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社会動向レポート

社会生活基本調査にみる30年の余暇活動の変化

国民の余暇生活はどう変化したか(3/4)

社会政策コンサルティング部 主席コンサルタント 仁科 幸一

3.この30年の変化をどうみるか

この30年の変化を要約すれば、第1に高齢者の余暇活動はアクティブ化する一方で、若年層は沈滞化しており、第2に男女差は総じて縮小傾向にある。

余暇活動は、基本的には個人の選択によるものであり、その変化を一つの要因に還元することはできない。また、行動者率や要因行動者数の変化を、人口変動以外の要因がどのように作用した結果なのかを実証することは容易ではない。こういった限界があるということをふまえ、どういった仮説が成り立ちうるかということを最後に考察したい。

(1)若年層の変化をどうみるか

[1] 若年男性の「学習」行動者率上昇の背景

若年層の変化について、もう少し細かく検討してみたい。

第1に注目されるのが、10歳代後半から20歳代前半の男性だけ、「学習」の行動者率が顕著にのびている点である。図表9に示したように、全般に行動者率が下落している中、「学習」だけが女性を上回るのびをみせている。

この世代の男性の「学習」の細目の変化をみてみると、「外国語」と「商業実務・ビジネス関係」が大幅にのびている。また興味深いのは、1986年にはほぼ0%と低かった「家政・家事」の行動者率が、10%前後にのびていることである。(図表11)

「外国語」や「商業実務・ビジネス関係」ののびについては、昨今の就職に対する学生と企業の意識の変化が影響していると考えられる。かつての大学生、特に文科系の学生は、大学に入学した後にさらに勉強をするという意識は薄かった。少なくとも文科系出身の筆者やその周辺はそうだった。一方、採用する企業も実務は入社してから鍛えればいいという考え方が支配的だったように思う。ところが今日では、企業は即戦力を期待し、学生はTOEICやTOEFLの点数、簿記や情報処理資格といったビジネスに関連する資格を就職活動の武器にしようと考える。こうした変化が行動者率に反映されているのではないだろうか。

もう一つの変化である、「家政・家事」の行動者率ののびには、学生の就職活動をにらんだ資格志向も含まれているかもしれないが、「家事は女性が行うもの」といった意識は、現在の若年層では薄れているようだ。こうした変化の是非は読者の判断にゆだねたい。


図表11 若年男性の「学習」(細目)行動者率・行動者数の変化
図表11

  1. (資料)総務省統計局「社会生活基本調査」より作成
  2. (注)両年度で比較可能な項目のみ掲載した。

[2] 若年者の「スポーツ」行動者率下落の背景

第2に注目されるのが、若年層の「スポーツ」行動者率の顕著な下落である。図表9で示したように、特に女性の下落が顕著であり、男性の下落幅も大きい。そこで、「スポーツ」の種目の行動者率の変化を男女別にみてみよう。

15~39歳の女性の場合、行動者率の下落幅が26ポイントと最も大きいのが「水泳」、次いで「テニス」、「ボウリング」、「バレーボール」が、ほぼ同水準の下落幅を示している。一方、「器具を使ったトレーニング」が8ポイントののびをみせている(図表12)。

15~39歳の男性の場合、女性と同じく「水泳」の下落幅が34ポイントと最も大きい。若年層の男女を合計すれば、水泳の行動者数はこの30年間で1,354万人減少したことになる。次いで、「ソフトボール」、「野球」、「ボウリング」が20ポイント以上の下落幅、「ゴルフ」、「テニス」、「つり」、「バレーボール」、「スキー・スノーボード」がほぼ同程度の下落幅を示している。一方、「サッカー」、「器具を使ったトレーニング」が7ポイントののびを示している。「器具を使ったトレーニング」は、男女ともに同程度ののびとなっている(図表13)。

男女を通じて、余暇活動のスポーツ離れ傾向がうかがえる結果であるが、種目ごとの行動者率の変動からだけでは、要因はもとより、若年層で何ゆえにこうした変化が生じているのかさえ解釈しにくいというのが筆者の正直な印象である。

そういう中で、以下の点を指摘しておきたい。

第1に、若年層、とりわけ10歳代後半のスポーツ離れは、今後のスポーツ産業に危機的な影響を及ぼすおそれがあることである。一般論として、全く経験のないスポーツを中年期以降に始める可能性は低い。また、球技はルールが複雑であるため、経験の有無が関心の強弱に影響する面があり、将来の観戦人口の減少に結び付く懸念がある。

第2に、スポーツを行う目的意識の変化である。男女を通じて行動者率が最ものびたのは「器具を使ったトレーニング」である。「器具を使ったとレーニング」には、ダンベルなど簡単な器具を使って自宅できるものから、ジムで行うマシントレーニングまでを含んでいる。おそらく、この30年間で民間スポーツクラブが急速に普及したことを勘案すれば、後者の行動者率ののびが著しいとみられる。「器具を使ったトレーニング」を競技として行う者はごく少数であり、体力維持や健康維持を目的としているものと想像される。スポーツを行う目的意識の変化、すなわち競技から体力・健康維持へという意識の変化があるように思われる。

一方で、男女ともに最も下落幅が大きかったのが「水泳」である。民間スポーツクラブの普及はインフラ面では「水泳」の行動者率を引き上げる方向に作用しているはずである(9)。そうなると、下落の要因は何か。残念ながら、筆者は確たる見解をもつには至らなかったが、気になることがある。

多くの国民にとってのスポーツとの出会いは、学校の体育の授業やスポーツ系クラブ活動だ。教員はすべての生徒を公平かつ平等に接しなければならないことはいうまでもないが、数学の教員が数学に興味をもって学ぶ生徒を、社会科の教員が歴史に関心をもって学ぶ生徒をのばしてやろうと思うのは自然なことであって、スポーツ(体育)も例外ではない。また、スポーツ(体育)であれ、国語であれ、少数のできる児童・生徒は周囲から一目おかれる。これらのことは、おそらく30年前も現在もあまり変わらないだろう。しかし、30年前の若年層は、それほど得意ではない者や苦手な者も余暇活動としてスポーツを選んだのに対し、現在の若年層は選ばなくなった。これが行動者率下落の背景ではないだろうか。

スポーツの将来を考えれば、若年層のスポーツ離れに対して何らかの対応が必要なことはいうまでもない。その際、年長者がとかく陥りがちなのが、「今の若い者は…」という負の世代論である。自戒の念をこめていえば、スポーツに限らず、自分の中の若者像を基準にして現在を生きる若年層を論じていては、建設的な発想は生まれないだろう。


図表12 若年女性の「スポーツ」(種目)行動者率・行動者数の変化
図表12

  1. (資料)総務省統計局「社会生活基本調査」より作成
  2. (注)1986年と2016年で比較可能な種目のうち、15~39歳の行動者率の下落幅が10ポイント以上の種目と5ポイント以上のびた種目を掲載。

図表13 若年男性の「スポーツ」(種目)行動者率・行動者数の変化変化
図表13

  1. (資料)総務省統計局「社会生活基本調査」より作成
  2. (注1)1986年と2016年で比較可能な種目のうち、15~39歳の行動者率の下落幅が10ポイント以上の種目と5ポイント以上のびた種目を掲載
  3. (注2)「野球」にはキャッチボールを、「ゴルフ」には練習場での練習を、「サッカー」にはフットサルを含む。なお、「ス キー・スノーボード」は、1986年調査では「スキー」であった。
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