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社会動向レポート

社会生活基本調査にみる30年の余暇活動の変化

国民の余暇生活はどう変化したか(4/4)

社会政策コンサルティング部 主席コンサルタント 仁科 幸一

3.この30年の変化をどうみるか(続き)

(2)高齢者の変化をどう考えるか

第1に考えられるのが、高齢者の経済状況の変化である。

1986年当時の高齢者は2016年の高齢者と比較して自営業者が多く、その年金は国民年金に限られる。また、救済措置としてもうけられた老齢福祉年金受給者も少なからず存在していた(10)。その後、年金保険料納付期間の延伸と現役時の被雇用者化による厚生年金加入者の増加により、高齢者の年金受給水準が向上し、経済的に余裕のある高齢者が増加した。もちろん、現在の年金受給水準が十分なものか否かについては論争的であるが、かつての高齢者とは経済事情が大きく異なることは否定できない。

このことに関連して、独居または高齢者のみの世帯も増加した。国勢調査によれば、1985年には高齢者のいる世帯に占める単独世帯の割合は8%、夫婦のみ世帯の占める割合は22%であった。これが2015年には、単独世帯が19%、夫婦のみ世帯が37%に増加している。もちろん、単独・高齢者のみ世帯で生活するに至った事情は様々であるが、年金受給水準の向上によって、経済的な事情で子との同居を余儀なくされる確率は低下したと考えてもいいだろう。

第2に考えられるのが、自営業者の減少である。

国勢調査によれば、就業している高齢者に占める被雇用者の割合は、1985年では24%だったのに対して、2015年には47%に拡大している。自営業者の減少、現役時の就業者の被雇用者化の結果である。自営業者であれば、高齢期を迎えても健康と気力がある限りは細々とでも仕事を継続できる場合が多い。一方、現役時代をサラリーマンとして過ごした者は定年を迎えて仕事を辞める場合も多い。そうなれば、年金受給水準の向上も相まって、就労することなく余暇活動を行う者の率が増加すると考えられる。

第3に考えられるのが、高齢者の心身状況の若返りである。

日本老年学会と日本老年医学会が共同で検討した報告書(11)によれば、「近年の高齢者の死亡率・受療率、身体的老化、歯の老化、心理的老化など、心身の老化現象の出現に関する種々のデータの経年的変化を検討した。その結果、現在の高齢者においては10~20年前と比較して加齢に伴う身体・心理機能の変化の出現が5~10年遅延しており『若返り』現象がみられている。」と結論付けている。これをふまえ、「75歳以上を高齢者の新たな定義とすることを提案する。」としている(12)。同じ65歳であっても、1985年と2016年では、身体・心理的には異なっているということが示唆されている。

高齢者の場合、これから住宅ローンを組んで住宅を購入する、最先端の消費財に飛びつく、最先端のファッションを追いかけるという者は少ない。また、人生の終局であるゆえに所得や資産の格差があらゆる世代の中でもっとも大きく、すべての者が消費性向の高い消費者でないことはいうまでもない。しかし、国内消費市場に占める高齢者人口の割合は着実に増加する。また、これまでみてきたように高齢者自体が変化しており、これからも変化し続けていくだろう。こういった高齢者の変化に社会は、企業は、行政は、的確に対応できているのだろうか。もしも現役世代が、経験的に感得した高齢者像にとらわれて、今を生きる高齢者が求めるものを見逃しているならば、高齢者にとっても、現役世代にとっても、不幸なことである。

  1. (1)1991(平成2)年調査までは15歳以上。このため本稿では、15歳以上のデータを分析対象とする。
  2. (2)2015年国民生活時間調査(NHK放送文化研究所)は、有効回収数7,882人(回収率62.2%)。
  3. (3)自由時間に行われた活動と定義しているため、学校や学習塾・予備校での学習、業務として行われた研修、学校の授業として行われるスポーツ、業務のための出張は含まれない。一方、学校の課外クラブ活動や職場の業務外のサークル活動等は含まれる。
  4. (4)行動者率に人口を乗じて推計。
  5. (5)1986年調査では19種類。
  6. (6) 先進5か国(G5)蔵相・中央銀行総裁会議による協調的なドル安政策を図る合意。当時、インフレ抑制をめざした米国の高金利政策で投機的資金が米国に流入したためドル高基調となった。この結果、米国の輸出産業が不振におちいった。これを放置すればドルの信用が不安定化し、国際金融秩序が崩壊しかねないという懸念がひろがり、主要国が協調的なドル安政策をとることになった。
  7. (7)プラザ合意前は1ドル230円台だった為替レートが、1年後には150円台にまで円高が進んだ。
  8. (8)電電公社の民営化によって上場されたNTT株が短期間のうちに売り出し価格の3倍の株価をつけ、東京都心の商業地価が高騰し始めたのがこの年である。
  9. (9)水泳プールは設備投資額が大きいうえに、屋外プールは稼働期間が夏季に限定され、屋内プールは光熱費の運営コストが大きい。このため民間スポーツクラブでは採算面から、プールを整備しない傾向が近年強くなっている。また、公立小中学校でも、ランニングコスト負担からプールを設置せず、拠点校への集約や民間スポーツ施設を利用する動きもみられる。
  10. (10)国民年金制度の創設によってわが国が国民皆年金制度を確立したのは1961年4月。その時点で50歳以上(1911(明治44)年4月1日以前出生者/1986年時点で75歳以上)の者は国民年金加入資格がなかったため、救済措置として、給付開始を70歳とする国庫負担による老齢福祉年金制度が創設された。2018年3月時点の平均給付額は月額3万3千円、受給権者は663人。
  11. (11)日本老年学会・日本老年医学会「高齢者に関する定義検討ワーキンググループ報告書」(2017年3月)
  12. (12)これに対して、テレビのワイドショーのコメンテーターの中には、「年金の受給開始年齢引き上げによる社会保障費の削減をねらったもの」といったうがった発言もみられた。筆者がみる限り、報告書の検証は実証的なものであり、こういったコメントは報告書の内容を吟味した上での見解なのか、疑問なしとはしない。
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