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作業マネジメント・スキルを高めることの重要性

生成AIに働いてもらうための仕組みづくり

2023年10月11日 デジタルコンサルティング部 武井 康浩

自然言語処理の進化とその影響

2022年11月、OpenAIからリリースされたChatGPTは、人間と自然な対話ができる生成AIアプリケーションとして、自然言語処理の可能性を広く知らしめることになった。

たとえば、このアプリケーションに文章を入力し、要約を命じれば、人間がゼロから作った文に匹敵するほどの見事な要約文を瞬時に作成できる。また、文章の校正という時間と労力のかかる作業も効率化することが可能である。文章表現の不明瞭さなどを瞬時に修正し、洗練された文章に仕立て直してくれる。さらに、プログラムのソースコード作成も容易になり、プログラマーやエンジニアでなくても、自然言語で作成したいプログラムについて指示するだけで可能となる。

これらはChatGPTに代表される、最新の自然言語処理技術の威力の一例にすぎないが、我々の作業や仕事のあり方に大きな革新が訪れることを十分に予感させるものである。そのため、これを商機と見た多くのITベンダーやスタートアップ企業は、生成AIを用いたサービスの開発に向けてすでに動き出している。

以下では、これら生成AIサービスの開発の方向性と、利用者にとっての今後の仕事のあり方について考察する。

ソフトウェアに組み込まれる自然言語処理

自然言語処理が組み込まれたソフトウェアの中で、最も影響力を持つと予想されるのは、マイクロソフトの文書作成ソフトや表計算ソフトなどのOffice製品であろう。多くの人々が日々使用して仕事をしているこれら製品の中で、生成AIの自然言語処理機能(文章の自動作成・校正・カスタマイズや、表・グラフの自動作成などの機能)が利用可能になりつつある。

たとえば、文書作成ソフトを使用して報告書や論文などのドキュメントを作成する際に、生成AIの文章校正機能を利用できれば、文法や表現をより適切なものに簡単に改めることができる。指定したトピックに基づいて自動的に文章を生成することで、業務効率化につながるケースもあるだろう。また、顧客や社内の関係者へのメール作成の際、メールソフトの中で生成AIの文章カスタマイズ機能を利用すれば、宛先に応じて、それまでのメール履歴に応じた適切な表現に自動で調整することも可能となる。さらに、表計算ソフトで大量のデータを扱う際には、表・グラフの自動作成機能を利用して、データを人間が理解しやすい形式に自動で表示することもできるだろう。

このように、現在主流のソフトウェアに生成AIの機能を取り込んでいくことで、ソフトウェアの価値を向上させることができる。実際に、マイクロソフトのOffice製品のほか、セールスフォースのCRMツール、タブローソフトウェアのデータ分析ツールなど、既存のソフトウェアに生成AIを組み込むことで、さらなる付加価値向上を目指す流れが加速している。

ソフトウェアを操作する自然言語処理

前節の流れとは別に、生成AIの自然言語処理を主軸にして、既存のソフトウェアを自然言語によって高度に操作する機能も開発が進んでいる。つまり、人間はChatGPTなどの自然言語処理を扱うアプリケーションに命令(自然言語)を入力するだけで、さまざまな既存のソフトウェアと連携し、必要な業務を自動で遂行することも可能になる*1。その結果、従来のチャットアプリと比較して、遥かに簡便に高度な作業の自動化が行えるようになる。

たとえば、データ分析を行う際に、ChatGPTなどを介して、分析ツール(たとえば、Noteable*2など)を操作することで、特定のデータセットの分析が実施できる。ChatGPTに「昨年の売上の月別トレンドを表示」などの命令を出すことで、ソフトウェアにデータ分析を自動で実施させることができるのである。また、メールを送信する際にも、ChatGPTなどを介して、メールソフト(たとえば、GmailやOutlookなど)を操作することで、特定のメッセージを作成し、特定の連絡先にメールを送るように指示することもできる。さらに、この2つを組み合わせると、ChatGPTを介して指示するだけで、データ分析を行い、分析結果をメールで顧客に送付するという一連の作業を自動化することも可能となる。

上記のほかにも、さまざまな既存のソフトウェアを操作することができれば、ユーザーはChatGPTを単一のインターフェースとして、多様な仕事・業務を実行して、必要な成果物を得ることができる。

最適なソフトウェアを選び・連携させる仕組みづくりの力

このように、生成AIによる自然言語処理は、上述した2つの方向性で活用が進むものと想定される。特に、単一のソフトウェアでは実現できなかった作業、つまり人間が手分けをして複数のソフトウェアを手動で連携させて成果物を作り上げていた作業などは、ChatGPTのような生成AIの自然言語処理アプリケーションをインターフェースとして活用することで、より簡便かつ柔軟に、その作業を自動化することができると期待される。

それに伴い、個々のソフトウェアを操作するスキルよりも、どのソフトウェアをどのように組み合わせ、どのように作業を進めるべきか、という作業マネジメントの視点とそのスキルが一層重要になると考えられる。誰かほかの人が作り上げた作業手順に従って操作するだけではなく、また、作業手順の一部の操作のみを担当するのではなく、次々と生まれる新しい仕事に対して、自分自身で最適なソフトウェアを都度選び・連携させて、最終的な成果物を作り上げる力が求められるのである。

自然言語処理という新たな技術がもたらす変革を前に、作業マネジメントができる力を身に付けられるかどうかで、個人および組織の生産性に大きな差が生まれると想定される。逆にいえば、生成AIの動向を踏まえつつ、これらのスキルをしっかり身に付けられれば、より効率的で洗練された仕事の進め方が実現できる将来が待っている。各組織(およびそこで働く個人)は、今すぐにでも、生成AIに関する研究者や組織などとの連携を通じて知見・経験を蓄え、生成AIの活用を前提とした作業マネジメントができる力を身に付けるべく、第一歩を踏み出していくべきであろう。

  1. *1実際の処理は、ChatGPTなどの自然言語処理によって、人間による命令(自然言語)をソフトウェアが理解できる形式(コードなど)に変換してほかのソフトウェアに作業を実行させ、その出力結果を人間がわかりやすいように表現する。
  2. *2Noteableは、データ分析ツールであり、読み込んだデータの可視化、フィルタリングなどが行えるもの。ChatGPTのプラグインとして提供されている。

武井 康浩(たけい やすひろ)
みずほリサーチ&テクノロジーズ デジタルコンサルティング部 主席コンサルタント

情報通信・科学技術に関する調査研究・事業化に携わり、多様な企業の先端技術活用を通じた新価値創出の取り組みを支援。量子コンピュータ、人工知能の利活用に向けた動向調査等の経験・実績を有する。移動・交通分野では、ITS(高度道路交通システム)、自動運転等に係る技術・市場・政策動向等の調査研究および実証事業等に携わる。製造分野では、デジタル活用を通じた現場改善・生産性向上、新価値創出を支援。

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