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資源高騰に揺れる建設分野におけるサーキュラーエコノミー

建設廃棄物の資源循環の必要性

2023年2月
みずほリサーチ&テクノロジーズ サステナビリティコンサルティング第2部 水上 碧

はじめに

2022年を振り返ってみると、ロシアのウクライナへの侵攻、新型コロナウイルスのオミクロン株の流行、急激な円安による約32年ぶりの円安水準更新など、私たちの生活にも大きく関わる問題が続いた年であった。これらの国内外の情勢を受け、建設資材の高騰による問題がニュースとなることも多く、2022年末には2025年に開催される大阪・関西万博の建設工事も資材高騰等により入札不成立が複数出ていることが報じられた。

国際情勢に加え、近年のカーボンニュートラルの機運の高まりもあり、資源の確保・資源自律の必要性は建設分野に関わらず注目されている*1ところであるが、特に資源消費量の多い建設分野*2では影響が大きいといえる。

そして、資源の確保・資源自律を考える際に欠かすことができない動向が、「サーキュラーエコノミーへの移行」である。サーキュラーエコノミーとは、従来の大量生産・大量消費・大量廃棄型の経済・社会様式につながる線形経済ではなく、資源・製品の価値を最大化し、資源投入量・消費量を抑制し、廃棄物発生量を最小化することにつながる経済を指し、EUが2015年にサーキュラーエコノミーへの移行を掲げて以降、世界的に注目され、対応が求められてきている。サーキュラーエコノミーへの移行により資源が循環し、必要となる資源が減少するため、資源高騰による問題への対応としても重要となる動きである。

建設分野のサーキュラーエコノミーへの移行の重要性

国内では、2021年10月に地球温暖化対策計画で示された環境・経済・社会の統合的向上の考え方の中で、3R(廃棄物等の発生抑制・循環資源の再使用・再生利用)+Renewable(バイオマス化・再生材利用等)をはじめとするサーキュラーエコノミーへの移行が位置づけられたこと等を踏まえ、環境省は2022年9月に「第四次循環型社会形成推進基本計画の進捗状況の第2回点検結果(循環経済工程表)2050年の循環型社会に向けて」(以下、「循環経済工程表」とする。)を公表した。循環経済工程表では、2050年を見据えて目指すべき循環経済の方向性として、現行の循環型社会形成推進基本計画で取り上げているプラスチック、土石・建設材料などの5分野*3を環境への負荷や廃棄物の発生量や脱炭素への貢献といった観点から引き続き重点分野として取り扱うこととしている。なお、「土石・建設材料」が何を指すのかについて明確には定められてはいないが、「建設分野」で多く発生・利用されている、建設発生土やコンクリート塊、アスファルト・コンクリート塊、セメント、鉄などが該当すると考えられる。

建設分野のサーキュラーエコノミーの取り組み

では、建設分野ではどのようなサーキュラーエコノミーの取り組みが行われているだろうか。最も特徴的なのはリサイクルである。建設分野は資源消費量も廃棄物も多く、建設廃棄物は全産業廃棄物の排出量の約2割を占めているが、リサイクル率は非常に高い。2000年の建設リサイクル法制定を受けて大きく進展してきたことにより、1990年代の約60%から2018年度は約97%*4となっている。

また、リサイクル以外にも、既存建物や建材のリユース、BIM/CIM*5活用による資源投入量・廃棄物排出量削減、廃棄物等を利用したコンクリートの利用、CLT*6などの木材・バイオマス材の利用、接着剤をできるだけ使用しないなどの易解体性設計、長寿命化など、さまざまな取り組みが行われている。しかし、高水準にあるリサイクルと比べると、リサイクルよりも優先順位が高いリデュース・リユースにつながる取り組み、そしてサーキュラーエコノミーで重要となる長寿命化や易解体性設計等は進んでいない。その理由としては、建設分野は大量生産・販売ではなく、1件ごとの受注生産である点が大きいだろう。発注者にとってコストメリットがないこと等の理由により、設計者・施行者がリユースやリニューアブル等の取り組みを行うことは難しいこともある。また、建築物は長期間使用するため耐久性が求められるが、たとえばリユース材の品質・環境安全性の担保は誰がどのように行うのかという問題もある。そして、サプライチェーンが長く複数の専門業者がかかわることも、取り組みをより難しくしていると考えられる。しかし、現在、カーボンニュートラルの機運の高まりもあり、建設分野の民間企業各社や大学の研究者等が各種取り組みの検討・実施を進めているため、今後の取り組み進展が期待される。

それでは、リサイクルについては、問題がないのだろうか。建設廃棄物のリサイクル率は前述の通り97%となっており、建設廃棄物の中でも排出量が多いコンクリート塊、アスファルト・コンクリート塊のリサイクル率は99%を超えている*7。この現状を踏まえ、2020年9月に策定された「建設リサイクル推進計画2020」では「量から質への転換」が明確に示されている。サーキュラーエコノミーへの移行を考えると、リサイクルされた資源の「質」を高めていくことが重要であるということは明らかである。しかし、筆者は「量」の観点でも、以下の2点の懸念点が残っていると考える。

1点目は、将来のリサイクル材の需給バランスが崩れる可能性があることである。建設廃棄物の中でも排出量が多いコンクリート塊やアスファルト・コンクリート塊が現在何にリサイクルされているのかというと、そのほとんどは、再生骨材として路盤材などの土木資材となっている*8。将来的に道路があまり作られなくなることが予想される中で、リサイクル材の利用用途が偏っていることにより需給バランスが崩れ、リサイクル自体ができなくなる可能性がある。なお、この点については、後日公表予定の「将来の建設廃棄物の資源循環の姿 ―がれき類のリサイクルに関する取り組み強化の必要性―」を参照されたい。

2点目は、環境基準との不適合、具体的には土壌汚染対策法における六価クロムの基準の強化等によって、利用困難となるリサイクル材が生じる可能性があることである。六価クロムについては、2018年9月に内閣府食品安全委員会で一日耐容摂取量が設定されたことを受け、2020年4月に水道水質、2022年4月には公共用水域および地下水の水質汚濁に係る環境基準値が、いずれも0.05mg/Lから0.02mg/Lへ強化された*9。この水質汚濁に係る環境基準値の強化が土壌の基準値に影響を与えるかもしれない。環境省の「土壌の汚染に係る環境基準の設定方向」では、「土壌環境基準はこれら水質に係る諸基準を満たす条件を有するものとして設定されることが必要であると考えられる」*10としており、実際にカドミウムやトリクロロエチレンなどは、水質環境基準の強化後に土壌汚染対策法でも同一基準値に強化されてきた。したがって、土壌汚染対策法における六価クロムの基準値は、現在の0.05mg/Lから将来的には0.02mg/Lまで強化される可能性は十分にあると言える。そして、その場合は、現在の技術でリサイクルされた再生骨材等は新基準を満たすことができず利用困難となり、その結果、これまで着実に進展し「量」ではなく「質」の時代にきた建設リサイクルが、改めて「量」の観点でも大きな壁にぶつかる可能性があると考える。

今後に向けて

建設分野におけるサーキュラーエコノミーの取り組みは、資源消費量・廃棄物発生量が多いことからも、重要となる。しかし、建設分野はさまざまな専門業者が関わるサプライチェーンの長い業界でもあり、いずれの取り組みも個社だけでは対応が難しい課題もある。資源高騰により社会の関心がこれまで以上に強まっている今、動静脈連携も含めた企業間連携および官民連携によって取り組みを進めていくことが望まれる。

また、課題が少ないと考えられてきたリサイクルの量についても将来的な懸念点がある。一方で、「量」と「質」の問題は表裏一体であり、「質」を高めていくことにより、上記の「量」の観点での懸念点も解決することが可能である。したがって、「量」の観点でも懸念すべき事項があることを踏まえつつ、「質」を高めていくことが重要となり、質と量とのバランスを考えた総合的な政策および技術開発が必要となる。この点については、中央環境審議会水環境・土壌農薬部会でも「リサイクルでは、資源循環と土壌・地下水の環境保全も視野に入れて検討すべきではないか」*11との意見もあり、今後の分野横断的な検討が期待される。

  1. *1たとえば、経済産業省は2022年10月より「成長志向型の資源自律経済デザイン研究会」を開催し、成長志向型の資源自律経済 の確立に向けた総合的な政策パッケージの検討を進めている。
  2. *2たとえば、"Construction and built environment in circular economy: A comprehensive literature review"では、建設分野は世界的に総骨材の65%と金属材料の20%を消費していること、原材料の60%の消費に関与していること、が記載されている。
  3. *3 ①プラスチック、②バイオマス、③ベースメタルやレアメタル等の金属、④土石・建設材料、⑤温暖化対策等により新たに普及した製品や素材
  4. *4国土交通省「建設リサイクル推進計画2020 ―「質」を重視するリサイクル―」(2020年9月)
  5. *5BIM/CIMとは、Building/ Construction Information Modeling, Managementのこと
  6. *6CLTとは、Cross Laminated Timber、直交集成板のこと。「CLT活用促進に関する関係省庁連絡会議」が設置されるなど、活用促進のため政府を挙げた取り組みが行われている。
  7. *7国土交通省「建設リサイクル推進計画2020 ―「質」を重視するリサイクル―」(2020年9月)
  8. *8国土交通省「建設副産物実態調査」
  9. *9環境省報道発表「水質汚濁に係る環境基準の見直しについて(お知らせ)」及び「水質汚濁に係る環境基準について(2021年10月7日、環境省告示第62号)」
  10. *10環境庁(現:環境省)水質保全局「土壌の汚染に係る環境基準の設定方向(土壌環境保全問題研究会報告書)」(1991年4月)のp.8「3 土壌の汚染に係る環境基準設定の考え方(3)土壌環境基準の設定に当たっての主な論点と留意事項①土壌汚染による環境影響の態様と基準設定に当たり準拠し得る既往知見 イ水質浄化・地下水かん養機能への影響」より一部抜粋し引用
  11. *11中央環境審議会水環境・土壌農薬部会(第5回)資料4-1「中央環境審議会水環境・土壌農薬部会(第3回)での主な御意見及び令和5年度の主な要求事項」
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サステナビリティコンサルティング第1部、第2部03-5281-5282

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