を感じる。

つまり、発言への不安や恐れとは、発言がどう思われるか、相手はどのように行動し、どのような結果に至るのか、それらを自分が許容できるかというところから生じるのである。

この「不安」や「恐れ」を払拭するには、「この人になら/この職場でなら話しても大丈夫だろう」というシナリオが描かれるように、想像の基となるポジティブな言動や働きかけを積み重ねていくことが重要となる。


発言への不安を感じる時の思考例
図1

出所:みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

心理的安全性を高めるための取り組みのポイント

組織のミッションの実現を目的として心理的安全性を高めるには、一対一の関係の改善から始め、最終的には組織全体に伝播させる必要がある。以下では、心理的安全性を高めるためのポイントを挙げる。

自身の言動を振り返る

前項では、発言した後のシナリオを予想する材料として、発言者自身の体験に加え、伝える相手の性格・人柄、相手の過去の言動があることを述べた。

この中で最も塗り替えやすいのは言動である。さらに、伝える相手の性格・人柄とは、あくまで相手の言動を解釈した発言者からのイメージに過ぎない。よって、発言を求める側がこれまでの自身の発言・行動・態度等を振り返ることが、改善の第一歩となる。

なお、発言者が想起する発言・行動・態度は、必ずしも仕事に関するものだけではなく、さらには、必ずしもその発言者に対しての言動だけでもない。伝える相手がいつも怖い顔をしていたり、特定のメンバーに冷たく接していたりする場合、発言者はそれらの事象も考慮している。

振り返りの中で出てきた反省は、素直にほかのメンバーに伝えることも必要である。

発言者が抱える「無知だと思われる不安」「無能だと思われる不安」という対人リスクを緩和するには、聞く側が先にこの対人リスクを許容し、自身も失敗したり間違えたりする場合があると示すことが効果的である。これは発言後のシナリオの予想に関係するだけでなく、発言者自身もこの対人リスクを許容できるようになる可能性につながる点で有効と考えられる。

成功体験を作る・成功を予想するよう仕向ける

部下や後輩からの発言を求めている場合には、小さなことでも提案してもらい実行する、簡単なことでも何か尋ねて答えてもらうなど、発言したら良い展開を招いたという実績を作っていくことも有効である。このような発言者の成功体験を増やすことで、「発言してもよいのだ」という認識を持たせることができる。さらに、聞き取った内容を好事例紹介などの形で組織全体へと展開することで、チーム全体の活性化にもつながる。

また、部下・後輩に限らず、話しづらいかもしれないと思う事柄では「○○の理由で話しづらいかもしれないが、可能であれば聞かせてほしい」といった聞き方で発言者の懸念への理解を示すことも有効である。懸念が理解されていることで、発言者は発言後のシナリオをよりポジティブに予想できるようになり、発言しやすくなるのである。

目的に関わるすべてのメンバーが、心理的安全性の重要性を認識する

前項までで一対一の関係の改善を検討してきたが、組織のミッションの実現に心理的安全性が必要であることは、組織のメンバー全員に浸透している必要がある。組織的な取り組みとして活発な発言を求める場合、ほかのチームメンバーの視線に対する心理的安全性も影響するためである。

集団での会議では多くの人間を相手にするため、発言後のシナリオの予想がよりネガティブになりやすい。会議体の活性化を目指す場合は、最終的には組織の全員に対して心理的安全性が確保されている状態になることで、初めて誰もが忌憚なく発言できる環境になるのである。

この状態に至るには、チームのメンバー全員が当事者として心理的安全性の重要性を認識し、言動の振り返り等に取り組むことが必要になる。また、マネージャーとして推進する場合は、言動の振り返りを共有する機会を設ける、組織全体の行動指針やルールを作る、といったアクションも有効である。

以上で見てきた通り、心理的安全性を高める取り組みとは、必ずしも直接的に発言を促すような行動というわけではない。心の不安が対象となる以上、表面的な施策だけでは解決できず、より根本的な意識へのアプローチが求められる。ただし、全てを完璧にこなさないといけないわけではない。あくまで基本に忠実に、互いに傾聴し、互いを尊重すること、そしてとりわけ、そうした意思を伝えることが重要である。

  • * Amy C. Edmondson(2012), Teaming: How Organizations Learn, Innovate, and Compete in the Knowledge Economy, (野津智子訳『チームが機能するとはどういうことか』2014年)

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【連載】心理的安全性を考える

2022年1月25日
失敗事例に学ぶ現場での活用方法
心理的安全性を考える(1)
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